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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
最終章 主神が消えた日

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113話 舞い降りた翼(とある冒険者二人の記録)

 雨が止んだ昼下がり、街の冒険者ギルドに一つの奇妙な依頼が入ってきた。

 一見、牧場の家畜が襲われたという、どこにでも有るありふれた内容。

 この世界では強力なモンスターは希有(けう)で、街の付近で見かけるのは野犬、森や山でも知能の低いゴブリン程度だ。

 牧場で飼っている牧羊犬で対処仕切れない時、まれにギルドへと依頼される事がある。


 では、今回はどこが奇妙な依頼かと言うと――。


「ランク10熟練冒険者のアニキ……今回の依頼、両手両足がある、羽根の生えた何かが相手らしいけど平気っすかね……」

「バカヤロウ! 羽根の生えた何かって、きっとゴブリンが鳥の羽でも面白がって身につけていたんだろう。その程度で冒険者が怖がってどうする!」


 依頼内容によると、羽根の生えた何かが家畜を襲っていたので、牧場主達は避難したらしい。

 羽根の生えたモンスターは、この付近では目撃されたことがない。

 もしいたとしたら、本格的に対処するには複数の射手や魔術師などが必要になる大ごとだ。

 だからこそ、そんな相手がいきなり現れたとは信じがたい。


「それに、こっちじゃもうランク10じゃねぇ……クソ。大きな街だからって、俺達の元いたギルドのランク10じゃ、こっちの強さの証明にすらなりゃしねぇと言いやがって」

「大丈夫ですよ! ランク10の……じゃなかった。アニキと俺なら! ここで一旗揚げられますって!」


 辺境から最近、異邦人の少女――風璃によって経済的成長を著しく遂げているこの大きな街へやってきた冒険者二人組。

 以前、どこかの主神モドキに連れられて『無茶をするな』と念を押されたため、一時は大人しくしていたが、やはり男で冒険者――ドンと大きく出たいと場所を変えて再出発したのだ。


「そうだな! 新米! 俺達なら何でもやれる!」

「ですよ、アニキィ!」


 討伐対象が逃げたという方向の森を、ガッチャガッチャと鎧の金属音を響かせながら隠密性皆無で歩く二人。

 テンション高く会話してるのもあって、辺りの動物達は警戒したり、逃げたりしている。


「さぁ、どこだ羽根付き! 俺達にビビって逃げ出しちまったか! ふはは!」

「アニキが強すぎて、いつもゴブリンとか逃げ出しちゃいますもんね!」


 ……毎度これが原因で討伐失敗を繰り返していた。

 だが、今回は――。


「あ、アニキィ……何か変な音が」


 急に声を潜める新米冒険者。

 危険察知能力だけは無駄に高いので、過去のドラゴン退治の時もこれで難を逃れた。

 そして現在も、危険なモノを察知していた。


「そ、その先……何かを食べている音が……確かにするな」


 熟練冒険者も、さすがに気が付いた。

 草むらの先、見えないが、クッチャクッチャと汚い咀嚼音が聞こえる。

 足音に気が付いているはずの距離だが、逃げ出さずにだ。


「か、構えろ……行くぞ」

「うっす……」


 推測される、逃げ出さない理由。

 それは、相手の聴力が弱いか――人間が来ても平気と思える存在。


 二人は腰に添え付けられた安物の剣を引き抜き、震える手で押さえ付けるよう眼前に構えて前進する。

 一歩、一歩と音の方へ近づき、視覚からの情報を得ていく。


「な、なんだこりゃ……」


 すらりと伸びた四肢、白い陶器の肌、背中から生えた大きな翼、頭の輪。


「……天使?」

「ば、馬鹿! 良く見ろ!」


 確かに一見すると天使の特徴に似ているが、それは陶器のような肌では無く、本当に硬質な陶器の肌。

 オマケに、間接部が異様に細くなっており、中のシリンダーや歯車らしき物が見えている。

 頭の輪っかも、黒く硬そう何かで、光を鏡のように反射しているだけだ。


 それが、地面に置かれた家畜の内蔵を――四つん這いになって犬食いをしている。


「こんな天使がいるものかよ……気持ちわりい」


 天使のようなモノは、二人の方へゆっくりと振り向いた。

 今まで見えなかった顔が、無機質な表情で見つめてくる。


「ひえっ」


 ガラス玉のような、魂のこもっていない黒のみの眼球。

 昆虫のそれを連想させた。


「び、びびんな! 奴は武器を持ってない、俺達は持ってる! な? 楽勝だ!」

「そ、そうっすよね!」


 天使のようなものは、観察するように二人の方向へ首を小刻みに動かし続ける。

 そして、頭の輪っかが甲高い音を上げながら回転した。


「な、何かやべぇ! やられる前にやるぞ!」

「あいィッ!」


 新米冒険者は声にならない声を出しながら、熟練冒険者と共に攻撃態勢に移る。

 素早く地を蹴り、二人で左右に分かれた。

 敵の注意を二つに分散させたところで、一気に接近。

 同時に踏み込み、力強く斬りつける。


 人数差がある時の基本的な戦術――挟撃だ。


「ギッ」


 次の瞬間、安物の剣によって、天使のようなものは首をはねられた。

 奇妙な事に、血が一滴も出ていないし、人間が発することの無い、石が擦れるような断末魔を上げていた。


「生き物……じゃなくて、こいつはゴーレムか?」

「や、やりましたねアニキ! こんな世界に一匹しかいないような珍しい奴を倒したとなりゃ、俺達有名人ですよ!」


 倒した相手の観察より先に、勝利の喜びでいっぱいになる新米冒険者。

 熟練冒険者に抱きつきそうになる勢いだったが、頭に手を置かれて押さえられていた。


「ははは! そうだな! それじゃあ、報告に戻るとしよう……か!?」


 周りの様子に気が付き、二人は固まった。

 辺りから、何かの甲高い音がいくつも聞こえる。

 それは――あの天使の輪っかが回転する音。


「あ、ああ……」


 ──上下左右、数の特定が出来ないくらいに。

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