幕間 スリュムの可愛いは創れる教室
間違えられやすい北欧神話キャラその1
フレイ=鹿角イケメン兄 フレイヤ=美女○○○妹
ワシはスリュム、異世界序列で一番カワイイをラブっていると自負しているスリュム、そうスリュムなのじゃ!
霧の巨人の王だったりもしたが、映司に負けて無理やり妻にされてしまったという、これまた可愛いワシ。
「ふふ、今日も可愛いコーデがばっちりなのじゃ」
オーバーオール……いや、こちらではサロペットと呼ばれるものをメインに、深くVネックが入って胸元が若干見えるくらいのスキッパーシャツと合わせる。
それに髪型をサイドテールにして、元気な可愛さと多少の色気を演出している。
「よし、フリンに見せてやるかの!」
ガパッと、床板を押し上げて尾頭家に侵入。
我が第三スリュムヘイム(犬小屋地下)から掘っておいた隠し通路。
晩飯時に鍵を掛けられるので、移動用にいくつか用意しておいた内の一つだ。
埃っぽい押し入れの地下からよじ登り、ガラッと戸を開けて室内へ侵入。
不法侵入では無い。
ワシは映司のモノということは、映司もワシのモノであるカワイイ押し掛け女房理論。
カワイイは無敵であり正義なのだ。
「あ」
「おま……」
部屋の中に居たのはフリンと、裸マントの野郎──。
「フレイ、なぜお前がここにいるのじゃ?」
「それはこっちのセリフです」
お互いに表情を引きつらせ、にらみ合う。
「2人は知り合いなんです?」
首をかしげるフリン。
「ちょーっとした知り合いでのぉ……」
「そう、ちょっとしたね……。フリン、少し2人きりにしてくれるかな?」
はーい、と返事をしてフリンは部屋の外へ。
残された2人は、トタトタと離れていく足音を聞いた後に口を開く。
「のぉ、巨根神よ」
「なんだ、クソ寝取り巨人」
ビキビキィ!? とお互いに眉間にシワを寄せまくりながら、ガンを付け合う。
フレイの口調も本性が出たのか、フリンに見られていないので汚いものになっている。
「今更、あんな昔の事でワシにお礼参りにでもきたかのぉ? 兄妹揃ってブタの化身のフレイよ」
「その妹に一目惚れした癖に、女装した髭親父と間違えたスリュム? こちとら、そんな小さいことは気にしてねぇぞ」
「はっ、あんなビッチだと知っていたらの、手なんか出さなかったわ。ブリシンガメンが欲しいからって、4人4日ドヴェルグ達と寝──」
ガラッと戸が開く。
そこには、お菓子の箱を抱えたフリン。
「ねーねー、これ食べて夜ご飯だいじょうぶかな?」
一触即発で、プロレスのように組み合っていたワシとフレイは、一瞬で体勢を整える。
そして、2人とも幼女に向けるニコヤカな笑顔に変化させる。
若干、引きつっていたフレイは笑える。
「『食べっく動物』は半分くらいなら平気なのじゃ、うん」
「そうそう。夜ご飯に美味しい物が出るかもしれないからね、フリン」
なるほど、とフリンはこちらを見て何かを納得したようだ。
「2人、抱きついて仲が良いですね!」
内心、吐き気を催しながら──。
「うん、フレイとは昔から、こう仲が良いのじゃ、うん」
「そうそう、うん。そうそう」
肩を抱き合い、フリンから見えない背後で、空いてる手を使ってお互いがお互いを攻撃し合う。
無邪気な笑顔のフリンは、再び部屋の外へ。
しばらく待った後──。
「お主、このっ! 巨根鹿角マニアがっ!」
「異世界序列1の馬鹿巨人が!」
* * * * * * * *
エーテルを使わず、ひたすら交互にボディブローを叩き込み合った30分後。
持ち前のタフさを発揮して、何食わぬ顔でリビングへ移動。
「あ、スリュム。フレイはどうしたです?」
「あやつは、スキールニルに会いに行くと言って、エーデルランドに向かったの。しばらくは向こうに滞在するらしいのじゃ」
フリンに手を出したら、勝利の剣で百回ぶっ殺すと言いながら転移していった。
それに対して、ロリコンと一緒にするな歩くチ○コ野郎と返答しておいた。
絶対にフリンには聞かせられない会話である。
「そういえば、映司とフェリは黒妖精の国に行っているのじゃな」
ワシは、ヴィーザルにエーテルを削られまくって、こちらで待機となっていた。
ついて行ってやる事が出来れば、あの偉そうな星の意思に拳を突き立てて一瞬で解決してやれたのだが。
「うん、フリンお留守ば~ん」
フリンは何かをいじりながら、上機嫌で寝っ転がって足をパタパタさせている。
「かざりんはどうしたのじゃ?」
「何かエーデルランドでやることがあるから、夜ご飯までは戻って来ないみたい~」
「ふむ。なるほど、なっとくなのじゃ」
つまり、家にはフリンとふたりきり。
「よし、フリンよ! 今日はワシと遊ぶのじゃ!」
「うん!」
「……ん? その手に持つ物はなんなのじゃ?」
さっきからフリンがいじっていた金色の物体。
