94話 星になったドヴェルグの話(イシ)
同じ様な要領で、今度はミスリルハンマーを使ってオリハルコンハンマーを作る。
最高の戈を作るためには、最高の下地からである。
「はぁ……」
ランドグリーズの半眼による、独りでつまらないですよ~という抗議の視線。
最初のうちは、鍛冶場にある大きな椅子に座って、楽しげにこちらを見ていたりもした。
だが、途中からは段々と飽きてきたのか、地面まで届かない脚をブラブラさせながら溜息を吐いている。
男子的には武器作成は心躍るものだが、女の子には退屈だったのかもしれない……。
ケンの方は目を輝かせながら、興味津々。
この男女による温度差……耐えがたい雰囲気である!
「ふむ、そこのおなごは暇なようじゃな。さりとて、主人から戦乙女が離れるわけにもいかんだろう。そこで、だ──」
助け船を出してきたのは、扉から斜め45度で顔を覗かせているフルメタルドラゴンであった。
たぶん、地面に顔をすりつけながら、こちらへ話しかけているような気もするが、そっち側の視点では想像しないようにしておこう。
彼の名誉のためだ。
「昔の話をしてやろう」
「え、それはちょっと……」
俺は本能的に止めに入った。
年長者による自分の昔語り程、退屈率が高いものは無い。
地元ではワルだった~、みたいな話のパターンだろう。
「ふはは、星の意思の昔話を暴露してやろうというのだ。お前らを小さき者呼ばわりした、小さき者の話をな」
「アレの事で面白い話なんてあるんですか?」
少しだけ興味が沸いた俺は、鍛冶仕事をする手を止めず耳を傾けた。
「ああ、奴がドヴェルグだった頃の話だ──」
妖精の国、アールヴヘイムにある一人のドヴェルグがいた。
大変働き者で、鍛冶仕事を生業としていた。
美しいエルフの妻をめとり、子宝にも恵まれた。
「幸せそうな感じですね」
「そうでもないぞ、昔のアールヴヘイムでの出来事だからな」
当時、アールヴヘイムでは純血エルフ至上主義。
ドヴェルグは元から地位が低く、それがエルフを妻に迎えて子供を作るなど──言語道断。
それでも、そのドヴェルグは真摯に働いて、良い鍛冶仕事をすれば認めてもらえると思っていた。
毎日、朝から晩まで働いた。
迫害に耐え、くず鉄しか回して貰えず、魔剣が出来てもエルフの手柄にされる。
そんな日々。
「名前はスヴァルトアールヴヘイムと似てるのに、随分と違うんですね」
「アールヴヘイムを白、光だとするならば──スヴァルト、それすなわち黒、闇だからな」
辛くとも、幸せだと思っていた日々。
その時間は、一瞬にして打ち砕かれた。
アールヴヘイムの王が、ドヴェルグの妻に恋をしたのだ。
恋愛は人を狂わせると言うが、王がそれを実践したらどうなるか。
簡単に人の心を踏みにじり、略奪を成功させてしまう。
残された男と、その娘。
何の力も持たない男は、妻の無事を祈り、帰りを待っていた。
だが、そこに届いたのは訃報。
王の愛を受け入れぬ妻は、自らの命を絶った。
ただ待つだけを選択してしまった男は血の涙を流し、怒り狂った。
その烈火のような憤怒を込めた一振りの炎の魔剣を作りだし、そのまま王の下へ出向き、焼き殺した。
「悲しい、お話ですね……」
「そうだな、戦乙女よ。おとぎ話ならここで終わり。だが、これは創星記──続きがある」
純血のエルフ、しかも王の立場にあるものが、ドヴェルグに殺された。
大問題となったが、王としても復讐される道理があった。
アールヴヘイムの不平不満がこの行動に触発され、純血エルフ種以外の反乱の火種がくすぶり始めた。
そこで、エルフ達はある判断をした。
彼らに新たな土地を与えるというものだ。
「それって……」
「そう、純血のエルフ以外が送り込まれた流刑地──スヴァルトアールヴヘイム」
男は、ドヴェルグ、ダークエルフ、ハーフエルフ等と共に、この地へと送り込まれた。
当時、邪龍達が支配していた地獄の地。
異世界序列でも最下位近く。
「娘さんはどうなったんですか?」
「次代の王候補に気に入られていたらしく、スヴァルトアールヴヘイムへは送られなかったらしい。確か今もまだ生きていて、名前は……何と言ったか。まぁいい」
こんな地、娘と離れ離れで、最愛の妻は死亡している。
復讐を遂げた男の心は満身創痍、抜け殻だった。
だが、弱き者達が過酷な地で生き残るため、象徴として祭り上げられた。
虐げられる種族をまとめ上げた、鍛冶士のドヴェルグ──王殺しの星。
──星の意思と。
男の元々の素質もあったが、過酷な環境で生き残るためにどんな禁呪でも施された。
段々と星のように人々の意思を乗せ、死人達の思いすら力に換える呪われし力。
邪龍の首に手を届かせる所までになった頃には、既に男はいくつもの魂を持つ存在となっていた。
そして、星に願いをかけた人々の魂と共に邪龍を滅ぼした。
「どうした、ランドグリーズ? 顔色が悪いぞ」
「……いえ、何でもありません。それより──ケンさんもお腹が空いたでしょうし、休憩を兼ねてご飯にしましょう」
「ああ、丁度オリハルコン製の道具を一式作った所だしな」
【オリハルコンツール】
ハンマー、ハサミ、鏨、グラインダー等の鍛冶道具一式。
映司以外が使うと、ミスリルよりピーキーな反応のため魔力、エーテルが暴走する。
召喚魔法が仕込んであるため、どこでも呼び出す事が可能。
武器としても使えるが、星の意思に怒られる。




