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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第二章 星砕き 魂いつわる 力得て(序列二位との激突)

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35話 星をも砕く魔力(相対するは拳なり)

「いや、ワシが出張ってきている時点で既にアウトなのじゃ」


 俺──尾頭映司は、目の前の少女に見覚えがあった。

 確かアダイベルグの温泉で。

 だが、その時とは明らかに違う。


 中学生の風璃より、ちょっと小さいくらいの背丈で、その長い髪と傲岸不遜ごうがんふそんな表情。

 気の緩みまくっていた声はそのままだが、気迫のようなモノは恐ろしい勢いで烈風のように襲い来る。

 自然と鳥肌が立ち、慄然りつぜんとする。


「おや、お主……どこかで見た事があるのじゃ。どうもゾンビ化してから記憶が曖昧で……」

「ああ、辛い物を食べるときは牛乳を用意しておくといいぜ」

「お~、あの時は世話になったのじゃ」


 こんなマヌケな会話をしている最中も、俺は震えが襲ってきていた。

 以前にもこんな雰囲気を感じた事がある。

 フェリが、初対面で一瞬だけ見せた、恐ろしい空気。


「じゃがの、今日は大事な用事故に見逃してやるわけにはいかんのじゃ。見た所、骨がありそうなお主は一歩も引かぬ……戦闘不能くらいにしてやるから、かかってくるのじゃ」


 恩を売っておけば何とかなる相手でも無かったか。

 たぶん、この独特な雰囲気は格上の格上の格上──圧倒的な戦力差の時に感じるものだろう。

 出来れば回避したいところだ。


「なぁ、お前の目的は何だ? 俺としてはやり合うつもりはないし、もしかしたら交渉次第では何とかなる気もするが」


 上手く会話で解決できればいいが。


「そこの魔術師が持っているはずの『巫女の予言』と──」


 よくわからないが、それさえ渡せば……。


「この世界の神であるフリンが欲しいのじゃ」

「交渉決裂だ」

「ふむ? フリンと聞いて表情が恐くなったのじゃ、知り合いかの?」


 今の俺の表情は、鏡では見たくないものだな。

 きっと、広大な山脈に立ち向かう一匹の虫けらみたいな無様なものだろう。

 本能では絶対に勝てないと分かっているが、1%の可能性でもあると信じて立ち向かう蛮勇。


「俺はフリンに頼られた。そして、その手を掴んだ」

「お主、本気なのじゃな?」


 俺の表情と言葉から読み取ったらしく、ソイツは楽しそうに笑った。


「この異世界序列第二位ヨトゥンヘイム、霧の巨人の王スリュムに戦いを挑もうというのじゃな?」


 ソイツ──スリュムは、新しいオモチャを見付けた子供のように、無邪気に、残酷な笑みを浮かべた。

 まだ物理的な距離は十数メートル以上はあるが、その圧倒的な魔力に当てられ、今すぐにでも意識を飛ばされてしまいそうだった。


「ふーむ、ふむふむ。どうやらお主の言うとおり、フリンの加護を得ているようじゃな。それも、馬鹿みたいにその力全てを」


 スリュムは、ちらりと空を見詰める。

 ただのよそ見のようだが、それは俺もよく知っている相手にコンタクトを取ったものだった。


「のう、ユグドラシルよ。下手すると星一つ壊す事になりそうなのじゃ。ここは一つ、頑丈な疑似空間を展開して欲しいのじゃ。頼めるかの?」


 何かを探り探りにするかのように、ポツポツと独り言のように呟く。

 そして、オペレーターの声が俺にも聞こえてきた。


『はい、受理されました。スリュム様と、映司様お二人だけの空間をお作りします』

「ユグドラシルが……」


 俺は、最終手段だと思っていた、味方であるユグドラシルが敵の言う事を聞いているのに愕然としていた。


「ん? 少年──いや、エイジというのか。ユグドラシルが頼みを聞くのがそんなに珍しい事かの? まぁ、こいつは自分が有益だと判断すれば、我々──下位の存在からの頼みでも聞いてくれるのじゃ」


 ……霧の巨人の王ですら、ユグドラシルにとっては下位の存在だと?

