30話 ガバガバ密室殺人事件(物理的解決編)
「お集まり頂いた皆さんに、僕の推理ショーを披露しましょう」
何だろう……ノリとは恐ろしいものだ。
自分でも探偵っぽく振る舞ってしまっている。
ここで黒いシルエットの人物が反応すれば、もっとそれらしくなるが……それも叶わない。
「僕っ娘ちゃんが何かするみたいだぞ!」
「お、俺! 兵士になって一番ワクワクしてる!」
「可愛い賢い探偵ちゃーん!」
この兵士達のノリは勘弁だ。
ローブ姿の時は一度もされたことのない反応……服装でこうも変わるとは。
やはりこんな風に扱われるのは苦手なので、この異世界アイドル衣装は特別な時にだけ着よう……うん。
さぁ、気を取り直して。
「まずは、密室の謎です」
「出入り口はしばらく魔術キーが使われた形跡が無かったし、物理的にも、魔力的にも家自体に何かされた形跡がないのに、中から鍵がかかっていた。そこはどうやって家に入ったんだ?」
そう、確かに家に何かされた形跡は無かった。
だが──。
「この魔術師シィ=ルヴァーの家は、最初から鍵──魔術キーがかかっていなかったのです」
「な、なんだってー!」
「とある理由によって開け放たれていて、堂々と正面から入って、その後で中から物理鍵をかけたのです」
ふふ、決まった。
これは完璧な推理だ。
何せ、この僕が鍵をかけていなかったのを思い出したからだ!
「あ、でも~、窓ガラスを壊して、中で修復してからはめ直せば密室できちゃうんじゃないですか?」
「え?」
「中でなら魔法使ってもわからないですし、そもそも最初から開いてたなら密室でも何でもないよね」
「い、いや、それは」
「ん~。エイジがやってるみたいに転移陣でも途中に形跡を残さずに行けちゃうよね」
「そういえば、そうだな」
「あ、あの、ちょっと」
「謎の聖者様の力でも──」
……まずい。
このエーデルランドの中の魔術だけでも網羅が難しいのに、尾頭映司が使うような想定外の方法も、異邦人が流入している今はいくらでもあるのだ。
密室の定義というのもよくわからない……。
どうしよう、どうしよう、どうしよう……。
あわあわと思考と身体が別々に動いてしまいそうになる。
そ、そうだ。
とりあえず、次の推理を披露すれば何とかなるかも知れない。
「まだ僕の推理ショーは終わっていません。どうして、誰かを呼び込むかのように鍵が開いていたのか、研究所に置いてあった物、消えた死体……」
「ふむ」
「それは、魔術師シィ=ルヴァーがゾンビを作るために用意してあったものです!」
「な、なんだってー!」
全員の驚いた顔。
よし、いけそうな気がする!
「長期に家を空ける際、何か家賃とか勿体ないな~と思い、家に侵入する盗賊か何かを……製造したゾンビパウダーの実験台にしてみたのです!」
「随分と具体的だな」
「……気のせいです」
尾頭映司の視線から目を逸らす。
「まず、家の鍵を開けておいて生身の実験材料を誘い込みます。そして、部屋の中を物色するとゾンビパウダーの罠にかかるようにしておく」
「なるほど、確かにそれならこの状況になる」
「ちなみにゾンビに部屋の中を荒らされても面倒なので、本人が帰宅するために扉を開けた際の、新鮮な空気を吸ってから覚醒するように調整しておきました」
「おきました?」
「調整して……ゾンビが起きました」
決まった。
僕の推理は完璧だ。
「それで、証拠は?」
「はぇ?」
「いや、つじつまは合うかも知れないけど、客観的な証拠が無いと推理としては……」
しまった……。
僕は真実を知っているから納得していたのだ。
ええと……証拠……証人……。
……だ、ダメだ。
魔術とか何でもありのこの世界。
そんな確定要素の強い証明なんて出来るはずがない。
そもそも、魔術用の外壁だって、どこかで気付かれないように再張り替え出来る技術すら出来ているかもしれない、日進月歩の世界なのだ。
「あ、あわわわ……」
「勇者リバーサイド=リングの仲間ちゃん、何かパニクってるぞ……」
もーダメダァー!
逆さから読んでもダメダー!
い、いいいいい今から正直に言って何とかなるだろうか。
でも、そんな事をしたらリバーに物凄い嫌われそうだ。
どうしよう……。
「ふふふ……そんなの、張本人のゾンビさんに直接聞けばいいんです!」
「お、お前は──」
いつの間にか現れた、金髪ツインテールの幼い女の子。
「あれ、フリンどうしてここに?」
「それはですね、フェリ……」
幼い女の子──フリンはインテリっぽく、人差し指を1本立てる謎のポーズをした。
「私が作った巨大モンスター軍団を、のじゃのじゃ喋るゾンビに奪われてしまったので泣きつきに来たんです!」
「……うん、正直なのは良いと思うぞ。フリン」
呆れ果てている表情の尾頭映司は、フリンの頭をガシガシと撫でる。
それを居心地悪そうに受けているのが微笑ましい。
「それじゃあ、ゾンビを捕まえて白状させれば解決?」
「まぁ、そうだなフェリ」
「りょーかい。あと危ないから、この家は破壊しておくね」
──え?
兵士ら、全員家の外へ歩いて行く。
僕も、リバーに手を引かれて外へ。
「火でいいかな。ワタシ得意だし」
後の事はあまり覚えていない。
ただ、ごうごうと燃えさかる炎が、僕の家を赤く染める光景だけが目に焼き付いている。
途中、研究室の何かに引火して爆発オチになっていた気もする。
「あ、あはは……」
「この娘、大丈夫か……何かレイプ目になってるぞ」




