幕間 キャラかぶりグングニル
俺──尾頭映司は、我が家に帰ってきた。
ちょっと散らかっていたが、アレはスリュムに不眠不休で片付けさせるので問題は無いだろう。
比較的無事なリビングで一息吐きながら、お互いの情報交換をした。
「──というわけで、これがグングニル」
俺は手に持っている、白銀の神槍を見せた。
「おぉ、懐かしいのじゃ。……いや、これは今まで見たグングニルの中でも特異な……神器というよりは、まるであの存在そのまま──」
『まだ主も、儂の真の力を発揮出来ぬだろうな。さて、この身体ではお初にお目に掛かるのじゃ、霧の巨人の王』
久しぶりに喋った気がするグングニル。
「槍が喋ったー!」
フリンは驚きつつも、その目をキラキラとさせていた。
「喋ったよ! ねぇ、フェリ! ねぇ、スリュム! ねぇ、映司!」
すごいテンションだ。
フェリは冷凍庫から持ってきた棒アイスで、久しぶりの地球の味を堪能しながら無言でコクコク頷いていた。
「神器クラスの武具ともなれば、意思を持つものも多いからの」
『そうじゃの。普段は必要な時以外は喋らない奴らも多いがの』
続いて喋るスリュムとグングニル。
そこでふと思った。
「お前ら2人、口調かぶりすぎじゃね?」
「のじゃ!?」
『のじゃ!?』
スリュムは少女の声で、グングニルは老人の声。
そこらへんの違いはあるが、のじゃのじゃうるさい。
『神器の中でも、偉大な一振りとしての威厳を保つためのこの口調なのじゃ……』
「そう、偉大な口調なのじゃのじゃ」
のじゃがゲシュタルト崩壊するのじゃ。
「でも、2人同時だとかぶってるというか、後から来たグングニルがパチモン口調っぽいというか……」
『今、パチモンと言いおったか!? のじゃ!?』
「そこ、咄嗟に無理やり“のじゃ”を付けただろ」
『儂の個性が……』
槍がのじゃのじゃ言って、勝手に落ち込む図はシュールである。
『で、ではこれはどうなのじゃ!』
槍はピカリと光り輝き、その姿を変化させた。
おぉっ、と女性陣が歓声を上げる。
『ふふふ……。可愛らしい小動物──ムササビに変化するなど、個性的であろう?』
リスに似た、手足の間にマントのような膜を張って空を飛ぶ小動物。
モモンガと見分けが付かないナンバーワンの、ムササビである。
グングニルの投擲槍という特徴から、空を飛んでいく動物を選んだのだろうか。
「映司! これ、飼っていいです!?」
愛らしいつぶらな黒い瞳にやられたのか、フリンはすっかりメロメロだ。
「うーん、でもランドグリーズがアルマジロになった姿である、ランちゃんがいるからなぁ……」
『……もしかして、小動物マスコットキャラもかぶっておるのじゃ?』
可愛く首をかしげるムササビ。
「あー、うん。既にアルマジロが家に」
『のじゃ……』
そのまま地面に突っ伏してしまう。
感情豊かに動くその姿は、まるで海外動物アニメのようだ。
『知名度ではエクスカリバー程度に負け──』
「エクスカリバーさんを程度とか言うな、程度とか」
『地球では何故かオーディンは斬鉄剣とかいう謎武器を使う事になっているし──』
「あ、即死攻撃が失敗するやつです!」
『もう儂はどうすればいいのじゃー!?』
あげくに泣き出してしまったムササビグングニル。
神槍とか神器としての威厳の欠片も無い。
「なぁ、スリュム。なんでコイツ、作ったばかりなのに地球の事に詳しいんだ」
「ああ、それはの。ユグドラシルの一部を使っておるから、そこに蓄積された知識の一端を持っているのじゃ。特に兄弟とも言える3本あるグングニルとは知識も意思も共有しているのかもしれんの」
ムササビグングニルは床を小さな手で叩きながら、大げさに泣き喚き続けている。
──その時、フリンの首元に飾られているブリシンガメンが光った。
そして一言。
『うるさい黙れ』
流れるように事務的な発音だが、ドスの利いた成人女性の声。
言葉を向けられたムササビグングニルはビクッと反応。
『……は、はい!』
ピンとした姿勢で、のじゃ言葉すら忘れて顔面蒼白。
どうやら神器同士にも上下関係があるらしい。