 もしかして俺は──。

 底知れぬ恐ろしいものが沸き上がってきた。


 そうこうしている内に、景色は一瞬だけ光に包まれ、元の状態へと戻った。

 ……いや、背後にいたリバーと魔術師がいない。

 本来の世界そっくりな疑似空間というやつなのだろうか。


 草花の緑は残っているが、不思議と生命の息吹は感じられない灰色めいた雰囲気の世界。


「さぁ、エイジ。お主の気が済む程度には付き合ってやるのじゃ。なんせ、お前からフリンを引き離すのじゃからな」

「……やるしか、ないよな」

「そうなのじゃ。ワシとしては、戦いというのは大好きなのじゃ」


 たぶん、ここはユグドラシルが作りだした疑似空間というやつなら、どんなに被害を出しても平気だと考えるべきだろう。

 こうなったらだ……、今までは星を破壊してしまう事を考慮して抑えていた全魔力──ぶつけるしかない。


「後悔……するなよ。スリュム」

「くっはっは! 後悔という言葉は考える奴のする事なのじゃ。戦って勝ち続ければ、欲しい物は全て手に入り、ワシが満足するという単純な道理なのじゃ」


 強さ故の馬鹿という事か。

 俺は、その圧倒的な自信に気圧されていた。

 それを振り払うかのように、全身の魔力を意識する。


 精度は関係無い。

 結果的に、何割かがスリュムに当たりさえすれば良い。

 外れたモノは、星の中心へと突き刺さり、えぐり取り、地殻を維持出来なくなるだろうが関係無い。

 腕、脚、胴、頭、全てから放出させるため、魔力の蛇口のようなものを全開にする。


 手から撃つだけでは足りないので全身からだ。

 それをスリュムに当たるように収束させ、星ごと破壊する。

 たぶん俺も巻き込まれるだろうが、そんな事を気にする余裕は無い。


「ほう、すごいのを撃つつもりなのじゃな。人の身ながら、神の加護を多大に受けし勇者。個人の強さのランクを現す『天上の階位(ヒエラルキア)』でいえば、中級第一位──いや、上級第三位はあるか?」


