96話 ただ一緒に居るだけの存在(私)
星の意思の無言の圧力により、炎の魔剣を打ち直すことになった。
折角なので、ケンの身長に合わせたサイズにしよう思う。
折れた半分を使い、形を整え直す作業から。
「その魔剣は我が加護を受けし者が持っていたはずだが……」
ふむむ、と頭に疑問符を浮かべながらフルメタルドラゴンさんが悩んでいる。
あの道具屋のおっさん、そんな大層な人だったのか。
「あやつはな、この荒れ果てた地でドヴェルグが生きて行く道を模索した一人」
俺はオリハルコンハンマーで、元魔剣とエーテライトを加熱して少量混ぜ合わせ、叩きながら聞いていた。
「邪龍が荒らしきった後の星、天敵が去ってもその後の生活は困難を極めた。そこで武具を作り、序列を上げる事によって生存の道を──」
「この異世界のシステムは、生きるために仕方なく作られたものと言う事ですか」
「そうだ」
俺は敬語で返しているが、その内容は納得出来るものではなかった。
……それで子供達が犠牲になる道理はないからだ。
「今までを創ってきた彼らは偉大です。だけど、これからを創るのはケン達」
「子供、か」
「未来を創造できる力を育てなければ、どこの世界でも先は無い」
「ふむ……そのために、お主はこの世界に介入しようと」
俺は首を横に振った。
「いいえ。世界は、その世界に住む存在が切り開かなければ意味は無い。だから俺は、ケン達にキッカケを与えるだけです」
「年の割には、達観したような事を言えるのだな」
「受け売りみたいなものですよ」
このやり取りを見ていたランドグリーズは、小さな欠伸を漏らしながら一言。
「風璃の影響ですよね」
「まぁ、あいつがいなきゃ、たぶん俺はイーヴァルディの息子を出会い頭にぶっ倒して、2分で異世界を半壊させて戻ってきていただけかもしれないな」
ただ回りくどくなったのか、それとも成長したのかはいまいち分からない。
だけど、親しい者に影響されるというのは悪く無い気分だ。
「私なんて、ただ一緒に居るだけの空気みたいなものですからね~」
珍しくワガママっぽい口調で、いじけてしまうランドグリーズ。
座っている椅子のヒジ置きにだら~んと身体を預け、行儀悪い姿勢になっていた。
「いや、そんな事は無いぞ」
俺は鍛冶用の耐火ミトンを外し、ランドグリーズに近付く。
そして頭をポンポン。
「──ふぇっ!?」
眠たげだった眼は、びっくりして大きく開かれていた。
「俺1人だったら、フェリの事が心配で心配で何も手が付かなかったと思う。冷静なランドグリーズがいるから、余裕を持って行動できているんだ」
「そ、そうですか……。でも、私はただ面倒臭い人間なだけで、それで冷静に見えているだけで……」
「昔から面倒臭いから慣れてる。出会ってから、まともに話が出来るまでどれくらいかかったと思っているんだ」
俺は、いつも風璃の後ろに隠れていた少女を思い出した。
目の前の戦乙女も根本は変わらず、扱いにくく、もどかしく、愛おしい存在だ。
つい、それを懐かしむように苦笑してしまう。
ランドグリーズは顔を赤くして、目を逸らしてしまった。
「あ、あれは……風璃がずっとお兄ちゃん自慢をしてきて、私も段々と気になってしまっていてですね……」
「くくく……映司お兄ちゃん、もしくは映司お兄様とか、おにいたまとか呼んじゃっても良いんだぞ?」
「映司さんの悪い所は、すぐ調子に乗る所だと思うんです」
図星を突かれてしまった。
昔から、自分を表現するのが下手だった藍綬。
最近、様子がおかしかったが、それを少しでも解きほぐすことが出来ただろうか。
「それと、私なんかを気にせず、フェリさんの事に力を注いで上げてください」
……気遣っていたと感付かれたらしい。
「フェリは大丈夫と自分で言っていた。それにもし何かあっても、その時は俺の全てを生贄に捧げてどうにかしてみせるさ」
俺の発言が大げさだったためか、ランドグリーズは寂しげな表情を見せた。
* * * * * * * *
その後、2本の魔剣を作った。
片方はケン用。
遠距離まで炎を飛ばすように変質させ、子供でも比較的安全に戦えるようにした。
もう片方は妹のカノ用。
そのエーテルの特性を活かし、炎の壁を作りだして攻防一体で使えるようにした。
どちらも短めの剣になってしまったが、試金石としてエーテライトを少量使ったため、使い手に合わせて成長する特性を付与する事に成功した。
もはや元の魔剣では無く、聖剣と言えるシロモノだろう。
だが、これは試し打ち。
俺が使うグングニルを想定すると、今ひとつ物足りない。
ほぼ純度100パーセントのエーテライトを本番では使うため、鍛冶士側も全力で挑まなければならない。
俺が本気で行動すると、星自体が壊れてしまうだろう。
そこで──。
「この星が邪魔だな」




