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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
最終章 主神が消えた日

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108話 魔術師のダンジョン(その後)

「496……か」


 数日前――シィが伝えてきたのは、たった一言だった。

 次に何か困った事があったら、ボクの家だった場所へ行き496を唱えよ、と。

 ……『巫女の予言(ヴォルヴァー)』と大仰な前置きをしておいて、本当にそれだけだ。


「496? 映司お兄ちゃん、何かの値段?」

「さぁ、何だろうな。俺にも分からない」


 横を歩く風璃が不思議そうに問いかけてきたが、適当にはぐらかす。

 一応、思い当たるとすれば完全数というやつだろうか。

 最近も何かの数式で見た気がする。


「もー、美女三人に囲まれてるんだから、余計は事は考えない!」

「び、美女……?」


 数分前――風璃達が、唐突に俺をエーデルランドへ引っ張り出したため、現在の状況はあまりつかめていない。

 だが、周りにいるのは女子中学生(JC)の妹とそれっぽいオタル、外見が女子小学生(JS)のランドグリーズである。

 その三人と、街から少し離れた所に転移し、新緑香る野原が遠くまで見渡せる街道を歩いている。


「美女っていうと、何かお姉さん的なイメージなんだけど」


 俺の視線は、自然と三人の背丈、さらにその下へとフォーカスされる。

 微、平、微。


「映司さん、凄まじいセクハラのエーテルを感じたのですが」

「大丈夫! うん、小さくても大丈夫!」

「いや、何が大丈夫なんですか。その小さければ人にあらず的なニュアンスは大丈夫じゃないです」

「ええと、背の事だから」


 男だからと言って、いつも胸の事ばかり考えていると思われているようだ。

 今回はあのプリンの時と違って、思考は胸50、背50くらいだったというのに……。


「もう、映司お兄ちゃん! ランちゃんと比べても、さらにまな板なオタルちゃんだっているんだからね!」

「……風璃様、唐突な流れ弾で私の心を粉砕するのはちょっと」


 オタルは、死んだ目をしながら断崖絶壁に手を置いていた。

 それを上下させると、抵抗なくスッと。

 ……さすがにいたたまれなくなり、俺は何とかフォローを入れる。 


「ええとだな、俺が言いたかったのは、美女という表現より、美少女だなーって。うん! 美少女!」

「おぉ~、口に出すと恥ずかしそうな言葉(ワード)を良くもまぁ……」

「そうですよね、映司様。美少女なら、無駄な胸部脂肪など邪魔なもの。あんなもので女性の価値を判断するなど言語道断です」


 怨恨を凝縮、練り込められた言葉が、オタルの口からドロドロと流れてくる。

 俺は目を泳がせながら頷くしか無かった。

 ここでノーと言える度胸は無い、胸の話題だけに。

 ──胸の話題だけに!


「映司お兄ちゃん、何一人でドヤ顔してるの?」


 顔に出てしまっていたらしい。


「と、ところで今日は急にどうしたんだ?」


 表情を整えながら話題を変える。

 このままだとフェリの胸の話とかにもなって、さらにやぶ蛇だろう。

 男同士ならこの談義は盛り上がるが、まさか女性相手だとここまで難しいものになるとは……。


「最近、映司お兄ちゃん元気が無かったから、気晴らしにどうかなーってね」

「風璃……」


 フリンと別れ、フェリもスリュム一時的に居なくなっている現在。

 家の中も静かになってしまい、自分では分からなかったが気落ちしていたのだろう。

 いつの間にか、俺の事をよく見て……気遣ってくれていたのか。


「というわけで、私たち美少女三人が一緒に居てあげよう! ほら、嬉しいでしょ!」

「ん、まぁな」


 俺は、自然と笑みをこぼしながら答えてしまった。


* * * * * * * *


「こちら、映司お兄ちゃんが最初にやらかしてしまった元魔術師のダンジョンで~す」


 しばらく歩いてエーデルランドの森を抜け、巨大な古墳のような形をしている元ダンジョンへとたどり着いた。

 今も入り口から湧き出る粘着質の液体を求め、土地の所有者の許可を得た業者達が樽を馬車で運んできている。

 どこの世界にも商魂たくましい人々はいるものだなぁ、と感心する。


 ええと――今回は『いつもエーデルランドに降り立つ時、色々と落ち着けない状態が多かったので、観光して行こう』みたいなプランだとか。

 その提案がランドグリーズなのは若干、意外だった。


「映司様、デートというものはワクワクしますね~!」


 オタルは、俺の腕にしがみつきながら、普段の表情からは想像できないデレデレな満面の笑みを浮かべている。


「デート……デートなのかこれ。来る途中の森は毒を養分としたのか、紫色に変色した食虫植物が多かったし、ダンジョンも毒色のローションが湧き出しているし」

「映司さん、報告を見る限りでは、自分自身でやってしまった結果ですよね」

「……サーセン」


 ランドグリーズは、俺達にちょっとだけ拗ねた視線を向けつつの指摘。

 それは正論すぎた。

 まぁ、結果的にはシィは助けられたし、ここから採れるようになった『ドクローション』は魔術触媒や何やらで役に立ったみたいだし結果オーライだろう。


 過去、エーデルランドを滅ぼしてしまった後悔から、力業ではなく、拙いながらも工夫したのが功を成したのかもしれない。

 最初に撒いた毒も、地味に魔物だけを倒して、人は行動不能にするだけという殺虫剤的なバランスにしておいたし。


「たまにこっちで会って話すけど、シィちゃんとリバーさん、映司お兄ちゃんに感謝してたよ」

「そっか」


 風璃から聞いたその言葉だけで報われた気がする。

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