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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第四章 神槍精製

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93話 神器作成は道具から(ミスリルハンマー)

 というわけで、今度こそ鍛冶を開始する。

 星の意思から、何でも揃っているという場所が用意された。


「ここも空間がねじ曲げられているのか」

「わっ、魔神様! すごいですよ! 色んな道具や薬品が揃っています!」


 洞窟から戸一枚隔てた位置。

 そこには人工的な室内──鍛冶場が広がっていた。

 レンガ造りの壁に、火の入った真っ赤な炉、どこに通じてるのか不明な煙突。


 多彩な大きさの鍛冶ハンマー、その台となる金床。

 フイゴやその他道具を合わせて何十組も用意されている。


「これ、地上では目が飛び出るくらい高級な銘入り道具や設備ですよ!」

「そうなのか」


 興奮するケン、やはり男の子なのだろう。

 だが、俺は普通の道具では満足しない。


「よし、この道具を使って道具を作るぞ!」

「……映司さんって、本当に期待を裏切りませんよね」


 ランドグリーズから、ツッコミが入った。

 普段、俺のキャラ的なものはどう映っているのだろうか。


「まずは鉱石を──といきたいところだけど、ミスリルとかオリハルコンってドヴェルグの魂を使ってるんだよな?」

「正確には、ダークエルフやハーフエルフ等の魂の残滓も入っている」


 開いていた人間サイズの扉から、ヌッと巨大な顔を覗かせるフルメタルドラゴン。

 ガルムにぼっこぼこにされた装甲も、いつの間にか元通りになっている。


「あ、おはようございます」

「うむ、良い目覚めだ。ここを訪れる者との戦いはいつも素晴らしい。今回は特に、一番最初のオーディンとの戦いを思い出したな」


 目を細め、懐かしそうに語り始めた。

 そういえば、グングニルを持つ歴代オーディンとやらは、ここにエーテライトを取りに来ていたのか。


「あの、フルメタルドラゴン……様? その魂を使った伝説の鉱石、本当に使ってしまっていいのでしょうか?」


 一応、目上の人間(ドラゴン)なので敬った呼び方をしておいた。

 戦闘時は興奮していたが、今はお互いに冷静な感じだし。


「使え、存分に使え。お前にはその権利がある、魔神オウズエイジよ」


 うぅむ、納得してしまっても良いのだろうか。

 うじうじと悩むべきものではないと心では理解しているが、ケン達を実際に見ると──。


「魔神様、どうか我らの魂、お使い下さい」


 視線に気が付いたのか、ケンが力強く言う。


「──と言ってもですよ。別にそのために殺されて鉱石にされたと言う訳でもなく、大半は寿命で死んだ魂ですから。死んだ後に誰かの役に立てる程度にしか、この星の住人は考えてませんよ」

「そういうものなのか……」


 本人がそういうのなら、有り難く使わせてもらおう。

 そして、それで現状を切り開く力をケンやカノ達に与える。


「それでは、この星の命! 打ち直させて頂く!」


 さて──。

 どうやって素人の俺が、伝説の金属を使って鍛冶仕事をするか。

 そんなの簡単だ。


 餅は餅屋、鍛冶は鍛冶屋だ。

 俺は、昨日読み取っておいたエーテルを使い、完全擬態する。


「ま、魔神様!? その姿は──」

「ああ、イーヴァルディの息子だ」


 昨日、握手で接触した男。

 その時に見た外見は、背が小さく、耳の尖ったドヴェルグ。

 ヒゲは無く、でっぷりと横方向に脂肪が付いている。


 貴族っぽい赤と金の高そうな服は、パンパンに膨れ上がっている状態。

 ……外見的には、あまりよろしくないが文句は言ってられない。


「性格も酷いけど、鍛冶士としての腕はあるからな、こいつ」


 俺は手を開いて見詰めた。

 ゴツゴツとしている、良い職人の手だ。


「それじゃあ、まずは基本的な鍛冶ハンマーを──ミスリルで作ろうか」


 ──というわけで、フルメタルドラゴンに張り付いているミスリルを剥ぎ取って……いやいや、それはダメだろう。

 最初はちょびっとだけやろうと思っていたけど、意外と良いドラゴンさんっぽいし。

 では、気を取り直して──。


 星の意思との交渉が上手くいったため、転移陣を自由に使えるようになった。

 大空洞の外にあったミスリル鉱石を、エーテル感知と転移陣を使い、手辺り次第に採る。

 トン単位を軽く集めたところで、今度は合金用の鉄鉱石も欲しくなった。

 ケンの家の庭に放置しておいた鉄鉱石へ転移陣を繋ぎ、手だけひょいと出して調達。


 イーヴァルディの息子は伝説の鉱石すら見ただけで、ドヴェルグの血としてか、その扱い方も一瞬で理解できる。

 どう溶かし、インゴッドにして、どう打ち付け、ミリ単位で位置を調節するか。

 そのための薬品知識、柄のための木工技術、カバーのための革工技術。


 まさに鍛冶のための種族。

 遺伝子自体に刻まれているような手の動き。

 ハンマーでミスリル合金を打ち付ける、心地良いリズム。


 熱されて赤く染まり、飴のようになった金属を練るように打ち、また練るように打ち。

 火花を散らし、強度、形を整えつつ、魔力(・・)を込めて──。


「いや、ここからは俺にしか出来ないエーテルを込めるか」


 魔力で分子や原子から均一に揃え、強度などを飛躍的に上げる手法。

 それよりさらに上の物を作るため、エーテルでもっと細かな調整をする。

 突き詰めていくと、重力や空気が邪魔なくらい、ミクロン単位の正確さ。


 だが結局、今使っている鋼鉄製のハンマーではエーテルの伝導率が低すぎる。

 最初にこれを作って正解だった。


「よし、ミスリルハンマーが完成!」

「み、ミスリルでハンマーを……」


 近くで見ていたケンが目を丸くして、倒れそうになっている。


「それじゃあ、このミスリルハンマーを使って、オリハルコンハンマーを作るぞ!」

「映司さん、またですか……」


 再びランドグリーズからのツッコミが入った。









【ミスリルハンマー】

 伝説の金属であるミスリルを使った贅沢(あたまおかし)な鍛冶用ハンマー。

 その特性である魔力、エーテルの伝導率の高さのため、常人には扱えないピーキーなスペックになっている。

 のちに、鍛冶士は店先にこのハンマーを置くことが腕の証明となり、一流職人のトレードマークとされた。

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