幕間 忘れ去られた傾国幼女
時間軸は映司が黒妖精の国へ出発した直後です。
基本的に幕間はコメディ時空。
私──フリンは、大草原の上に立っていた。
どこかは知らないが、風が吹くとサァッと草なびくような感じのナイスな場所だ。
だが、どこかぼんやりしているような風景。
──いや、これ知ってる! 夢だ! ドリームだ!
導入部が夢なら、主役フラグが立つってアニメの魔法少女も言っていた!
ここは夢っぽく、自然な振る舞いのまま進めよう。
ハイテンションなスキップ。
ニヨニヨしながらしばらく飛び跳ねていると、そこに見知った後ろ姿があった。
「あ、映司! 少し前に出掛けたと思ったら、もう戻ってきたですか!」
「……ごめん、どちら様でしたっけ? 風璃の知り合いかな?」
振り返った映司は、きょとんとした顔でそんな事を言い放った。
人違い……ではない。
ゆで卵が好きな方の、ヤケに野球に詳しい中年タレントの英二でも無い。
正真正銘、胸の大きな人と話すとき、眼が泳ぐ方の映司だ。
「え、えーっと、映司……いくら夢とはいえ、私の事が分からないですか!?」
「うっ、国を傾かせるプロ幼女……。確か4ヶ月前くらいにメインヒロインだった気も──」
刻の流れは残酷だった。
* * * * * * * *
「──ンちゃん? フリンちゃーん?」
重いまぶたを開けると、風璃の姿が見えた。
ぼやける意識の中、口元に付いているよだれをぬぐう。
「おっはよ~、ゲームやりっ放しで寝ないようにね~。そんな事してると映司お兄ちゃんみたいに、ろくでもない人間になっちゃうよ」
「ふぁ、ふぁい」
ダークな魂を感じる三作目のゲーム……をプレイしてる最中に寝落ちてしまったらしい。
そして、さっきの夢を見──はっ!?
夢の中、確か言われていた……。
「うわっ……私の存在感、薄すぎです……?」
自然と身体が反応し、口元に両手を当ててショックを現してしまう。
どこかで見た事あるようなセリフとポーズだが、気のせいだろう。
ここは尾頭家のリビング。
テレビにゲーム機を繋いで、そこが私の城だ。
日々、ニチアサスーパー子供タイムを楽しみに生き、ゲームを攻略し、女神らしく──。
「あれ……もしかして、これって、いや、まさかそんなはずはないです……」
『怠惰に毎日を過ごしているだけ』
天使の輪っかを付けたミニ自分が諭す。
『でも~人間達の気持ちを知るのも大切だよね~』
悪魔の羽根を付けたミニ自分が楽しげに言う。
楽しげに天使の自分をフルボッコしながら言う。
「よし! ゲームをしよう! ……の前にトイレです」
今はまだ夜ではないので、一人でトイレも余裕である。
まさに女神の余裕である。
ちょっとだけ、物陰に干からびた亡者でも隠れていて、華麗にサイドステップをしてきたら恐いなとビクビクしながらも、ミッションは余裕でこなす。
出来る女神は違う。
恐怖で漏らしそうだった小さい方を軽やかに済ませて、キチンと手を洗う。
思わず洗面所の鏡に向かって、やり遂げたドヤ顔をしてしまう。
そこに映る金色のツインテールに、大きな瞳。
幼いために背は小さいが、何かフェリも『血筋的に成長する』とか言ってくれていたし平気だろう。
そしてお気に入りのいつもの白いワンピース──いや、待つんだ私。
これはニチアサ的に、どこにでもいる標準的な幼女という奴ではないのだろうか。
「お、きちんと手を洗って偉い偉い」
風璃が洗面所を覗き込んでくる。
それに向かって、私は思わず問い掛ける。
ええと、何て言ったっけ。
あの、自分の事を現す言葉みたいな……アイ……アイデン……。
「風璃! 私にはアイアンメイデンが足りないような気がします!」
「フリンちゃん、それ拷問器具ね」
「……私には拷問器具が足りなかったですか」
若干、風璃は悩みながら答えを導き出す。
「あたしの推理によると──アイデンティティーが足りないと言いたかった気がする。鏡を見ていたし」
「そんなティティーっぽいのは知らないです!」
「えーっと、自分らしさのワンポイントが欲しいみたいな意味の」
「それです!」
「合ってた」
きっと言葉の妙というやつだろう。
そこでふと気が付いた。
風璃が手に何か持っている。
「ん? あ、そうだ、これフリンちゃん宛ての宅急便」
「ドラマタクエスト11ですか! 予約してたけど発売が早まったですか! いつもいつもいつもいつも発売延期するらしいのに!」
「ええと、送り主は確か──」
私は、風璃からゲームソフトが入りそうなミニサイズのダンボール箱を受け取り、包装をバリバリと破いて中身を確認する。
「フレイヤって人からみたい。どこの国の人だろう」
「……それ神の国の人で」
入っていたのは、一通の手紙と──黄金の首飾り。
「──私のお婆ちゃんです」
「神様もダンボール使うんだね。中には何が入ってたの?」
「えへへ、神器です!」
アイデンティティーを手に入れた!




