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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
最終章 主神が消えた日

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116話 疑似天使(エンジェル)

「最初に念を押しておきますが、このエーデルランド以外が滅びたかも知れないというのは、あくまで私の推測に過ぎません」


 あたしの目の前で、オタルちゃんはテキパキと必要なギルドの書類を作成したり、地図に作戦図を書き込んだりしていた。

 それと同時に、普通に会話をマルチタスクでこなすという、有能っぷりを発揮している。


「うん、わかった。それじゃあ、あたしも一緒に判断するから、客観的な事実の提示をお願い」


 あたしは専門的知識も乏しいし、頭が良いという自覚も無い。

 だけど、オタルちゃんがここまでの事を言うのだから、それを違う視点で見つめてあげて、受け止め、消化しやすいようにしてあげるために話を聞くという役割はできる。


「まず、今日の雨上がりの少し後からです……」


 オタルちゃんは視線を机に落として作業し続けているが、その声色は今まで聞いた中で一番切迫しているように思えた。


「アダイベルグからの定時連絡が無かったので、不審に思い、通信を試みました」

「そこって前行った、オタルちゃんの異世界だよね?」

「そうです。結果は、連絡が返ってきませんでした」


 時間的には映司お兄ちゃんが消えた後、オタルちゃんの異世界と連絡が絶たれた。


「機器の故障かと疑い、他の異世界にも連絡を取ろうとしましたが……」

「ダメだったという事ね」

「はい……機械的な自動返信が返ってくる所はありましたが、人などの知的生物とは連絡が取れずです。絶対に崩されないであろう異世界序列第一位──『神の国(アースガルズ)』ですら……」


