133話 最高神フレイヤ(宝石の庭、黄金の扉)
「これがフレイヤの宮殿か~」
手紙でフリンを拾ってから向かうようにとあったので、馬を走らせて少しだけ遠回りをして、フレイヤの宮殿前へ到着した。
外見的には、三角の塔が乱雑に組み合わさったようなシルエットで、増築をひたすら繰り返す無計画な城のようにも見える。
大きさとしては、エーデルランド基準の大きな貴族館の敷地数個分と言ったところだろうか。
初代オーディンの所有するアレと酷似している。
「ええと、そこの門番。すまないがワタシは──」
黄金と宝石で彩られた門の守りについている戦乙女。
ワタシは、彼女に向かって躊躇しつつ名乗ろうとした。
また名前で避けられるのでは無いかとビクビクしながら。
だが──。
「フェリ様でいらっしゃいますね、お待ちしておりました。馬はお預かりいたします。どうぞこちらへ」
普通に歓迎されてしまった。
しかも、フェンリルではなく、フェリとしてだ。
「あ、うん……ありがとう」
気が緩み、ついつい普通のフェリとして振る舞ってしまう。
「聞いていた通り、お美しく、強くしなやかそうでいて、とてもお優しそうな感じだったのですぐ分かりました」
「そんな事……そんな事を言われるのは珍しいなぁ……」
相手の言葉に照れてしまいながら、門の奥へと案内される。
宝石の花で彩られた庭園を抜け、黄金の玄関扉まで辿り着く。
ここまでキラキラしたものが多いと普通は嫌みに思えるのだろうが、ここにあるものは違った。
金銭で手に入れたのでは無く、全てこの宮殿に趣向を合わせて自ら創ったものだからだ。
黄金や宝石ですら生み出し、美、豊穣、セイズ魔法、生と死すら司る最高神の一柱──フレイヤ。
「こちらでございます」
その宮殿、フォールクヴァングの扉が開かれる。
「あ……」
「え……」
中にいたフレイヤと目が合う。
半裸の戦乙女に素足を舐めさせ、ドSな表情。
「ちょっと、お客さんが来たからストップで……」
「フレイヤ様、もっと、もっとおみ足を、お情けを……」
困った表情になったフレイヤと、ストップしない半裸の戦乙女。
ワタシの隣にいる、門番をしていた戦乙女は苦笑いをして、扉を閉めて仕切り直した。
「少々お待ちください……ね……!」
「う、うん」
* * * * * * * *
──数分後。
「こちらでございますテイクツー」
その宮殿、フォールクヴァングの扉が開かれる。
「ようこそ、終焉をもたらす神殺し──フェンリル!」
凜々しく妖しい女性の声がするも、その広い玄関フロアには誰もいない。
視線を彷徨わせていると、一匹の鷹が華麗に舞い降りた。
その鷹は大きな翼をひるがえすと、瞬間的に羽衣をまとった金色の髪の女神──フレイヤへと変化した。
「──いえ、希望をもたらす神殺しとなったフェリよ!」
芝居がかっているように見えるのは、ちょっと前に見た……たぶん幻覚があったからだろうか。
それとも舞台女優のように背が高く、スタイルも良く、女性らしい強さと美しさを兼ね備えた、正に黄金のような外見だからだろうか。
とりあえず、疑問があったので聞いておくことにした。
「足から美味しいダシでも出ているの?」
あんなに美味しそうに足を舐めていたのだから、そうとしか思えない。
風璃やフリンも、話に聞くと貴族達から足を舐められたと聞くし、何か独り占めにしたい味でもあるのだろう。
「っ~~~それは、ええとぉ~……」
フレイヤの外見は20代と言った感じだが、まるで女学生のように顔を真っ赤にしてアタフタと恥ずかしがっている。
やはり何か美味しさの秘密が──。
「そ、そうだ。フェリちゃん! いつも孫がお世話になっているし、一緒にご飯でも食べましょうか! フリンもまだ寝ているしぃ~っ!」
いきなりフレイヤが柔和になった。
たぶんエイジなら、外見若くて可愛いお婆ちゃんとでも表現するのだろうか。
「頂きます!」




