0話 三度目のエピローグは黒が嗤う(フォールンオーディン)
「さぁ、一緒に世界を終焉へ導きましょう」
黒い靄に包まれたヤツが──囁きかけてくる。
俺は絶望して地面を見詰めていた。
「オーズ、アナタの大切なものを奪ってきた世界、何を迷う必要がありましょうか?」
そうだ、大切な妹も……もういない。
俺が、あの魔術師のダンジョンを有り余る魔力で圧壊させた後、風璃1人がエーデルランドに降り立ち──氷柱で潰されている遺体が発見された。
なぜ、俺はあの時に風璃を探しに行かなかったのか。
その後は抜け殻のようになり、フェンリルを差し向けてきたアダイベルグに対して、内部抗争を発生させて崩壊させたりもした。
増していく破壊への快感。
積み重なっていく罪の意識を紛らわせるために、さらに積み重ねていくしか無い。
幾層も、幾層も。極限の多幸感、罪悪感がドラッグのように混ざり合う。
俺を哀れみに満ちた表情で見下してきた、霧の巨人の王に対抗するため、エーデルランドの住人を生贄に捧げて力を得た。
肝心のスリュムは瀕死にしたが、殺し損ね逃がしてしまった。
その後に巨人の国の住人達も殺し尽くして生贄とした。
黒妖精の国侵略直前、ランドグリーズが俺の戦乙女となった。
何故か俺を励ますような虫酸の走る行動をしてきて不快だった。
だから無理やりに従わせる。
嫌がる彼女を強引に使用し、星の意思を破壊。
息子を人質に、イーヴァルディを脅してグングニルを作らせた。
もう用済みだが、もっと良い武器を作成されても困るのでドヴェルグ達を生贄に捧げた。
その中にケン、カノ、そんな名前のガキ達もいた気がする。
神槍を得て、死を司るオーディンとなった俺は、目の前にいる黒い靄に包まれたヤツの誘いに乗った。
だが、その俺を止めに来たスリュムと再び戦闘になった。
全てを捨てる気概で攻めてくるスリュムに、俺は苦戦した。
ランドグリーズの鎧を犠牲にして、辛くも勝利を得た。
風璃と、藍綬を奪ったこの世界──これで心置きなく滅ぼせる。
そう思っていたはずだった。
だが、ランドグリーズのエーテルが消滅する前に告げられた。
──……。
俺はまた藍綬を失った。
「映司、私と一緒に世界を滅ぼしましょう。映司を見てきて学びました、殺戮はすごく楽しいです」
無邪気な笑顔のフリン。
フレイを殺して奪った神器レーヴァテインを弄びながら──俺を見下す。
俺は、散らばってしまった藍綬を笑いながら集めていた。
「エイジ、ワタシもこの異世界序列を全て喰い尽くすと決めた。初代オーディンを失った今、世の希望──光の主神は潰え、終焉の炎で焼き尽くすのは容易いこと」
鋭い爪に、牙に、まだ乾かぬ初代オーディンの血を付着させながら、半獣人のような恐ろしい姿になってしまったフェンリルは冷笑する。
その金色の瞳は世界への憎しみが充ち満ちていた。
「さぁ、この世で最も生命を消したキミよ。このまま数人になるまでふるいをかけようじゃないか。私の力も完全擬態で得ると良い」
黒い靄に包まれたヤツは、握手を求めるように手を差し出してきた。
俺はその手を掴み、エーテルを読み取った。
流れ込んでくる黒、黒、黒。
「素晴らしいだろう、黒き神からもたらされた加護は──」
黒い靄に包まれたヤツは、フェンリルを抱き寄せて口付けをした。
「くくく……これで『神殺し』と『巨人殺し』を受け継ぐ子供を作り、真の神々の黄昏は達成される」
そこから先は、俺の意識は希薄になった。
全て言いなりで、トールを殺してミョルニルを奪った。
トールの息子が泣き叫んでいてうるさかったので、ミョルニルであの世に送っておいた。
ミョルニルも意思を持つ神器。最初は抵抗していたが、黒き加護を与えられると大人しくなった。
右手に黒きグングニル、左手に黒きミョルニル。
一投で万の生命を貫き、一槌で星々を極雷の下に粉砕する。
気が付くと、全ての生命は両手で数える程になってしまっていた。
「ご苦労様、オーズ。私の『愛』は世界を豹変させてしまったね」
哀愛Eye藍……?
それがどんな概念だったのか、疾うに生贄に捧げてしまって思い出せない。
どこかで選択肢を間違えなければ、それを持ち続けられたのだろうか。
どこかで選択肢を間違えなければ、それを誰かに与えられたのだろうか。
幸せの青い鳥──ルリツグミはどこかに存在していたのだろうか。
俺に子供が生まれたとしたら、フリンと友達になって仲良くしていたような未来も──。
ここは夢では無い、昏い世界。
もう選択肢は残っていなかった。
【未来観測Ⅲ、確定完了。観測者──世界樹】
──ウルズより近く、スクルドより遠く、ヴェルザンディより高く──。
【受信……管理者権限──戦乙女……受諾。白、黒、権利二分割。局所時空間神式──去来干渉開始】




