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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第四章 神槍精製

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100話 星誕祭の流星(オルタナティブオーディン)

 映司が星の中心に向かってから一日が経った。


「今日は楽しい星誕祭、今日は目出度い星誕祭♪ 邪竜を追い払い、我らの星が誕生した祝いの祭り♪」


 賑やかな広場、調子外れに歌う吟遊詩人。


「さぁさ、見てくれミテクレ最高級品♪ 保留を打ち払い、我らの財布から欲しいを解放しなきゃ~後の祭りだ♪」


 吟遊詩人は背負っていたリュックを下ろし、商品を並べる。

 そこかしこを行き交う人々。

 ドヴェルグ、ダークエルフ、ハーフエルフなど人種も様々で華やかだ。

 

 老若男女、足の踏み場も無いと言った感じで、お祭り騒ぎ。


「星誕祭とぉ~、この街に誕生した一万人目の子供にカンパァーイ!」

「がはは、飲めりゃ何でもいいわい!」


 酒場は稼ぎ時といった感じで外までテーブルを出し、酒と肉を出し続ける。

 普段は陰気な地下都市だが、この星誕祭だけは騒いで食って飲んで踊って楽しむ。


 それが豪快なドヴェルグ流。


「ん? なんだあれは?」

「イーヴァルディの息子様じゃねーか」


 私兵達が人波を押しのけ、道を作り、その後から車輪の付いた何かが押されてくる。

 広場の人々は、自然とそれに注目してしまう。

 その車輪の付いた何か──拘束台に繋がれていたのは、狼耳と狼尻尾の若い女性だったからだ。


 既に人々には噂が広がっていた。

 終末をもたらす狼──フェンリルがこの街に来ていると。


「ひっ、あれはもしかしてフェンリル」

「や、やばくねぇか」


 広場の中央に設置された拘束台。

 その横にイーヴァルディの息子が立ち、ふんぞり返る。


「静まれ皆の衆! フェンリルは僕が作ったこの鎖──筋の戒鎖(ドローミ)によって完全に封じてある!」

「すげぇ! 今まで誰も為し得なかった、フェンリルの鎖を作りやがった!」

「これは母親であるイーヴァルディ様を越えたか!?」


 大衆から上がる歓声。

 それもそのはず、幾度となく序列第一位神の国(アースガルズ)から要請を受けて鎖を作成したが、毎回壊されていた。

 どの鍛冶士も作れなかった物を、その手で作ったのである。


「イーヴァルディ! イーヴァルディ!」

「イーヴァルディ!」

「すげぇぞイーヴァルディ!」


 星誕祭のムードもあり、イーヴァルディコールが鳴り止まない。


「チッ、これじゃあ母か僕か分からないじゃないか。まぁいい、僕が、この僕がフェンリルを無力化したんだ」


 イーヴァルディの息子は、まんざらでは無い表情のまま、鎖に繋がれた狼少女の方を眺めた。

 フェリがまた何か余計な事でも言うかと思ったが、無言のままだった。


「んん? 屋敷での余裕はどうした?」


 イーヴァルディの息子は、つい煽るように問い掛けてしまう。

 絶対的な優位にある立場というのを、民衆によって改めて実感したためだろうか。


「ごめん」

「ははは、怖じ気づいて謝るとは可愛いところもあるじゃないか! フェンリル!」

「やっぱり元凶であるワタシが不幸をバラ撒いてると思う……」

「じゃあ、その不幸を筋の戒鎖(ドローミ)で縛り付けることによって、解放してやろう」


 イーヴァルディの息子は、ニタリと口の端をつり上げた。


「僕の嫁になることによってなぁ!」


 観衆に向き直り、両手を大きく広げてアピールする。


「僕が無力化させたフェンリルを嫁にする事によって、その絶大なる力──ドヴェルグの力を全異世界にアピールする! そして、それが異世界序列に反映されれば、さらなる高みへと登ることが出来る!」


