128話 巫女の予言(その6)
『正気を取り戻したか、オウズよ』
「ん……ここはシィの地下室か」
狭苦しく、怪しい雰囲気のあの場所に戻ってきていた。
「……って、いつの間にグングニル。お前を持っているんだ」
『お主が呼んだのじゃろう……』
俺の今の状態は、血が出るほどにグングニルを握りしめ、ありったけのエーテルを込めた状態で投擲準備の態勢。
このまま槍投げを実行したら、一万本の光がターゲット指定されていない状態で飛び交うことになるだろう。
たぶん一瞬でどこかの異世界まで辿り着き、魂を喰らい尽くして戻ってくる。
「ええと、俺は何をしていた?」
『儂を突然呼び出して、絶叫しながらこの状態になって、ピタッと意識を失って止まった』
「お前の主人、変人だな!」
『オウズ……現実逃避したくなりたくもなろうが、お主じゃ。変態なのじゃ』
そうです、俺です。
本当にツッコミありがとうございました。
とりあえず、グングニルを安全な状態まで戻し、そこらへんに立て掛けた。
「確かシィから色々聞いて、三度目の巫女の予言だかの記憶が逆流して、何か成長したフリンがいる空間で落ち着きを取り戻した感じか……」
『お主のエーテルから、記憶が伝わってきたが災難じゃったの。どうやら儂も大罪人……いや、大罪槍かの』
たぶん、同じエーテルを共有することによって、その強烈な記憶も同期したのだろう。
『それにしても、あのお方と関わり合いがあったとはのぉ……。これで納得じゃ、お主の運命が評価されている意味がの』
「あのお方って、風璃と同じ年齢くらいに育ったフリンの事か?」
『儂達はあの方のご意志を尊重するのみ』
これは本人から聞けって事か?
まぁ、成長したフリンに、いつか覚えていたらまた聞けばいいか。
もうあのバージョンと話したのも二度目だし、三度目もあるだろう。
ん? ……今のが二度目? 初めてのはずだろう。
何か引っかかる。
さっきの事をトリガーに、色々と記憶がぼんやりと……。
いや、それよりもだ。
「ところで、グングニルは召喚──つまり転移でここにきたのか?」
『お主……召喚と転移の違いもわからぬのか』
「サーセン。空間魔法全般、ユグドラシルの管理下に置かれてるって聞いたから、なんでここにグングニルがきてるのかなって」
現状、転移陣などはユグドラシルの原因不明の封鎖のため、俺は使えない状態だ。
それなのに、グングニルは空間を超えて手元にやってきた事になる。
『ユグドラシル経由の空間魔法──それは自由度が高い、最強とも言える魔法の一つ。それに比べ、召喚魔法というものは不便。自由度が恐ろしく低い』
「自由度の違い?」
『召喚は、呼び出す側と呼び出される側が事前に同意や魔法の下準備を済ませていて、目の前にしか呼べないという制限があるのじゃ』
「目の前……目の前って事は、背中がかゆくなったからって、背後にグングニルを呼び出したりは出来ないのか?」
『……背後くらいなら、まぁ』
孫の手扱いされたグングニルは、急にテンションが下がったようである。
……しまった、何かすげぇ適当な事で話の流れを止めてしまった。
「周囲って事か! 納得した! 続きをよろしく!」
『納得のポイントが儂には分からんが……。つまり、それだけ同意、準備、制限などがあれば、ユグドラシルに頼らずとも使える。この安定性が高いという事で、召喚という不便なシロモノが廃れていない理由じゃの』
「逆に言えば、ユグドラシルに頼って使う空間魔法は、相手が同意していなくても、準備無しに、無制限に発動できるというわけか……」
時間魔法も似たようなものだとしたら、その両方が使えるクロノスさんというのはどれほどヤバい存在か何となく分かってきた。
『一応、制限はあるがのぉ。ユグドラシルが許可をくれる案件か、もしくはユグドラシルに命令できる立場か──』
俺はランドグリーズを召喚しようとしたが、それは発動せずに終わった。
──考えたくは無かったが、やはり今回の事を引き起こしたのは、想像したくは無いがそういう事なのだろう。
『ところでお主の記憶を覗き見るに……呪われし魔術師の録画が、かなり待たされているようじゃが』
「……シィの事、すっかり忘れていた」