どこかで見た事があるような……。
「おばあちゃんから送られてきたブリシンガメンです!」
「ということは、フレイヤの……」
物を媒体にエーテルを操るセイズ魔法──その最強の使い手とも言われるフレイヤ。
さっきのフレイの妹でもあり、実力としては天上の階位──上級第一位でも主神クラス。
そして美と豊穣の女神でもあり、希代のビッチ。
性格は凄まじいモノがあったが、外見は可愛らしさと美しさを兼ね備えたスーパー女神。
それに一目惚れして酷い目にあった苦い記憶。
今でも女装した髭親父に、高々と振り上げられたミョルニルの恐怖を忘れられない。
「どうしましたです、スリュム? すごい汗です」
「な、なんでもないのじゃ。ちょっと雷様の事とか思い出したりしてないのじゃ」
「誰かに怒られたという意味の雷です? 隣の眞国もそんな感じでいっつもお父さんに雷を落とされているらしいです」
「そ、そうなのじゃ。そんな感じなのじゃ」
ん? マグ──。
「それでスリュム、何して遊ぶです?」
「ふーむ、そうじゃのぉ」
一瞬、何かを思い出しかけていたが、喉の奥に引っ込んでしまった。
今はフリンと遊ぶハッピータイム。
「それじゃあ、そのブリシンガメンでも使ってみるかの!」
「え~、何か怒られそうな気がする~」
「大丈夫なのじゃ。地球でエーテルを使っても、口うるさい管理者のクロノスに見付からなければオールオッケーなのじゃ!」
大規模な事ならまだしも、家の中で使うくらいなら平気だろう。
「それに、晩ご飯までなら風璃にも見られず、2人だけのヒミツという事なのじゃよ?」
「2人だけのヒミツ……!」
何かそのキーワードに胸ときめかせたのか、フリンは無邪気な笑顔を見せた。
「それじゃあ、ちょっとブリシンガメンで遊んでみるです!」
* * * * * * * *
──どうしてこうなった。
フレイヤのセイズ魔法と言えば、豪快な面もあるが華麗で有名だ。
なのに、その孫のフリンがブリシンガメンを使用すると──。
「のぅ、フリン」
「何ですか、スリュム」
「これ、何に影響を受けたのじゃ?」
「うーん、たぶん直前にやったゲームです!」
フリンが持ってきたゲームパッケージの裏面。
廃墟に鎧を着たアンデッド達が徘徊し、クモの巣が張った柩や、ツボに入った亡者が並べられていた。
……パッケージをどけると、そのままの絵面が現実に存在していた。
「どうです!?」
えっへんと、フリンが小さな身体を精一杯ふんぞり返らせている。
その可愛らしいドヤ顔を見ていると、とても否定的な言葉は言えない。
子供は……褒めて伸ばすのが良いとどこかで聞いた事がある。
「よ、よし! それじゃあ、これを可愛くデコるかの!」
「は~い!」
飾り付ければ、インテリアとして何とかなる可能性も微粒子レベルで存在する。
そこらへんを徘徊するリビングアーマーは、カラフルでスワフロスキーなクリスタルを貼り付けてキラキラにする。
「うむ、コレは可愛いのじゃ!」
「何か敵で出てきたら特殊能力付いてそうになったです!」
柩は素材を活かし、パピヨン模様のレースや、天蓋などでゴシック風ベッドに見えなくもない……感じにアレンジ。
「急にヴァンパイアの来客があっても、慌てて布団を用意しなくても平気になったのじゃ!」
「後で寝てみるです!」
ツボに入って呻き声をあげている亡者は、綺麗に化粧をする。
「いいかの、フリン。基本的な化粧の練習なのじゃ」
土気色をした亡者の顔に化粧水をペタペタと叩き込むように。
次に呻きながら嫌がっているが、乳液を塗り付けていく。
噛み付こうとしているのを回避しながら、下地のクリームを素早く塗り広げる。
悲しそうな顔になってきたのを見計らい、ファンデで攻撃。
「これが基本なのじゃ! フリンも、もう少し大きくなったらしてあげるのじゃ」
「すご~い、こんなに血色が良く見える! プイキュアの魔法です! ラパパです!」
後は眉毛を作って、口紅を──。
「よし、完成なのじゃ!」
「スリュムすごいです~!」
「ふふ、褒めるでない、照れるのじゃ」
フリンから尊敬されるワシ。
くくく、この大人感、たまらぬのぉ。
「それじゃあ、柩のベッドで寝てみたいです!」
「ここは玄関じゃが……まぁ、風璃が帰ってくる夕飯までは時間があるから平気なのじゃ。誰か来たとしても、呼び鈴がなるじゃろうて」
天蓋付き柩の中にクッションを敷き詰め、狭いながらも2人で一緒に入ってみる。
「おぉ、上に何かあるとお姫様っぽいです!」
「わははっ、そうじゃろう。そうじゃろう」
と、その時──。
玄関の外から物音がした。
来客だろうか?
チャイムでも鳴るのかと、柩から上半身を乗り出して待ち構えていると……。
ガチャリと解錠。
「ただいま──」
映司とフェリが扉を開けて、こちらを確認した所で固まっていた。