 ワッと沸く歓声。


「神々の天敵であるフェンリルを手懐けようってのか!?」

「もしかしたら、アールヴヘイムの順位より上になるかもしれないぞ!」

「暮らしの改善とか最初言ってたヒヨッコだと思っていたが……本当に実現させちまうってのか!」


 場は最高潮に盛り上がっていた。


「では、最高の化物花嫁を迎えるために誓いの──口付けを交わそう。フェンリル」

「うーん、それはちょっと嫌だなぁ……。初めては好きな人が良いから──」

「……あの一緒にいた男か、んん?」


 フェリは嫌そうな顔をして、顔を背けた。

 それに対してイーヴァルディの息子は、フェリの華奢(きゃしゃ)な顎を無理やり掴み、正面を向かせた。


(こんな事で世界を嫌いになりたくないなぁ……。あの日、幼い両腕で抱きしめて……耳元で『綺麗な瞳だな』と(ささや)いてくれたキミがいる、この世界を──嫌いになりたくない……)


 迫るイーヴァルディ。


(でも、信じてる……)


 フェリは目を閉じ、一人の少年を(まぶた)に浮かべる。


(エイジ……)


 イーヴァルディの息子は……ゆっくりと、フェリの艶めかしく、柔らかそうなピンクの口唇へと近付く。

 だが、その時──。


「な、何か上から変な音が……」


 観衆達は、まず音に気が付いた。

 何かが振動する、天の怒りのような轟音を。

 ──だが、ここは地下世界。


 頭上から音が響くと言う事は、かなり大規模な何かだ。


「チッ、なんだ、こんな時に。砂嵐か?」


 イーヴァルディの息子は、地下世界の天井を見上げた。

 段々と音は大きくなり、破滅が近付いてくるような激震へ。


「なっ!?」


 天井が一瞬にして消滅した。

 崩れたのでは無い、破片一つ落ちてこないほど綺麗に消え去ったのだ。

 地下都市を覆う超巨大な岩盤が。


 そして、ゆっくりとそこから降りてくる存在。


「お前は……尾頭映司!」


 虹色の光を纏い、白銀の槍を携えた黒髪の少年──尾頭映司。


「フェリ、大丈夫だったか?」

「うん! いつだってワタシは、エイジを信じてるから!」


* * * * * * * *


 俺──尾頭映司は宇宙から帰還した。

 これだけだと、特撮ヒーローの巨大宇宙人か何かに思えるから不思議だ。


 宇宙でグングニルを作り、大急ぎでここまで戻ってきたのだ。

 疑似空間での時間は、現実空間だと数秒かそこらだったので助かった。

 ワープに近い速度で星まで接近──そのまま減速しつつ大気圏突入し、聖剣の故里の上空から突入しようと思った時に気が付いた。


 天井崩落させたらやばくね? と。

 大気圏突入のためのシールド残滓(ざんし)で虹色に光りながら、器用に天井だけ魔法で消滅させる。

 そしてエーテルで探っていて、既に場所が分かっていたフェリの元へ落下。


「フェリ、何か食べるか──って、今は雑草の1本すら持ってないな」

「草はおいしくないから、別の物がいいかなぁ……」

「はは、悪い悪い。フェリと最初に出合った時は、あんなの食べさせちまって」


 鎖に繋がれたままのフェリは、頭上にハテナマークを浮かべる。


「最初に草をあげたの、ワタシだよ?」

「ん? そうだったっけ」


 俺の記憶では、エーデルランドで初めて出合って、流れで草を差し出して──フェリが不味そうに食べていた感じだけど……。

 まぁ、フェリの記憶違いかもしれない。

 

