101話 カは噛ませのカ(復活のフルメタルドラゴン)
「あーあ、こいつと関わっていたと知られちまったかぁ」
「ガルム……お前……」
「おっと、でも勘違いするなよ尾頭映司──」
ガルムは、脚にすがりついている丸々としたハムのような男を睨み付けた。
そして、サッカーだと言わんばかりに頭上にリフティング──空中で蹴り飛ばした。
「ギャッ」
悲鳴をあげながら、イーヴァルディの息子は壁に激突した。
そのまま地面に落ちて痙攣しているが、命に別状は無さそうだ。
「オレとしては、フェンリルの姐さんにあんな事をした時点で殺しちまっても良かったんだけどな」
ガルムが機嫌悪そうに舌打ち。
確かに、俺達上級第一位が人を殺そうとすれば、簡単にどんな風にでも殺せる。
今も、1%でも力を込めて蹴っていれば、水風船が割れるシーンを見るようなものになっていたはずだ。
「だけど、フェンリルの姐さんは我慢してたし、そんな事自体、望んじゃいなかった。尾頭映司、お前とも戦ってもらえなくなりそうだしな」
「ガルム、お前……意外とまともだな」
ただの戦闘狂かと思っていたが、人の心も分かるらしい。
「ああ、ただし今度はちゃんと戦ってくれないと──この街の連中を皆殺しにする。一緒に飯を食った奴らだけは見逃してやるが」
……やはり狂っていた。
「どうだ? まともだろう? ちょっと物事の優先順位が違って、ちょっと強いだけのまともなヘルヘイムの番犬様だ」
「俺が勝ったら、そのヘルヘイム以外の常識を学んでもらおうか……」
「ははは、確かにヘル様が治める場所の常識と、お前らの常識は違うか!」
ん? 確か、その名前はフェリの過去話の中に出てきた──。
「ヘルって、フェリの妹さんだよな?」
倒れているイーヴァルディを、つんつんつついているフェリ。
やめてあげなさいとも思ったが、それより気になるので聞いてみた。
「うん、お父様をいつも独り占めしようとしていた妹~」
「確か、焼かれて地獄に堕とされて亡くなったとか……」
「いや、しぶとく生き残って、地獄を支配したみたい?」
化け物かヘルちゃん。
……と思ったが、妹さんなので悪くは言わない事にした。
「ええと。もしかして、もう一人の弟さんも……」
「あ~、ヨルムンガンドは内臓を抜かれて海に捨てられた後、すくすくと育って星一周できる大きさになった」
「……フェリの一家、すげぇ頑丈だな」
「ふふふ、そこらへんの化け物連中とは格が違うぞ。お父様の血統は!」
そこ、誇らしげに言ってるけど、良いのか。
「ヘル様は素晴らしいぞ、尾頭映司!」
「そうか、ガルムは直接会っているというか、部下みたいなものか」
「その幼い容姿に似合わず、ちゃんと働いたら撫でてくれたり、現物支給でカリカリをくれる!」
やたらテンションが高いガルム。
「ペットか、お前は」
「撫でるときもトゲのように硬いブラシで、カリカリもゾンビの肉骨粉で作った最低級品!」
「……まさに地獄」
「その痛めつけ具合は、最高にオレを歓喜させる!」
ついにはうっとりとし出してしまったガルム。
……こういう性癖だったのか、こいつ。
さっきまでイーヴァルディの息子を操っていた黒幕感があったが、2分も持たなかった。
「一応聞いておくが、ガルム。そこに転がってるデブとの関係は?」
「たぶん同じ奴に言われて動いた。オレに言えるのはそれくらいだ」
フェリの事で怒っていたし、たぶん想定外の自体が今回起きたのだろう。
悪意は無さそうだし、これ以上聞いても番犬としてのプライドなどで話してはくれないだろう。
「そうか。それじゃあ一件落着したし帰るか──」
「尾頭映司、言っておくが戦わない場合は、本当に地獄の住人が増えるぞ?」
めんどうくせえええぇぇぇ!!
