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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第二章 星砕き 魂いつわる 力得て(序列二位との激突)

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36話 そこらへんに落ちてる石でぶん殴れば心の扉は開く(妹力)

 あたし──尾頭風璃は、極々普通の中学生としての日常を過ごしていた。

 朝起きて、ご飯作って兄と一緒に食べて、学校に行って、普段通りに色々して──。

 そんな日々が続いていた。


 食いしん坊な狼の同居人もいないし、異世界で靴を舐めたりもしないし、兄が危険な所へ出掛けたりもしない。

 あの子の定位置だった、リビングのテレビ前には誰もいない。


「あ、映司お兄ちゃんおかえり」

「ただいま」


 兄が帰ってきたので、玄関へお出迎え。

 普通に帰りの挨拶を言われ、その後は二階の部屋に行ってしまった。

 ……この日々に足りないものなんて無いはずだ。


 もう兄は問題行動を起こさないし、気持ち悪い言動をしたりもしない。

 あの子がくる前と変わらない日常。

 たぶん、これでいいはずだ。


 向こうで何があったのかは、ポツポツとだが事情は聞いた。

 兄がどう頑張っても結果は変わらなかっただろうし、あの子も酷い目に合わされているわけでもないし問題ないだろう。

 賑やかだった家の中が、少しだけ静かになって勉強が捗るというものだ。


 日常が戻ってきて、それがずっと続くだけだ。

 兄も、ちょっと身体が疲れているだけだろう。

 今日は食事当番を代わってやるかな。


 そう思い、兄の部屋の前に立った。

 だが、扉をノックする勇気が出ない。

 こんな1動作、どうってことないはずなのに。


 結局、あたしは──その日、1度も顔を合わすことが出来なかった。

 次の日も、おはようとただいまを言っただけで終わった。

 次の日も。

 次の日も。

 次の日も。

 ……その次の日も。


 兄は普通だった。

 そう、普通。

 本当は、分かっていた。


 普通に悔しがって、普通にやるせなくて、普通を装うとしても言葉が出なくて顔を合わせようとしない映司お兄ちゃんの事を。

 人は辛いときに、普通を装ったりしようとする。

 あたしもそうだった。


 だけど、普通を装っているだけで、それは普通では無い。

 本当は悔しいし、やるせないし、心が痛い。

 そんな事はどうしようもない時にやる事だ。


 ──ええい! もう、もどかしい!

 あたしは、他の誰かと違って特別な何かもない、役に立たない人間だ!

 今すぐフリンちゃんを取り戻しに行ったりする、そんなスーパーパワーも無い。

 

 だけど、だけどさ……だからこそ弱い、ただの人間の気持ちが分かる。

 今の無力感に苛まれ、どうする事も出来ない映司お兄ちゃんの気持ちが痛い程分かる。

 強者な他人と比べて、絶対的に劣る自分。


 そうやって勝手に比べて、勝手に泥沼にはまって、勝手に──!

 だから、一言いってやらなければならない。

 無能力な弱い人間で、家族で、ずっと見てきた妹として。


 あたしは、再び二階の映司お兄ちゃんの部屋の前にきていた。

 そして、その扉を開け──開かない。

 珍しく鍵が掛かっていた。


 仕方なくノック。

 ……中にいるはずなのに無反応。

 あたしは、諦めるように一階へ下りた。


 そして外に出て、庭の物置から高さのあるハシゴを持ってくる。


「よいしょっと」


 それを映司お兄ちゃんの部屋の外壁側の──窓まで架けて登り、そこらで拾った石で窓ガラスをぶち破る。

 薄く硬質な物が割れる音──それは普段、耳障りなはずだが、自分でやると意外と胸躍り心地良いものだった。


「うーん、快感♪」


 ガラスが危ないので、土足のまま映司お兄ちゃんの部屋に踏み居る。


「……風璃、なにやっているんだ?」


 部屋の主は怒った風でもなく、驚いた風でもなく、ただ無感情に言葉を発している。


「部屋、開けてくれないから窓から入った」

「そっか」


 ベッドに腰掛けて、そのままの調子で返された。

 正直、後先考えていないバカとでも言われると思ったが、それすらも無いらしい。

 あたしは、気合いと覚悟と共に睨み付けながら、映司お兄ちゃんの前に立った。


 そして──。


「なっ!?」


 ただ抱きしめた。

 お腹のあたりに、おでことか鼻の感触が伝わってくるのが若干こそばゆい。  


「あたしは……妹だから、映司お兄ちゃんの味方だから。頑張れとも、きっぱり忘れろとも言えない。だけど、映司お兄ちゃんがやりたいと思った事を応援するから」


 頭を抱えるようにして抱きしめているが、相手はただ黙っているだけだ。

 あたしも、ただお腹に吐息を感じているだけ。


「無責任な妹で申し訳ないけどさ、ちゃんと見ているからね。普通を装わないで、辛いときは辛い顔をしていいんだよ」


 しばらくした後──。

 ただ、強く抱きしめ返された。

 これが、きっと返事なのだろう。


 何も言いたくない時もあるさ。

 と、その時──鍵の掛かっていたはずのドアが吹き飛び、けたたましくフェリが現れた。


「フリンが捕まったって!? 助けに行くぞ!」


 ……自然と三者の視点が絡み合った。

 抱き合う二人を見て固まるフェリ。

 それを見られたというあたしと映司お兄ちゃん。


 数秒間、無言で固まる。


「こ、ここここ交尾か! これから交尾なのか!?」

「フェリちゃん違うって! どんな勘違い!」

「えーっと、フリンの前では絶対にそういう事を言うなよ。教育に悪いから」


 やっと、いつもの映司お兄ちゃんに戻ったのであった。

 この世界一の妹を心配させるとは、罪なやつだ。

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