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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
最終章 主神が消えた日

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144話 代償行為(フリップフロップ)

「さてと、これであらかた倒したね」


 空に浮かぶ巨大転移陣から一気に出てきた疑似天使達は、大半がフリンによって殲滅され、残りのもワタシがチマチマと潰した。


「うーん、でもこれを塞がないと解決にはならない気がするです」


 これだけ大きい転移陣をどうにかする方法。

 一つは時間による自然消滅があるけど……これは待つのが面倒くさい。

 後はユグドラシルに頼んで消してもらうとか……は、今回は聞く耳持たずを貫いているからダメっぽい。

 最後の手段としては──。


「壊しちゃおうか!」

「ですね!」


 といっても、ワタシの戦闘スタイル的には魔法が不得意で、直接の肉弾戦。

 魔法自体を破壊するというのにはあまり向いていない。

 フリンは魔法を使えるが、まだ不器用だし、威力も不安である。


「というわけで、ヴィーザル! 後は任せた!」

「これで解決です!」


 適材適所である。

 ヴィーザルは、たぶんワタシと同じくらい強くて、色々と器用な部分がある。

 昔から、頼めば大体の事はこなしてくれるイメージだ。


「はは、わかりました。でも、その前にエーデルランドの住人がまだ戦っているのでは?」

「あ、そうか。風璃とオタル達が街を守ってるんだった」

「意外と余裕そうでしたが、万が一と言う事もありますから。そちらを先にしましょうか」


 ワタシは頷いた。

 その瞬間、周辺をエーテルが覆った。

 転移魔法の感覚。


 ヴィーザルからのモノらしかったので、抗わずに身を任せる。

 その気になれば転移拒否も出来るが、それをする理由が無い。


「私はまだ転移魔法の許可が下りないのに、ヴィーザルはすごいです」

「ユグドラシルに愛されているのかもしれませんね」


 そんなフリンとヴィーザルの冗談めいたやり取りを聞いていると、周囲の景色が変わった。

 大穴が空いた大地と、その周辺で戦う人間達と疑似天使。

 ──どうやらワタシ達は転移したらしい。


* * * * * * * *


「ここは人間側の陣地と言ったところでしょうか。ええと、確か彼女は映司の家で見かけた──」


 ヴィーザルは、多くの人の中から風璃とオタルを見つけたようだ。

 それにしても、いつの間に映司と呼び捨てにするようになったのだろうか。


「うわっ、いきなりフェリちゃんやフリンちゃん、ヴィーザルちゃんが現れた!」


 巨人族の通信装置などが野外に設置されていて、いくつもの宿泊テントや簡易医療施設なども見える場所。

 たぶん前線から少し離れたこの場所で指示などを出すのだろう。

 そこで、こちらを見つけた風璃がいきなり驚きの声を上げたのだ。


「ヴィーザル……ちゃん?」


 呼び捨てを超えたフレンドリーさである。


「はは、このヴィーザルちゃんと仲間達が参上ですよ」

「風璃! 私達がきたからには、もう安心です!」


 まんざらでも無いヴィーザルと、えっへんと胸を張るフリン。


「ようこそいらっしゃいました。こちら負傷者はいますが、死者はゼロです」


 ぺこりとお辞儀をして、いつもの冷静さのオタル。

 ワタシはその報告を聞いて改めて安心した。


「やはり、人間は可能性の塊だな。間に合って本当に良かった」

「あ~、フェリちゃん。出来れば、まだ戦ってる最中だからね……」

「おっと、そうか。そうだな」


 ワタシは戦場に赴こうと方向を変え──。


「いや、それには及びませんよ。フェンリル」


 ヴィーザルが、ワタシを引き留めた。

 抱えていた傷だらけのシィをそこらへんの負傷者用ベッドに寝かせてから、ゆっくりとこちらを見据えて──静かに笑った。


 そう、いつものように笑った。


「もう諦めたので、疑似天使は一旦停止させましょう」

「ん?」


 何か言葉がおかしかった。

 この言い方では、まるで──。


『司令室、司令室! 急に疑似天使達が動かなくなりました! これは勝ったという事なのでしょうか!?』


 設置されている通信機から、前線の声らしきものが入ってくる。

 ヴィーザルの宣言通り、本当に疑似天使が止まったらしい。

 続いて歓声。

 だが、それを聞いていたこちら側は、静まりかえっていた。

 ヴィーザルの次の一言を待つかのように。

 

「まさか一人も死なないとは思いませんでしたよ。本当だったらオタル、あなたが一番効率よく動いてくれて、街から街への防戦一方で耐えてながら、エーデルランドの絶望を高めてくれると思っていたのに。買いかぶりすぎましたかね?」


 ワタシは、それが誰の言葉か分からなかった。

 でも、それは──。


「ヴィーザルから……いえ、私から離れてください、風璃様。あなただけは死んでも守ります」


 オタルが、風璃を遠ざける。

 ヴィーザルから、かばうように。


 そんなはずはない、ヴィーザルは良い神様だ。

 そんなはずはないのだ……。


「そうか、じゃあ私をここまで煩わせたご褒美だ。栄誉ある死を授けよう」


 ヴィーザルは、オタルの心臓辺りを指差した。


「や、やめっ」


 制止しようとしたのは誰だっただろうか。

 あまりの事で動けなかったワタシだろうか。

 それとも、眼前の光景に目を見開き、瞳孔を広げきった風璃だろうか。


「オタ……ル?」


 身体の中央に大きな穴が空いた少女。

 糸が切れたかのように崩れ落ちた。

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