 良く分からない物差しで測られているが、そんなものを気にしている余裕は無い。

 身体中の魔力を一気に注ぎ、組み立てた雷の極大魔法として全身から放つ。


「霧の巨人の王を星ごと打ち砕け! ハイパーサンダー!」

「なかなか良い名前なのじゃ」


 俺の全身から光の帯が何百本も全方向に放たれ、それが曲線を描きながら全てスリュムに向かっていく。

 だが、余裕の表情のままのスリュム。


「どれ、片腕・・だけ見せてやるのじゃ。全身だと可愛くないからの」


 突如、スリュムの右側の空間が歪み、そこから巨大な五指が伸び、次に手の平、腕が突き進んできた。

 それは、先ほどの巨人よりもずっと大きい……テーブルマウンテンのような片手。

 迫る俺の雷を、一瞬にして、蚊を追い払うかのように空を殴り、削り、打ち消していく。


 空中に浮かぶ片手の──拳風だけで嵐のようなエネルギーを発生させ、俺は立ってもいられない。

 風景自体が動くかのような圧倒的な光景を見たため、もう身体に力を込めていられないというのもあった。


「お主、無茶をするの~。ワシが打ち消さなかったら、お主まで余波で大変な事になっていたのじゃ」


 そう、我が身を賭けた、星をも砕く一撃でさえ余裕を持って対応されてしまった。

 これを完敗と言わずして何と言う。


「お主は天上の階位で上級第三位かもしれんがの、ワシはその二つ上の上級第一位の巨人。二段階違えば傷を負わせる程度もきついのじゃ」


 その通りだった。

 どうやっても傷一つ負わせる事ができないような絶望感。


「それに、その上級第三位の力もフリンのモノ。本来、そのエーテルが得意とするセイズ魔法すら使えず、制御ままならぬ、お主のものではないのじゃ」


 スリュムは空に向かって合図をすると一瞬、空間が歪み、背後にリバーと魔術師が現れた。

 ──元の空間に戻ってきたのだろう。

 既にスリュムの巨大な片手も消えている。


 俺は情けなく、その場に崩れ落ちた。


「さてと──」


 スリュムは、そんな俺を見下して、冷たい視線を投げかけてきている。


「待って! 私は一緒に行くです! だから、もう映司の事を苛めないで!」

「フリン……隠れてろって言ったろ……」


 俺の元へ走ってくるフリン。

 戦闘能力がないため、離れた場所へと待避させていたのだ。

 だが、スリュムの馬鹿でかい声で聞こえてしまったのだろう。


 求めているモノの一つが自分だと。


「ワシは寛大な霧の巨人の王。恩義がある相手と戦って楽しむ事はしても、それ以上はするつもりはないのじゃ。求めているフリンが手に入れば、何も問題は──」

「スリュム……お前、フリンをさらってどうするつもりだよ……」


 フリンにかばわれながらも、俺は精一杯の虚勢を張った。


「ふふふ……よくぞ聞いたのじゃ! ワシは世界の全てを持っておる。権力、名声、力、財宝……だが、唯一足りないモノに気が付いた。それが可愛いモノなのじゃ……」


 ……こいつ何言ってんだ。


「というわけで、可愛いフリンと友達になって、我が宮殿で楽しく遊ぶのじゃ!」

「えーと……何かいかがわしい事の遠回しな言い方とかじゃないの?」

「失敬な! 可愛くままごとをしたり、トランプで遊んだりするのが望みなのじゃ!」


 何だこの馬鹿は……。

 いや、元からのじゃのじゃ言うだけの馬鹿だったが、その強さに気圧されてしまっていただけだ。


「失礼します、尾頭映司様」


 どこからか、執事とメイドの格好をした二人が現れた。

 スリュムに一礼をしていたため、人間であるかは怪しい。


「私は執事で、スリュム様のお世話をさせて頂いております。スリュム様は大変お馬鹿でいらっしゃるのですが、可愛いモノに対しては、それ相応の対応をする事がほとんどです」

「は、はぁ」


 ヤケに丁寧な口調で言われてしまったので、とりあえず相づちを打っておく。


「なので私共も、きちんとフリン様のお世話をさせて頂き、スリュム様が馬鹿をしすぎないように見張っておくので安心してくださいませ」


 まぁ、敗北して、速攻で口にも出せないような結果になるよりはマシなのだろうか。

 今の所、大した怪我も無しで済んでいるし。


「そうか、その顔は納得してくれたようなのじゃな。では、もう会えないと思うから別れの挨拶でもするといいのじゃ」


 俺は、その言葉の意味が分からなかった。


「うん? 言ってなかったのじゃ? フリンは、我が宮殿にずっと住むのじゃ」

「映司……さよならなのです」


 別れというのはいつも唐突だ。

 俺に付けられていた、フリンの加護つながりは解かれた。




【異世界エーデルランド】

【ユニット離脱:フリン】


【ステータス更新】

 尾頭映司。人間。17歳。

 職業:高校生

 HP:5

 MP:0

 筋力:2

 器用:2

 頑強:1

 俊敏:2

 知性:5

 精神:5

 CHR:99999イuイ,イkイiイ楷幹`イbイsイ+イuイuイ$イdイfイ2イ佐hイhイiイ楷佐€イ


 スキル:【シンカ:消費コスト──アナタノタイセツナモノ】

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