121話 戦は兵のみで完成せず(土のプロフェッショナル)
孤児院から移動して、職人街へと辿り着いた。
イーヴァルディの息子も横に付いてきているが、舌打ちの10連コンボを決めそうな勢いで非常にウザい。
「チッ、このオレ様が何で……チッ!」
「カノちゃんがいなくなった途端にこの態度、潔いくらいに小物臭がする……」
「っさいわオズエイジ妹が! 本来なら、お前みたいな小娘なんぞなぁ、オレ様の権力で屈服させてやるのなんて簡単なん──」
なるほど、そういう感じに屈服させるのが良いのか。
「今ね、ランちゃん──戦乙女ランドグリーズの鎧を着てるの。トゲトゲメイス、すぐ出せるよ?」
カノちゃんの弾けるような笑顔を思い出せるように、優しい笑みを浮かべてあげた。
「……簡単に。そう、簡単に依頼をこなしてやろうですます、はい。カザリ様」
相手の思考に合わせているカノちゃんは実に効率的という事が分かった。
そんなくだらないやり取りの時間で、職人街の中にある一つの建物へと到着した。
たぶん工房と呼ぶのだろうか。
搬入路も兼ねた大きな入り口から出迎えてくれたのは、鉄や革のニオイを染みつかせた面々。
「おう、異邦人の娘。やっときたか」
「やっほ~、頭領のおじちゃん達元気~?」
先に使いをやって、職人街の主要な人物をここに集めておいたのだ。
石造りの室内はある程度の広さがあるはずだが、職人の頭領達は無駄に体格が良いのが揃っており、狭さを感じさせる。
何か冒険者ギルドと既視感がある……。
まぁ、こちらは顔馴染みが多いので、そこまで怖くは無いが。
懐かしい革職人のおっちゃんも見える。
「風璃よ。急を要するようなので、単刀直入に言うぞ」
「はい、革のおっちゃんどうぞ」
「この、先に送られてきた仕様書の落とし穴を作るのは無理だ」
あたしが、オタルちゃんからの要望をまとめて送っておいた、落とし穴の大雑把な仕様書。
1:最低1000体を落とせる大規模な物。
2:同時に落とせる。
3:穴の中には疑似天使に有効な物を。針などは陶器の肌に通りにくいので不可。
※期限は輸送や設置を含めて1日。
「うーん、無理っぽい?」
あたしは軽く聞き返した。
すると、頭領達は大きな身体を震わせながら抗議。
「んなの無理に決まってるだろ! まず、どうやってそんな巨大な穴を掘るんだ! ……いいか? それにただの落とし穴じゃなく、同時に綺麗に落とせる落とし穴ってのは難しいぞ。穴の上に網や板でも乗っけとけばいいってもんでもねぇ」
「ふむふむ~」
「それにだ、そんな装置も作れたとして、プラスで穴の底にダメージ与える何かと一緒に運ぶんだろう? どんだけの規模になると思ってるんだ……」
「それを一日で~」
あたしのふんわりな調子に、棟梁達は肩をがっくりと落とした。
「だからだな、無理って──」
「いや、このオレ様、イーヴァルディの息子様がいれば可能だ。人手的な意味で期限がちと怪しいが」
後ろで黙って聞いていたイーヴァルディの息子が前に出てくる。
「ど、どうやってだよ」
頭領達の注目が、その小さな男の身体に集められる。
「穴は、進路上にクレーターがあるのでそれを利用して拡張する。ここの土の性質なら容易に掘れる」
映司お兄ちゃんと、フェリちゃんがやりあった時に出来たアレである。
「落とし穴を綺麗に落とすために、中に複雑な爆破式の装置。これはここの職人達が協力すればいけない事もない。オートでは無い、ハンドメイドの汎用性があればこそだな」
「お、俺達全職人が協力か……。でもよ、そんなものは運ぶのに適してねーんじゃ。かぶせる物や、疑似天使とやらに通じる仕組みも底に敷かないといけないんだろ?」
「爆破装置は、現地組み立て式、その他大部分も付近の森林等から現地素材調達で加工調合、かぶせるものは……魔術師が頭数用意できたので土魔法で何とかしてもらう」
頭領達は、突拍子も無いがそれならいけるかも知れねぇ……と思案し始めた。
「オレ様はドヴェルグ、土のプロだ! 任せろ!」
どや顔でふんぞり返るイーヴァルディの息子。
やはり、性格はあれだが、物作りに関しては優秀なようだ。
「最後の、疑似天使に有効なものだが──まぁ、ここに備蓄されているアレを使えば運搬も容易で、翼を奪う事も魔力を通しやすくも出来るだろう……使いたくは無いが」
「あ~、もしかして……」
思い出したくないが、舌が覚えている。