「あー、わすれてたわー。ほんとうだわー」
「オレの神器とお前の神器、どちらが強いか勝負だ!」
「はぁ……。ミーミル、疑似空間の展開を頼む」
* * * * * * * *
灰色の雰囲気を持った、俺とガルム以外の生命が存在しない空間。
ただし、今回も街並みはそのままなので半壊必至だろう。
「ガルム。一応、確認しておくが……」
準備運動しつつ、腕にはめられている金腕輪をためつすがめつする番犬。
「命を奪った時点で負け確定だ」
「オッケー。といっても、オレもお前も頑丈だから平気だろうな!」
俺はニヤリとほくそ笑んだ。
ガルムは金の腕輪を高く掲げ、エーテルを爆発的に上昇させる。
「金色の玖夜捌雫、オレを増やせぇ……」
「──ああ、俺とお前は頑丈だな。俺とお前は!」
俺もスキルを発動させる。
「使い魔使役──召喚! 今風に言えば、出てこい俺の友達作戦!」
俺の付近に、100以上のエーテルで描かれた紋様が浮かび上がり、その一つ一つに契約したモノ達が現れた。
生皮剥ぎ兎や、鉱石喰い竜のお友達100匹以上。
「はっ、そんな奴らじゃオレに触れただけで弾け飛んじまうぞ!」
8人に増えたガルムが吠える。
強者はオレ様だ、と勘違いするように。
「そうだな。だが、そうなったらガルム──お前の負けだ」
「なっ!?」
そう、命を奪ったら負けと言ったが、俺達の命のみとは言っていない。
「俺が召喚したこいつらを一匹でも殺したらどうなるか……くくく」
俺は必勝の策で心底楽しくなってしまった。
「ふはははは! あーっはっはっはっはっは!」
勝ち誇り、高笑い。
「尾頭映司、お前キャラ違わないか……。何かもっと正々堂々、誰にでも優しく、真っ正面から当たってくれるような感じで──」
「勘違いするなよバカ犬め! 俺が優しくするのは女の子のみだ!」
「……その割には、男のオレに料理くれたり、ケンに親身にしてやったりしてたような」
「うっ」
ガルムなんかに反論されてしまった。
だ、だが、絶対的優位は変わらない。
口で勝てなければ実力行使である。
「うるさい! 数の暴力に負けろガルムゥ!」
「お前、絶対に悪役ポジションだろ、そのセリフ!?」
たった8人のガルムに対して、100匹近い友達達が群がっていく。
怒涛の波に圧され、埋まっていくガルム達。
だが、1人のガルムが飛び上がり、こちらへ向かってきた。
「さすがに空中じゃ無理だろ! 尾頭映司ィ!」
特撮物のヒーローだと言わんばかりに、直線的なジャンプキック。
たぶん、その威力はかなりのものだろう。
かなりのものだろう……ぐへへ。
「おおっと、俺の友達がぁ~」
兎ちゃんが腕を組み、俺の前に仁王立ち。
「肉盾って、お前外道すぎだろぉ!?」
慌てて蹴りを解除し、体勢が崩れるガルム。
そこを横から──。
「ガルムへ復讐できると聞いて我参上」
30メートルを超える巨体が遅れて召喚され、ガルムを殴り飛ばした。
バウンドしながら、100匹の坩堝へと戻っていく。
「この瞬間を待っていたのだぁー!」
召喚された巨体──蒼霊銀装甲竜は意気揚々と、ボールを追うペットのようにガルムを追い掛ける。
地味に星の中心で、使い魔の契約を結んでいたのだ。
ガルムを殴らせるという条件付きで……。
俺も人の事を言えたものではないが、このドラゴンさんの小物っぷりが清々しい。
「そらそらそらぁー! 今のお主は、我に反撃できぬのだろう!」
すっごい嬉しそうに、ガルムの1人へと拳を振るう。
「この漲る闘気! 邪龍に仕えていた全盛期の我を思い出すようだわい!」
「ッこの! テメェは殴っても死なねーから平気だっつーの!」
逆にガルムに反撃され、再びに装甲がボコボコになっていくフルメタルドラゴンさん。
「ぐわああああーーーーッ!!」
【使い魔獲得:蒼霊銀装甲竜】




