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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第四章 神槍精製

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104話 アルマジロは電気羊の夢を見るか(スケープゴート)

 俺──尾頭映司は歩けるくらいまでには回復した。

 残ったエーテルを回復魔法に当てたため、外見的には元通りでも、エーテルを微量にしか纏っていない。

 そのため、フェリにデコピンでもされたら即死してしまうような状態だ。


 もちろん、ランドグリーズ相手でもやばい。

 むしろ、そっちの方がやばい。


「ええと、ランドグリーズ。空が綺麗ですね」

「急にどうしました?」


 アドバイス無視して天井に大穴開けちゃったよ! とストレートに言ったら、またメイスが顔面に飛んできそうで恐くて言えないのです。


「その、ええと、いつも迷惑をかけてごめんなさいと言うか、ありがとうと言うか……」

「もう諦めてますよ。映司さんは、誰かのために行動すると無茶ばかりで、どうやっても止まらないじゃないですか」


 ランドグリーズの瞳は、天高く遙か遠くを見ていた。

 天井を壊した事はもう怒っていないのだろうか?


「空、綺麗ですね」


 長い髪をなびかせ、ここではないどこかを見ているようなランドグリーズは、少しだけ大人びて見えた。

 あの時から随分と心が成長しているように思えて、少し嬉しくなってしまう。


「今回、映司さんは疲れているみたいですし、私が事後処理に当たります。家に帰ったら……そうですね、バケツプリンという物が食べてみたいです」


 ランドグリーズは、はにかんだ笑顔を見せてくれた。


「この欲張りめ」

「女の子は欲張りなくらいで丁度良いんです」


 俺も釣られて、左目を瞑りながら微笑んだ。


「さてと、まとめに入るか」


 このスヴァルトアールヴヘイムに来てから、まだそんなに日数は経っていない。

 だが、様々な事をやった気がする。


「星の意思、これで俺が──この異世界でのナンバーワンだ」

『認めよう、オルタナティブオーディン──いや、神槍携えし4人目の主神(オーディン)よ』


 地面から響く、星の意思の声。

 もう、その声音(こわね)は下等な相手を押し潰すようなものではなく、対等と認めた相手への敬意が含まれていた。


「じゃあ、約束通り子供達の身柄はこちらで預かる」

『本当にそれだけで良いのか? 主神であるお前が望むのなら──』

「願い、叶えるのは子供達に任せる。ずっと他の異世界で暮らしても良いし、このクソッタレなシステムを壊しに帰郷しても良い」

『分かった。では、小さき者達の事は任せた』


 星の意思は、根は悪い奴では無い。

 ただ、ずっと必死に頑張って磨り減ってしまって、新しい視点を持てなかったのだろう。


「ちょっと待ってくれないかね、お客人」


 俺……の事だろうか。

 知らない声で話しかけられた。

 振り向くと、そこには1人の女性が立っていた。


「事情はさっき、バカ息子とメイド達から聞いたよ」


 背が高く、筋肉が付きまくった偉丈夫……ではない、女性。

 アメコミのマッチョヒロインと言う感じだ。

 顔のシワや、白髪交じりのセミロングから見ると、それなりのお歳なのだろうか。


「あたしゃイーヴァルディ、あのバカ息子の母親さ。丁度、遠出から戻ってきてね」

「初めまして──って、ドヴェルグなのに身体すごいですね……」


 種族イメージとしては、チビおっさんか、可愛い系の小ささのどちらかだ。

 よく見ると耳が尖っているため、エルフっぽくも見えるが……すげぇ背と筋肉だ。


「あら、ありがとう。まだまだ女として捨てたもんじゃないわね」

「いえ、筋肉的な意味で良い身体という」

「うふふ、冗談よ」


 腕を水平に持ち上げ、ムキッと力こぶを出すポーズ。

 わー、ラクダみたいだー。


「ああ、それで頼みがあるんだよ」

「何でしょうか」

「うちのバカ息子も一緒に連れて行って、鍛え直してやってくれないか?」


 バカ息子……イーヴァルディの息子の事だろう。

 母子2人のイメージ差は、肥えたゴブリンと、猛々しいオークキングくらいの違いがある。

 いや、そんな事より、さすがに子供達と一緒というのは無理だろう。


「イーヴァルディの息子は、子供の1人に毒を盛っていました。さすがに俺としての心情もあるし、子供達も嫌でしょう」

「ど、毒だと!? 他は色々やったが、僕は毒は盛っていないぞ!?」


 慌てふためくイーヴァルディの息子。


「あんた、そんな事をやったのかい?」

「ち、違うよママ!?」


 普段は母呼びしていたと思ったが、咄嗟なのかママ呼びになっている。

 親子の上下関係は何となく分かった。


「申し訳御座いません。それはわたしの独断です」


 俺達の元へ進み出てくる、見覚えのあるメイド。

 確か最初に館で見掛けたり、フェリを連れて行ったりしたはずだ。


「いつまでも延命ため、高額な薬は無駄だと思いましたので」

「なっ、お前、たかがメイドの分際で! 勝手な事を!」


