32話 エルフを狩れない者達(耳長不在のため)
俺──尾頭映司は頭を抱えていた。
謎の殺人事件が迷宮入りしそうになったと思ったら、今度はゾンビが登場し、猫耳を付けた戦車を拾ってきて、巨人が進撃してきているのだ。
どうなっているのだ、この異世界は……。
いや、半分以上はうちの幼女様──フリンが悪いんだが。
「家が……家が……」
何か、リバーの仲間の探偵魔術少女も、眼にハイライト無しの状態でへたり込み続けている。
きっと、同じ魔術師として研究室とかに興味があったのだろう。
そういえば、どこかで見た事がある気も……いや、気のせいか。
「エイジ。食べるのは諦めるから、この猫飼っていいか?」
フェリが、ソワソワとした表情で聞いてくる。
むこうの中では、拾ってきた猫を親に見せているシチュエーションなのだろうか。
食料扱いからの切り替えが早過ぎやしないか。
いや、そもそもだ
どこからどう見ても、日本の最新型戦車な10式である。
深緑とカーキの迷彩塗装がされた、頑強さを感じさせながらも、軽妙な動きが出来るボディ。
真ん中に付いた主砲や、上に載っている重機関銃などが男子的に非常に格好良い。
──だが、その天辺には猫耳がついて、にゃあにゃあと鳴く猫扱いされている。
「いけません! その子の餌とかどうするんですか! ちゃんと面倒とかメンテとか見られるんですか!」
ちょっと俺の口調は変だが、ガツンと言ってやらなければならない。
ペットとは、軽々しく扱ってはいけないものなのだ。
「が、がんばるから! 石油とか掘り当てて、ドヴェルグの機械技師とか常駐させるから!」
「この子……本気で……」
「映司、いつまでやってるんです。ちなみにドヴェルグとは、物作りが得意な種族です。おじいさまも色々と作ってもらっていました」
いかんいかん、フリンに突っ込まれてしまった。
娘を叱るパパさんプレイをしている場合ではなかった。
「ところで、あの進撃してくる巨人はどうしてこんな事になっているんだ?」
「ふふ、映司にも分かるように説明しましょう!」
この幼女、原因の癖に上から目線で偉そうである。
「ベルグから、なりたい自分設計図を渡されて、それを元に作ったのがあの『エンドオブザ巨人』です!」
「絶対に、また影響されてるよなアイツ……」
フリンが持っていた設計図には、巨大化ベルグをさらに大きくして、何か量産機っぽくした緑色のバージョンが描かれていた。
無駄に内部の機械っぽいところが製図されているので、たぶん生身ではなく、なりたいロボット的なものなのだろう。
「それを十数体配置して遊んでいたら、急にのじゃのじゃ喋るゾンビっぽいモンスターが現れて……」
のじゃ? 何か記憶の片隅に……。
「『ワシは霧の巨人の王なのじゃ。我が同胞達よ、共に行くのじゃ!!』とか腐りかけっぽい脳みそな喋り方をしたら、エンドオブザ巨人達が従っちゃって……」
のじゃで、知能指数低くて、ゾンビで、霧の巨人の王、ねーな。
うん。
「よし、ぶち殺そう」
俺は即決した。
「あ、言い直す。──ひと狩り行こうぜ!」
パープー。
何故か、気の抜ける不思議な音が響いた。
* * * * * * * *
二手から進軍してくる巨人達に対抗するため、パーティー分けが行われた。
何故か上限人数は4人だ。
この町の不思議なしきたりで、5人からだと縁起が悪いという事らしく、それに従わなければならない。
「にゃんにゃん♪」
あと、何故か幼女とか猫耳はこのセリフを言わなければいけないらしい。
もう何故かという所に突っ込みが追い付かないが、幼女であるフリンが言うと可愛らしいのでオーケーという事にしておこう。
「では、こちらのパーティーはリバーサイド=リング、その仲間の魔術師、ニャンターのワタシ、ワタシのペットの猫という事でいいだろうか? あ、にゃんにゃん♪」
狼娘フェリに突っ込み所があるが、とりあえず討伐へ急ぐためにスルーした。
「ああ、こっちは俺、フリン、新人冒険者さんと、熟練冒険者さんの4人で」
「ひぃっ、何で俺達が!?」
フリンの話に出てきた冒険者2人。
あれが元凶なのだから、ちょっと現実を見せてお灸を据えるために連れてきた。
「いやぁ、この町で一番強い冒険者さんコンビに来て貰えるなんて心強いですよ~」
「そ、そうか? はは!」
適当に褒めて、その気にさせて現地までスムーズに付いてきてもらおう。
「では出発にゃんにゃん!」
俺達2パーティーは巨人討伐へと向かった。
「あのあの、映司が言うのは変です」
「うん、気持ち悪いぞ」
──フリンとフェリから、何故か俺だけに突っ込みが入った。




