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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
最終章 主神が消えた日

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109話 靴ペロ貴族屋敷(その後)

 俺達はいったん、いつもの街まで戻ってきていた。


「次はここだな。風璃が靴ペロしたりさせたりの変態貴族屋敷」

「ちょ、ちょっと映司お兄ちゃん……ここはスルーしても良かったんじゃないの」

「いいや、俺も恥ずかしい場所へ連れて行かれたしな。こういうのはキッチリだ!」

「うぅ~……」


 風璃は、押さえつけられた小動物のような唸りで、声にならない抗議。


「ここも資料で見ました。私――オタルと出会う以前のですよね」


 街の中にある、大きな貴族の屋敷。

 外から見ているだけだが、四階もある頑強な石造りで、庭や離れもあって金の掛け具合は相当なものだと分かる。


「そう。ここで風璃が貴族を集め、思う存分に靴ペロした」

「いや、映司お兄ちゃん。すごい誤解されそうな言い方はよしてくれないかな」


 俺達は通りから屋敷を眺めていたのだが、ランドグリーズがどん引きの反応をしている。

 その後で風璃の方を見て、心配そうな表情。

 何とも言えない沈黙の後、風璃が言い訳を伝えるべく口を開いた。


「貴族を通じて、国を崩そうとしているのがいたから、あたしなりのやり方で阻止したという話だからね! ランちゃん!」

「う、うん」


 ランドグリーズは一応といった感じで頷いた。


「そういえば、あの氷魔術を使うふくよかな、ガラスの靴の魔女は誰かから頼まれたみたいに言っていたような。結局、どうなったんだ?」


 あの時、風璃は『奴からの依頼』という言葉を聞いている。

 当時、国同士の(いさか)いは無かったと思う。他に敵対関係にありそうだったのは、序列関係で目の敵にされていたっぽい異世界アダイベルグだろうか?

 視線は、自然とオタルへ。


「映司様、こちらをそんな目で見ないでください。私としてはフェンリルを誘導しただけですし、ベルグもこの件には関わっていません」

「そうか、それじゃあ一体誰が」

「私も気になって調べようとしましたが、あのガラスの靴の魔女は投獄された後に死亡していました。獄中死というやつです。死因は不明」


 口封じだろうか。

 それとも、ただの自然死。


「フリンには聞かせられない話だな」

「ええ、ですので私も秘匿しつつ調査を」


 俺へも黙っていたのは、たぶん嘘を吐くのが下手なのと、知ってもどうにもなるわけではなく、ただ気分が悪くなるだけと考慮されての事だろう。

 俺を盲信するだけで無く、短所までキッチリ理解してくれているオタルはありがたい存在だ。


「お耳に入れる事無く、調査を進めてしまい申し訳ないです」

「いや、オタルの配慮は適切だと思う。これからもこの世界を支えてやって欲しい」

「はい、映司様、フリン様のためとあらば」


 たぶん後々、それについてオタルに酷い事をしてしまうと思うので若干心苦しい。

 俺は不自然な表情を見せまいと、背中を向ける。


「そういえばさ~、あの時は映司お兄ちゃん格好良かったな~」


 あの時──氷の魔女が氷柱で、風璃を押しつぶそうとしていた場面。

 それをとっさに駆け付けて防いだ事だろうか。


「いつも、いつでも俺は格好良いぞ!」


 風璃が振ってくれた会話に乗じて、話題をそらす。

 何やらタイミングぴったりすぎて、俺の心を見透かされての助け船にも感じてしまう程だ。


「いつでもって……。女風呂を覗いたり、ランちゃんのおっぱいプリンを作った奴が何を言う……」


 風璃のあきれ顔。

 オタルの押し殺しきれないにやけ顔。

 ランドグリーズのジト目。


 何となく、俺の評価を察してしまった。


「でも……あの時は丁度、ピンチのところで助けに来てくれたよね。あれって出待ちでもしてたの?」

「いや、普段から見ていて、何となく危なっかしいと思って偶然駆けつけた瞬間だった。……けど、フリンに引っ張られたような。いや、フリンだったっけ?」


 何か記憶が曖昧だ。

 いくつかの事を同時にやったような感覚。

 あの時は、まだフリンの加護に慣れてなかったためだろうか。


「まぁ、そんな事より!」


 突然、風璃が俺の腕に抱きついてくる。

 魔術師のダンジョン前でオタルがやっていたように、真似るように悪戯な笑みを浮かべながら。


「お、おい」

「ありがとう映司お兄ちゃん! あたしも助かったし、結果的には孤児院の子供達も、街も助かった!」


 少しだけ赤らめた顔で、こちらを見上げ――。


「たまには、こうやって素直に感謝してあげるんだから」

「ま、まぁたまになら感謝されてやろう」


 普段はベタベタからは程遠い兄妹関係から、かなりもどかしかった。

 照れている顔を見せたくないので、首を限界までグギギと反らした。




 ──それにしても、靴好きというのは意外といるものだな。

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