シュレーディンガーの猫 (3) -不確定性原理-
量子力学の確率において、面白い話があります。ハイゼンベルクの不確定性原理です。物理量の値は確率的にしか決まらない、というのは前回と同じです。ハイゼンベルクは、例えば、粒子の座標xの確率的な誤差Δxと運動量(質量×速度)pxの誤差Δpxの間には、以下の不確定が成り立つことを証明しました。
Δx・Δpx>h/4π (1)
h=6.6×10^(-34) [Js]でプランク定数と呼びます。式(1)の右辺は、プラスの値なので、ΔxとΔpxが同時にゼロにはなりません。座標と運動量以外にも、エネルギーと時間にも同様の不確定が成り立ちます。いろいろな物理量には、それと対になる不確定な関係の物理量があります。
この関係は興味深いです。もし、電子の座標Δxがゼロに近づくと、Δpxは無限大になります。つまり、Δxがゼロになると、運動量が無限になりどこかへ飛んでしまいます。光を当てなくとも、式(1)はそのことを表しています。
また、陽子を周る電子は、陽子からの距離Rとして、1/Rの引力を受けます。Rがゼロになると無限の引力で、電子と陽子は同じ場所になり、一体化するかに思われます。引力が無限大というのもエネルギー保存則から扱いにくくなります。しかし、電子の座標は陽子の位置に確定してΔx=0になります。式(1)より、Δpxは無限大となり、電子はどこかへ飛んで行きます。従って、電子は陽子と一体化せずに、無限大の引力もありません。電子が陽子の周りを回る水素原子の出来上がりです。
ハイゼンベルクとボーアはこの関係を観測に照らし合わせて説明しました。つまり、こうです。
「座標を『観測しようとしたら』粒子に光などをあてる必要がある。するとその光のせいで粒子の速度が変わってしまう。」と主張しました。しかし、式(1)は、光を当てようと、当てまいと成り立ちます。量子力学に特有の不確定なのです。
以上、観測の有無にかかわらずに成り立つ、量子力学の確率解釈についてお伝えしました。
今回の話で面白い証明をした人がいます。名古屋大学名誉教授の小澤正直さんです。
この、「観測したら」の条件に取り組みました。粒子の座標xを測定する観測装置の示す値Xを考えました。同様に、粒子の運動量px測定する観測装置の示す値PXを考えます。すると、それぞれの誤差Δx, ΔX, Δpx, ΔPXの全てをゼロにできないという、小澤の不等式を証明しました。
小澤名誉教授は、ハイゼンベルクの不確定性原理を、量子力学本来の不確定と、観測の不確定に拡張して、実験でも証明されました。
とはいえ、ハイゼンベルクが間違いというわけではありません。観測装置も、量子力学の自然現象なので、観測装置を構成する粒子の座標x',、と運動量px'には、ハイゼンベルクの不確定性原理が課せられます。




