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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
最終章 主神が消えた日

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120話 大体のゲームでフライパンは武器(鈍器)

 神々に反逆するための準備が始まった。

 オタルちゃんは今まで通り全体の指揮、シィちゃんとリバーさんは特殊任務の準備をするとか。

 結果、お飾りのあたしは手持ちぶさたになってしまった。


 ランちゃんは鎧状態で黙ったままだが、あの酒場の木机を砕いた力。

 明らかに戦う力を有している。

 映司お兄ちゃんと離れてしまって力が無くなったというのは、嘘だというのは分かったが、何か理由でもあるのだろうか。


 それを差し置いても、少しは戦力の足しになるかも知れない……と思って、戦闘への参加を申し出たが──。


「オズカザリ、あなただけは絶対に守らなければならない。このエーデルランド……いえ、異世界序列全てのキーとなっている状態なのだから」


 と、シィさんに大げさに言われて却下されてしまった。

 他にも神々が相手と言い切った事や、他の異世界がどうなっているのか色々聞きたかったが、その険しく無理をしているような表情で特殊任務とやらの準備に追われている姿を見ると何も言えなくなった。

 情報を出せない理由があるかもしれないし、仕方なく裏方に戻る事にした。


 偵察隊からの連絡では、街への到達は二日。

 シィちゃんが連れてきた戦力による、新たな作戦をオタルちゃんが提案。

 その作戦のリミットがあと1日半と言ったところだった。


「敵を落とし穴に落として、シィちゃんとリバーさんが敵の中枢である疑似大天使を奇襲かぁ」


 他にも何やら細かい事をするらしいが、あたしの戦闘への理解度ではこれくらいだった。

 その落とし穴の仕掛けを作るために、街の職人や商人に交渉をしに行く途中だ。 まずは身近なところで、イーヴァルディの息子から。


 孤児院のリビングで小さな背筋をピンと正しながら、何かの分厚い本を読んでいた。


「馬鹿息子、ちょっといい?」

「まったく、馬鹿息子、馬鹿息子と……。まぁいい、この『エーデルランド地質学』という本を読み終えた所だ」

「へぇ、まともな物を読んでるのね」

「この場所は、さすが伝説の地という事だけあって素晴らしい土壌だが、深層もいくつもの超古代文明が垣間見られる。浪漫があって面白いぞ? お前も読むか? 既に修得した中だとオススメは、時の魔術師著『ぼうけん、えでらん! 自然地理学』だ」


 少年のようなキラキラした綺麗な瞳で、楽しそうに言ってくる。

 男の人って、こういうのも好きだよね……。


「いや~、あたしは遠慮しておく。伝説の地とか言われてもいまいち実感沸かないし」

「この地の住人達は意外と知らないのか? 外部ではエーデルランドとは異世界序列のシ──」

「って、今はそれどころじゃなくて! 頼みがあってきたの!」


 何やら長くなりそうな時は、きっぱりと遮るに限る。


「ほう、頼み。……た~の~み~となぁ~?」


 イーヴァルディの息子は、頼みと聞くと態度を豹変。

 悪役の顔へとチェンジ。


「このイーヴァルディの息子様に頼みとはなぁ~? ほほぅ、ではまず、人に物を頼む時の態度を見せてもらおうかぁ。くくく、全裸で土下座とか──」

「てぇいっ!」


 どこからともなく、赤髪の小さな可愛い影が飛び出してきて、イーヴァルディの息子の頭部をフライパンで一叩き。


「ぐげぇッ!?」


 カエルのような汚い悲鳴と、小気味良いフライパンの反響音。


「すみません、イーヴァルディの息子様。手が滑りました」

「あ、カノちゃんやっほ~」

「風璃様やっほ~」


 エプロン姿のカノちゃんと手を振り合う。

 血管が浮き出るくらい力強く握っているフライパンからして、料理中だったのだろうか。


「は、話が遮られたな……。ふはは……このオレ様に何かを頼むというのならぁ……いだァッ!?」


 再度カノちゃんのフライパンがスマッシュ。


「すみません、イーヴァルディの息子様。再び手が滑りました」

「そ、そうか。では、この鍛冶キングに何かを頼むと……おおお!? わかった、わかったからその振り上げたフライパンは止めてくださいお願いします!」


 さすがに物理によって空気を読んだみたいだ。

 カノちゃんは、年の割に異常に腕っ節が強い。

 話では、神の血が混じっていて、それが徐々に目覚めてきているとか何とか。


 フリンちゃんより少しだけ年上程度なのに……。

 神関係の女の子は外見とのギャップが恐ろしい。


「それで何だ、オズエイジの妹よ。一応の恩義はある、話を聞いてやろう。嫌々だがな……」


 イーヴァルディの息子は、チラチラとカノちゃんのご機嫌を伺っている。

 これ、絶対にずっと尻に敷かれるタイプだと思う。


「えーっと、それじゃあまず現状の説明から──」


 軽く、手持ちの紙地図と併せて疑似天使の発生から現在までの経緯を伝える。

 向こうは異世界序列にもそれなりの知識があったので、すぐに状況を理解してくれた。


「ふむ、なるほど。ユグドラシルの使いたる疑似天使の意図はわからんが、相当にやばい状況だな」

「そこで、落とし穴のための装置を設計して欲しいの」

「オズエイジでもいれば別だが、現地職人や、下級レベルの魔術師達では、魔術だけでその規模、その動作の落とし穴は難しいか」


 確かに映司お兄ちゃんや、スリュムちゃんなら自前で作り、組み上げてしまうだろう。

 本当にどこへ行ってしまったのだか。


「よかろう。作ってやらんでも──」


 スッと、カノちゃんのフライパンが持ち上げられる。


「つ、作らせてください! こんなオレ──じゃなくてボクを住まわせ、仕事をくれて、更生までさせてくだすぁっているカザリさん!」


 平和的にオーケーがもらえた。

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