135話 パワーアップに特訓は必須(見せられないよ!)
フレイヤの宮殿から旅立ったワタシ達。
「映司と別れてから、もう二年の修行になりますか……。3D2Yとかやっちゃう的に刻の流れは速いです」
「いや、フリン。そんなに経ってないから。腹時計で計った感じだと、地球の時間で数週間くらい」
「まじですか!?」
謎の言葉が混じっていたのは放置した。
現在、フレイと合流するためにその宮殿へと向かっていた。
ワタシは鮮血蹄馬にまたがり、フリンは──フレイヤから貸し与えてもらった猫が牽く馬車……いや、猫車だろうか。
それに乗っている。
端から見たら虐待気味の地獄絵図だが、意外とパワフルに二匹の猫が突き進んでいる。
ニャーニャー鳴くのがちょっと、うるさいくらいだろうか。
ワタシ達は五感がそれなりなので併走中でも会話出来るが、人間辺りだと色々と苦労しそうだ。
「私の体感時間的には、確かに二年くらいは……」
「そういえば、フリンはどんな修行をしていたんだ?」
ワタシは馬上で、フレイヤの宮殿で作ってもらった料理を食べつつ質問をしてみた。
それはそうとこの料理だ。
地球から持ってきた万能道具であるタッパーに色々と詰めてもらったが、そんなに美味しくないのが難点。
やはり普段から料理を必要としない神々では競争による切磋琢磨が足りない。
「よくぞ聞いてくれました! ええと、オリハルコンって知っていますか?」
「食事を必要とする種族でなければ──……ん、ああ。オリハルコン、オリハルコンか。ワタシは詳しいぞ。すごい硬い金属で、食べても美味しくない」
実際に食べたが、まずニオイでダメだと思う。
「味の知識はあの……そのですね……。とにかく、それを使って修行しましたです!」
「フレイヤといえば、物を媒体としてエーテルを操作するセイズ魔法が有名。つまり、ブリシンガメンを使ってオリハルコンを破壊する修行?」
「いえ、ブリシンガメンに私を弾として詰めて、オリハルコンの分厚い壁を破壊する修行です!」
聞き間違いだろうか。
「ごめん、フリン。もう一度お願い」
「私が弾になって、オリハルコンをぶち壊す修行です!」
「……人間大砲?」
それしか想像できなかった。
地球で見たサーカスというところでは、輪っかをくぐり抜けたり、薄紙のようなものを貫通しているだけだったが。
「エーテルのためのイメージを鍛えると同時に、私の身体も鍛える……一石二鳥です」
フレイヤは孫に何をさせているのだろうか。
「地球から持ち帰った特撮を一緒に見てたら、この修行を思いついたらしいです! やっぱり特撮はすごいです!」
……そういう方向性の家族らしい。
そういえば初代オーディンも、新しい物好きな知識欲馬鹿だとお父様から聞いたことがあった。
ちょっと納得である。
「けど、不思議な事に、発射後の記憶が曖昧で……何か時間感覚もおかしくなっているような」
「き、きっとフレイヤが時間魔法を使ったんじゃないかな」
「そうかもしれないですね! 何か途中から、誰かに見られたらやばい秘密特訓という事で、私に頭陀袋がかぶせられましたし!」
「うん……確かに見せられないと思う。ヒト様に」
これはきっと特撮というフィクション……たぶん実際は中身に女の子は入っていないし、人間種族は真似をしちゃいけない。
フェリとの約束。
「毎回、意識を取り戻すと着てる服が新品になってるんですよね……あれが不思議でした」
「世の中には知らない方が良い事があるかもしれない。エイジも、赤いのは洗濯で落ちにくいと言っていた」
「そんなこんなで、最低限はブリシンガメンを理解し、扱えるようになりました!」
フリンの歳で神器を扱えるようになるとは驚きだ。
やはりオーディンとフレイヤの子である父親と、人間である──あの母親……神言で『終わりの名を冠する者』の血筋だろうか。
「エーテル消耗しきって身体が動かない時は、机で勉強とかも真面目にしましたし! 相性が良かったらしく、映司から教えてもらった魔法もきちんと習熟しました!」
「ちゃんと頑張っていたんだね、フリン」
「はいです! そういえば、フェリは神の国に来てから、どうしていましたか?」
……ヴィージの森でのことを思い出す。
「森で野宿して、食べ物探して、ゴロゴロして、川の水を飲んで、ゴロゴロして、木の皮食べて、ゴロゴロして、雑草を食べて、ゴロゴロして……」
「何か普段と変わりませんね……」
「い、いや。普段はもっと! もっとだな……えーっと。……た、食べてるものが違う、かな」
「そうですね、地球では映司の手作り料理がありましたね……」
映司の心のこもった料理、懐かしい……。
ワタシは少しだけ泣きそうになりながら、タッパーの中の不味い料理を平らげる。
『狼の嬢ちゃん。もうすぐ目的地に到着するから、その可愛い口を拭いておきな』
──突然、フリンの猫車の猫は二本足で走り出し、ワタシの方へ真っ白いハンカチーフを投げてきた。
そのフォームは華麗で、まるでマジシャンがカードを投げるように。
走ってる最中の風圧とかどうなっているのかは分からない。
『それに表情も曇らせていちゃ、綺麗な顔が台無しだぜ』
渋みのある低い声と共にウインクをされた。
もう一度確認する、猫だ。
「……何かフレイヤが貸してくれたそれ、乗り物の動物まですごいね」
「お婆ちゃんの愛人? さんらしいです! 宮殿の戦乙女さん達も全員それらしいですし!」
愛人というものがワタシにも分からないが、とりあえず……すごいというのは分かった。
分からないが、分かった。




