97話 ちょっと宇宙へグングニル作りに行ってくる!(垂直跳び)
俺は星の中心から、空を目指してロケットのように突き進む。
土の中、自らの身体を杭のように打ち込んでいるので、頭への振動が床屋のシャンプーのように心地良い。
見栄を張って美容院と言いたかったが、普通の男子高校生はそんなオシャレな所へは手が届かない。
あんな、きらびやかっぽい場所どうしろと。
──ただ、太陽らしき恒星へは手が届きそうだ。
プレート、岩石、土、全てをぶち抜きながら、春のツクシのようにニョッキリと大地から顔を出し、そのままの勢いで空へと打ち上がった。
地表から10㎞、20㎞、30㎞。
大体、対流圏を突き抜けた。
そこから成層圏、50㎞、100㎞。
エーテルで物理法則を書き換え、その中から見る世界は──空気との摩擦で玉虫色に染まっていた。
綺麗だな~と思っている内に、真っ暗な宇宙へと辿り着いた。
「地球は青かった……けど、スヴァルトアールヴヘイムは砂漠が多くて色合いが地味だな」
そこからさらに加速して、この異世界の太陽を目指す。
距離が遠いために速度を出すが、ワープに近い状態なのだろうか。
速度計は無いので、残念ながらざっくりとしたスピードしか分からない。
たぶんアインシュタインにゴメンナサイしないといけない程度。
地上でこれをやると、人類絶滅まっしぐらなので、宇宙限定だ。
ウラシマ効果その他は、今の所……起きていない。
ユグドラシルが封じている魔法の種類と何か関係がありそうだが、今は置いておこう。
「周りの星々が、流れるような線に見えて面白いなぁ……うわっ!?」
よそ見操作をしていたため、月の半分サイズの星に衝突してしまった。
音は聞こえないが、エーテルで観測するとその振動は凄まじく、ケーキに爆弾を仕込んだみたいに四散してしまった。
その巨大な破片一つ一つが目にも止まらぬピンボールとなって、辺りの星々をショットガンとなって破壊し尽くす。
「はわわ……」
『小さき者よ、黒妖精の国には影響は出ないと観測できた。今は鍛冶の事だけを考えろ』
エーテルによる、星の意思からの通話。
ぶつかった方向的にセーフなのだろうか……。
それとも今後、破片を処理して影響が無いという事にするのだろうか。
『ただ、戻ってくる時はこちらへ弾き飛ばさないようにしてくれ。と……私達は思う』
「は、はい……」
三度目の異世界破壊は避けたい所であった。
細心の注意を払いながら太陽へ向かう。
進路上に障害物がある時は細やかに避けたり、破片を残さないように魔法で消滅させる。
ちょっとしたシューティングゲーム気分だ。
これで鋼鉄の魚類や、『キガ ツク トワ タシ ハバ イド ニナ ツテ イタ』的な敵機がいないのが残念だ。
……いや、あれはいない方がいい、うん。
そんな異層次元戦闘機の事を考えながら、太陽に到着した。
感想としてはとてつもなくでかい。
赤々というより、白飛び混じりの出来の悪いカメラ映像を見ているようだ。
だが、期待していた部分は──。
「うーん、あんまり熱くないな」
最高のグングニルを作るには、中心部の1500万度でも足りない。
太陽に近付き、身体を晒しても全く皮膚を焦がさない。
感覚的には、布団に入って温々していた方が百倍暖かい。
火の蛇のように襲いかかる紅炎すら、欠伸をして迎えられる。
これなら胃袋の中に入れても平気なくらいだろう。
「やっぱ自前で炎を作るか」
太陽を破壊してもやばいので、また場所を変える。
今度は、遠目に星がチラチラ見える程度の寂しい場所。
暗黒空間の中で、恒星の光だけが俺という存在を照らす。
「よし、ここで良いか。──来い! ミスリルツール!」
かざした手に光が集まり、四角い物体が召喚される。
特製のボックスに収納されている、オリハルコンハンマー等の鍛冶道具。
後は材料のエーテライトを……。
転移陣を作り、星の中心に繋げる。
空気などが漏れないように調整もしてある。
そこに手を入れて、エーテライトを探し──。
「うわっ!?」
急に向こう側から手を引っ張られ、上半身だけが転移陣の中に入ってしまった。
体勢的に逆さまの視点。
そこに見えるのは、冷めたジト眼をしているランドグリーズ。
「ど、どうした?」
「映司さん、いきなり天井をぶち破って行かないで、最初から転移で向かってください。フルメタルドラゴンさんと、私で穴を修復してる最中です……」
そういえば、転移許可は下りたのだから──。
「そりゃそうだな!」
「そりゃそうです……」
ちょっと諦め気味なランドグリーズの表情も可愛いのであった。