 イーヴァルディの息子は、メイドに向かって手を振り上げた。

 だが、メイドはそれに怖じ気づきもせず、淡々と話を進める。


「それに、カノという少女に引きずられていて、前に進めないイーヴァルディの息子様のためでもあります」

「僕のためだと……?」

「最初は賢明でお優しかったイーヴァルディの息子様。ですが、子供達を助けられないと察すると、絶望し、段々と荒れていきました」

「なんだお前……その茶番は……。お前も利用して抱かせようとしていたんだぞ……」


 イーヴァルディの息子は振り上げた手を、そのままゆっくりと、力無く下ろした。


「あの輝かしかった鍛冶の才能も堕落し、人間性も失われていきました」


 突然、メイドは能面のような表情のまま、イーヴァルディの息子を突き飛ばし、ナイフを取り出した。


「責任は全てわたしにあります。愛していましたイーヴァルディの息子様」

「や、やめろ!」


 メイドは、そのまま表情を変えずに、光る涙が一条スッと流れた。

 そして──ナイフの切っ先を勢いよく自分の胸元へ。


「お暇を頂きます!」

「ダメッ!」


 金属音が響き、ナイフは途中で止まっていた。

 メイドとナイフの間には、手鏡サイズの赤い魔法壁が挟まっていた。


「か、カノ!?」


 見覚えある炎の聖剣を持つ、1人の幼い少女──カノが立っていた。

 病み上がりのためか、よろよろとしているが、その瞳には炎の意思が宿っていた。


「私は、イーヴァルディの息子様には感謝しています。例え、どんな事をされそうになっていたとしても、今まで生きてこられたのは──」

「イーヴァルディのバカ息子のおかげだな! 確かにさっ!」


 観衆の中からケンが飛び出してきて、もう一本の炎の聖剣で、メイドが持つナイフを弾き落とした。


「だから、そのメイドさんと一緒に(ゆる)す!」

「お、お前達……」


 イーヴァルディの息子は、今までの事でも思いだしているのか、感慨深い面持ちで子供達を見詰めた。

 そして、静かに涙した。


「しょうがない、子供達の意思を尊重だ」

「恩に切るよ」


 イーヴァルディママは、イケメンな感じでニカッと歯を見せた。


「だけど、主神さん。鍛冶士としてはこっちも良い物を作ってやるからね。それがあんたの敵の持ち物になったとしても、恨むんじゃ無いよ」

「楽しみにしていますよ」




『──前途は遠い。そして暗い。しかし恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。行け。勇んで。小さき者よ』


 星の意思の声が響き渡った。


(くら)い季節の後には、正しく力強い春がくるもんさ」







 その後、準備もあるので、いったん俺達は転移陣で地球に戻った。

 数日ぶりだが、懐かしく思える尾頭家の前に立つ。


 そういえば、星の意思が最後にやったグングニル試射の茶番。

 あれは、失敗しても特に何も起こらなかったらしい。

 住人達が不幸になる、と言っていたのは、この世紀の一万本ショーの成功を見られないという意味で不幸だったらしい。


 呆れた俺に『冗談だ、冗談』と星の意思が言ってきたので、また地面に大穴を開けてやろうかと思ったが、ランドグリーズの視線で思い留まった。

 今も、先に戻った俺達とは別行動で、色々と後始末をしてくれているとか何とか。


「さてと、戻ってくるランドグリーズのためにバケツプリンを用意しないとな」

「エイジ! ワタシも手伝うからレシピを教えてくれ!」


 横に居るフェリに笑い掛けながら、いつもの尾頭家の扉を開く。


「──ただいま!」


* * * * * * * *


 人の気配無い、寂しい場所。

 そこに二人の男が立っていた。


「ガルムよ、失敗しおったか。尾頭映司に情でも移ったか?」

「はっ! オレは最初からフェンリルの姐さんと、ヘル様のために行動してるだけだ!」


 2メートルを超える筋骨隆々な隻腕、白髪、白髭の老人──軍神テュール。

 その隻腕の軍神と、地獄の番犬ガルムは睨み合う。


「では、最初からその覚悟だったと?」

「アイツの意に沿わないなら、結局は殺されるか、無理やり懐柔されるかだろうよ!」


 ガルムは吐き捨てるように吠えた。

 それを見てテュールは、飽き飽きしたという表情を見せた。


「それなら仕方が無い」


 背後から、もう一つの人影が現れる。


「──よぉ、戦乙女。あんたもオレを殺しに来たのかい?」


 ガルムの瞳には、蒼と白銀の鎧が映っていた。









【異世界エーデルランド】

【現在、異世界序列541位→2位】


【尾頭映司ステータス】

 天上の階位:【上級第二位→上級第一位】


 スキル:【賢神供物(シンカ)

 スキル:【完全擬態(オーディンズミミック)

 スキル:【戦乙女使役(ヴァルキリースレイヴ)×1】

 スキル:【使い魔使役(ファミリアスレイヴ)×103】

 ▲スキル:【必中せし魂響の神槍(グングニル)


 ×使用不可スキル:【死者の館(ヴァルハラ)




【ユニット加入:今はまだ小さき火の兄妹】

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