「お、お前ら。なに二人して僕を無視している……。僕はイーヴァルディの息子だぞ!?」


 怒鳴り散らすドヴェルグ。

 それは、少し前まで完全擬態していた元ネタさんだった。

 顔のパーツは悪くないが、やはり肥満によって美的感覚では酷い部類。


「最初から思ってたけど、ダイエットした方が良くないか?」


 つい、感想が口に出てしまった。


「っこんの!? なんて口の利き方だ! 僕の機嫌を損ねると、どうなるか分かっているんだろうな!?」

「どうなるんだ?」


 イーヴァルディの息子は、ハムのような身体をプルンプルン揺らしながら、怒りの余り地団駄を踏み鳴らしている。


「お前のグングニルは一生完成しないし、あの家の子供達もどうなるか分からんぞ! それにフェンリルも手の内にある!」

「ふーん、そっかー」


 俺は、掴んでいる一振りの槍を掲げた。

 長さは俺の身長より大きい2メートル程。


 肌に吸い付くような木製の柄は、機械仕掛けの神(ユグドラシル)の枝。

 エーテルを抵抗(ロス)なく行き渡らせ、この世の理を掌に握らせてくれる。


 先端の鋭利な(エッジ)は、気高い金属の色──白銀。

 曇り一つ無い表面は、明鏡止水を体現したかのように異質で、世界を三角形を切り取っているように見える。

 合わせた全体のシルエットは、狩りをする(ハヤブサ)が尾引くような、鋭角な矢印型。


 そこにルーン文字──報酬(フェオ)勇敢(ウル)巨人(ソーン)主神(アンスール)車輪(ラド)炎熱(ケン)などの25文字を刻み込んだ。

 英語で言うアルファベット──ルーンのFUThARK(フサルク)全てで25重にルーン魔法が即時発動可能。

 エーテライト自身が、こう形作ってくれと伝えてきた気がしたので、そのまま具現化してやった。


「な、なんだそれは?」

「グングニル。エーテライトで作ってきた」


 イーヴァルディの息子の顔から余裕が消えた。


「カノも病気は治したし、星の意思から子供達の転移許可ももらった。魔力では無い、エーテルを使った鍛冶方法を、空気が綺麗な異世界(エーデルランド)で教える」

「そんなバカな……僕でも治せなかったのに……しかもあの星の意思から転移許可……」


 ざわついていた観衆達も、静まりかえってしまった。

 イーヴァルディの息子はそれを見て、最後の虚勢を絞り出すように大声をあげた。


「だ、だがフェンリルでさえ拘束する筋の戒鎖(ドローミ)は僕が、僕が──」

「うん、だからごめんって思ってた」


 フェリはバツの悪そうな顔をしながら謝った。

 そして鎖を軽々と引きちぎり、派手に砕く。


「エイジのためにそのままだったけど、いずれ壊しちゃうから悪いなって……」

「なっ、いつでも壊せたというのか……」

「ワタシがいるから、こんな騒動が起きたんだよね。本当にみんなごめん」


 うつむき加減のフェリ。

 俺はそれを見て、空いている左腕を使って、本当は臆病で優しい狼少女を胸元に抱き寄せた。


「え、エイジ近い……」


 相手の吐息すら感じてしまう距離。


「俺による、俺のための、俺へのご褒美」

「……まぁ、それなら……しょうがないかなぁ」


 フェリは顔を赤らめながら、まんざらでも無いトロンとした視線。


「でも、フェリ。今度からは俺のために、自分が我慢するような事はしないようにな」

「大丈夫。エイジを信じて、本当にエイジが来てくれたから……」


 間近で見るフェリは、いつもの雰囲気と違って、恋する少女のような初々しさと儚さだった。

 ──ノリや流れ的に大胆に行動してしまったが、ふたりの心臓の鼓動が早まり続けて止まらない。

 というか、フェリの心臓の鼓動が分かる言う事は、胸が密着していると言う事でもあって……。


「ぇぇええっと、ワタシは、その……ネ!?」

「あ、あわわ」


 俺は、ふと我に返り──急にみっともなく大口を開けて、訳の分からないドモり方をしてしまう。

 たぶん俺の顔は真っ赤だろう。

 フェリも気が付いたのか、そんな感じで取り乱しているので尚更やばい。


 ど、どどどどどどどど童貞ちゃうわ!

 ……童貞男子です。


「い、いーう゛ぁるでぃのムスコ! オマエの野望は、ウチクダカレタゾ!」


 お互いの体温までも意識してしまい、急に恥ずかしくなったのでフェリから離れ、苦し紛れにイーヴァルディの息子を指差す。

 何かカタコトになってしまったが、異性へのメンタル面では下級第三位(さいじゃく)なので許して下さい。


「ひぃっ!? 僕をどうするつもりだ!? クソッ! クソォッ!」


 イーヴァルディの息子は、無様に這いつくばりながら、観衆達の方へ逃げようとする。

 そして、その中の一人へとすがりつく。


「ガルム、僕の事を助けろォ!」


 そこには燃えるような赤毛をした、地獄の番犬──ガルムがいた。

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