 そこから、エーデルランド以外が滅びたかも知れないと導き出したのだろう。


「確かに異常事態だけど、実際に行ってみた方が確証を取れるんじゃないかな」

「それが……その……」


 オタルちゃんの作業の手が止まった。


「ユグドラシルが全ての要求を拒否するため、今まで確立されていた転移ルートが使えません……」

「なるほど」


 拒否はする、つまり現時点では──。

 ユグドラシルは存在しているが、他の全ての生命の存在が確認できない状態になっている、と。


「これはやはり、私たち以外が滅びて……フリン様や、ベルグも──」

「ん~、まだ結論をそこに持って行けないかな。保留にしちゃおう」

「ほ、保留ですか?」

「そう、出来る事からやっていこう! 悲観しか出来ない事は後回しで、出来る事が見付かったら頑張ろう!」


 オタルちゃんは作業の手を止め、こちらを一瞬見つめてきた。

 悲壮に塗れていた表情が、少しだけ明るく、強いものになった気がした。


「はい! 弱気になっていましたが、私は映司様から……風璃様や、この世界を任されてることを思い出しました!」


 実を言うと、私も内心はかなり弱気だ。

 これだけの条件が揃うと、オタルちゃんが想定している状況になっている可能性が高いだろう。

 だけど、そんなものに押しつぶされるのはまっぴらごめんだ。


 強がりに強がりを重ねて、頭の片隅に小さく残る希望の可能性を信じる。

 もしもだが、そんな事が起こされる意味が分からないけど、アレ(・・)という場合もある。


「ふぅ、必要な書類一式、見積もり等が出来ました。これで数十人の冒険者を即時動かせます」

(はや)っ!? まだ数分しか経ってないんじゃ……」

「ふふっ、ただの機械的な作業です。一番大切なのは、ここからなので風璃様のお力を貸して頂きます」

「え?」


* * * * * * * *


「お似合いですよ、風璃様」

「またこの格好……」


 ランちゃんの鎧を身にまとったあたし。


『風璃、映司さんと一緒の黄金色のフルプレートの方がいいかな?』

「それは遠慮しておきます」

『え~。まぁ、映司さんにもそう言われたから、グングニルさん、ブリシンガメンさんとも相談して新しいデザインは考えたんだけど~……』


 蒼と白銀の女性らしい細身のシルエット、頭に美しい羽根飾り、可愛いスリット入りスカート。

 そんな戦乙女っぽい鎧姿だ。

 コスプレ的なもので、本来なら多少はワクワクなのだが……。


「この姿、やっぱり誰かに見られるのってきつくない?」

「風璃様、その若干の恥じらいもグッドです。それでこそ士気が上がります」


 要はお飾りの対象としてこの格好を求められたのだ。

 確かに戦わないで済むのはありがたいが、代わりに羞恥心が……。

 男性達の目が、スカートのスリットから見える脚に来ているのが多少気になる。


 平らに近い胸部装甲ではなく、そっちというのはもっと気になる。

 やはり大きくないとダメなのだろうか、育ってないと胴体なんて飾りですになるのだろうか。


『ごめん、風璃。私が本来の力を出せれば……』

「ううん、映司お兄ちゃんと離れたせいで力を出せないのは仕方が無いよ」


 ランちゃんの話では、映司お兄ちゃんとの繋がりすら感じられない程に離れてしまったため、戦闘できる状態では無いとの事だ。

 まったく、こんな肝心な時にどこをほっつき歩いているんだか。

 ……何でも良いから、本当のピンチになったら戻ってきてよ。


「風璃様。偵察隊として、現状で出せる馬を買い取り、乗馬に長けた冒険者を20名ほど送り込みました」


 馬を個人で所有している冒険者が少ないため、使える馬探しで結構な金を出した。

 相手は未知の敵なので、使い捨てになる可能性があったため、それに了承できる相手からのみ。

 行商人や、定期便、貴族の馬などだ。


「偵察にしては数が多くない?」

「はい。相手に不明な点が多いので、目撃地点以外にも割り振りするために数を用意しました」

「なるほど、さすがオタルちゃん」

「それと即時連絡に使えそうな魔術師が用意できなかったので、普段は極力使用を避けていた通信機やカメラでの連絡を取ります」


 明らかに技術体系が違うため、エーデルランドへの影響を考慮していたのだろう。

 本人は近代兵器から、SF兵器まで色々ぶっ放していた気もするが。


「あ、今、何か思われましたね?」

「顔に出ちゃったか」

「大丈夫です。今日の火器はハンドガン二丁くらいしか持っていませんから! ……衛星軌道上の『超弩級位相変換型兵器(フェイザーカノン)』もクルーとの連絡が取れなくて使用不可なんです」


 何かレーザーだかビームだかを空から降らせようとしていたやつだろうか。

 前は物騒と思っていたが、有事の際に使えなくなっているとそれはそれで心細いものである。


『これで本当に話せるのか? おーい、聞こえるか。あるふぁチーム、到着したぞ』


 オタルちゃんが手に持つ通信機から、冒険者の声が響いてくる。

 本当に世界観が違う絵面だが、確かにこれが無かったら連絡は人づてになってしまって大変だろう。

 こちらの世界でも魔術で遠方とやりとりは出来るらしいが、そこまで出来る人材は少ないらしい。


「こちらギルド司令室、αチーム到着了解。偵察を開始せよ。尚、接敵しても交戦は最小限に抑えてください」

『はぁ? こちとら手柄を立てに来てるんだ。どんどんぶっ倒していくんでよろしく!』

「ちょ、待ちなさい!」


 そこで通信が切れた。

 机に置かれている世界観違いな立体出力型モニターが、その冒険者の目線の先を映している。


 ちなみにこのモニター、巨人の国の野営用で動力内蔵しており半永久的に動くらしい。

 一家に一台有れば電気代が浮きそうである。

 こういう物を、いざという時のためにエーデルランドに隠しておいたとか。


「これ、ホラー映画だと次のシーン、何か映るフラグ?」

「まったく……これだから手駒としてすら動けない生体ゴミは」


 オタルちゃんの口がすごい悪かった気がするけど、そこはスルーしておこう。


「最低限の軽装で偵察なのに、それを放棄して戦闘に意欲的とか……。後続の戦闘用に特化した部隊が到着するまで、情報がいくらでも欲しいというのに」

「は、はは……」


 今回はケチらず、かなりの出費をしたが、それが仇になったのかも知れない。

 金と名声、それをちょろい相手で稼げると踏んだ冒険者が多かったのだろう。

 本当は訓練された兵士でも使えばマシなのだろうが、街の守りをおろそかにするわけにはいかない。


「他のいくつかの偵察隊も、似たような感じですね。交戦映像が入ってきています」


 モニターに映し出される、シルエットが天使な存在。

 カメラのブレが止まった瞬間、それ(・・)は西洋の自動人形(オートマトン)のような不気味さを醸し出していた。


『間違いない、これは疑似天使……』

「うわぁ、ランちゃん本当なの? 天使というより、殺人人形って感じ」


 それが、モニターの中で特に抵抗をするでも無く切り伏せられていく。

 魔術や、ずば抜けた剣技を使わなくても一方的に。


「見た目は気持ち悪いけど、すごく弱いね」

『下級第三位の存在を、さらに劣化させた存在だから……』


 あたしは、内心ホッとしていた。

 もしものために用心をしていたが、もしもなんて起きない方が良いのだ。


「おかしいですね……」


 それとは正反対に、表情を険しくするオタルちゃん。

 何かに気が付いたのだろうか。


「目撃地点からだいぶ離れた場所にも……。それに、既に数が……30を超えています」


 その時──冒険者のひどく焦った声が通信機から響いた。


『お、おい。空から光が、空から……空からあいつらが降りてきてやがる! 天使が降り続けて──』


 モニターの一つが、それを映していた。

 雲に穴が空き、天の光差し、後光に照らされているような疑似天使が次々と降り注いでいる場面を。


『あれは、まずい!?』


 ランちゃんが叫んだ。


「確かにこれ、処理するのに時間がかかりそうな事態だよね……」

『違う……今、一体のアレが降りてきてるのが見える』


 指差されるモニターの一点。

 そこには、二枚の翼を羽ばたかせ、頭に黒輪、青い服に金帯の疑似天使の姿があった。

 今までのとは違い、陶器の素肌を大きく晒してはいないし、手には槍を持っている。


『あれは疑似大天使(アークエンジェル)。指揮権を持つ下級第二位の天使』


 それは槍を振りかざし、何かを叫んだ。

 すると、各モニターに映っていた疑似天使達は頭の黒輪を回し、一斉に統率された動きを見せる。


『う、うわ。なんだこいつら!?』

『急に攻撃的に!?』


 通信機から、いくつもの悲鳴のような声が入ってくる。


「くっ、偵察隊! 対象から大きく離れてください! 最悪、任務をこなせないようなら撤退でも──」


 その言葉が届くか届かないかの瞬間、モニターと通信機からはノイズが吐き出された。

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