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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第四章 神槍精製

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99話 没義道な小さき者(イーヴァルディの息子)

 イーヴァルディの館。

 その地下室。


「くくく……さすがのフェンリルも、僕が作った鎖──筋の戒鎖(ドローミ)に繋がれては、首輪付きの飼い犬も同然だな」


 暗く陰気な室内。

 光が届かない、湿った石造りの空間。

 そこに鎖で貼り付けにされたフェリと、それを満足げに見詰めるイーヴァルディの息子が居た。


 フェリの格好はラフなTシャツとジーパンのため、筋の戒鎖がスタイルの良い身体のラインを強調していた。


「犬ではない、狼だ。愚盲(ぐもう)極まるイーヴァルディの息子よ」


 特に苦しそうでも無く、凛々しい表情で返すフェリ。

 だが、イーヴァルディは、その一挙手一投足に恐れを()していた。


「は、はは! そんな事を言って、没義道(もぎどう)な僕を焼き殺そうと言うのか? お前なら、鎖に繋がれていても出来るだろうな……何せ終末をもたらすくらいだからな!」

「没義道……道に反した者、か」


 怯える彼に対して、つまらない──そんな気持ちが顔に出る。

 フェリは、最初に鎖を棒で強くねじって食い込まされても、特に問題は無かった。

 普通の生物に対してなら拷問具の一つで、首をねじ切るために使うもの。


 そのため、密かに怒りを抱いているのではないか、と小心者のイーヴァルディが勘ぐっていたのだ。


「だけど僕を焼き殺したら、お前達が知り合ったあの子供達がどうなるかわからんぞ? 直接、手を下さなくても……僕が死んで後ろ盾を無くし、家を取り上げられたらどうなるか」


 フェリは、元より危害を加えることは全く考えていなかった。

 だが、言葉の中に気になる部分があった。


「イーヴァルディの息子──キミは、どうして子供達に家を与えたの?」


 ついつい、フェンリルとしての口調では無く、映司と一緒に居る時のような柔らかい口調になってしまっていた。


「そんなの決まっている。僕の評価を上げるためだ。母に追い付くためには、鍛冶の腕だけでは足りないからな」

「ふーん、その時は良い人だったんだ」


 フェリの突飛な、思考を数段階飛ばしたような発言。

 それを聴いて、イーヴァルディの息子は顔を歪めた。


「良い人だと? 施しを受けた相手から見たら、その瞬間だけはそうかも知れんな! だが、今はもう……そんな回りくどい事に疲れたんだ!」


 吐き捨てるような強い口調。


「どんなに努力しても腕は母へは届かず、精一杯に偽善者を装ってもこの世界は腐っていく! 段々と、あの家の子供達を見ていると苛立ちが収まらなくなってくる!」

「そっか」

「だから、黒ずくめのアイツの甘言に乗ってやった。フェンリルを縛る鎖を作り、待ち構えていろと言われてな!」


 フェリは、哀れそうな眼差しを向けていた。

 ──金色の母性のような。


「大変だったね」

「ぐっ、お前に何が分かる!」

「わかんないかも知れない。だけど、今が辛そうなのが何となく、わかるかなって」


 イーヴァルディの息子は、さらに苦虫を噛み潰したような怒りを見せた。

 上位存在であるフェリの金の瞳、それは恐れと同時に、全てを見透かすような全能感が漂っていた。

 見る者の心を無条件で揺さぶる、ロキから受け継がれた魔眼。


「まぁいい……まぁいいさ。僕はエーテライトを手に入れてグングニルを作り、お前を嫁にして、母を超える」


 抑えるようなくつくつという笑い。


「なぁに、心配するな。あの家の子供達も、哀れにでも思われて、映司とかいう奴の施しを受けるかして上手くやっていくだろう」

「それで最初、カノにあんな酷い事をさせようとしていたの?」


 イーヴァルディの息子は、抱かせようとした事か? と思い出した。


「身体を重ねて情が移れば、僕も掌握しやすくなるしな。こちらも重荷を捨てられて一石二鳥だ。あんな治らない病気持ちなんて、目の前からいなくなれば良い」

「もしかして、治そうとした時もあった? カノの病気を」

「偽善者は偽善者なりにアピールするさ。だけど混血によっての、生まれついての肺の弱さに伴う病気は高額な薬でもムリだ」


 星の意思は、多種族を救おうとして異世界の仕組みを作ったはずが、皮肉にも新たな混血達を迫害する結果となってしまった。

 邪龍を追い払った時から、時間が経ちすぎているため、当然と言えば当然かもしれない。


「まぁ、ガキ達の事なんてもうどうでもいい。いくら恨まれようと気にはしない……」

「キミは悲しいなぁ」

「そして、今日は星誕祭だ」


 人々が星の意思を称える祭り──星誕祭。

 イーヴァルディの息子は、住人なら誰もが持つ祭具『流れ星の腕輪』を装着した。


「観衆が集まる広場で、大々的にフェンリルを拘束する鎖を作ったとアピールして、手懐けるために誓いの接吻でもしようではないか。ハハハ!」

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