第九十五話 王都ブライトシティ
あけましておめでとうございます!
ファイ〇ルソードRTAを見て「お前すごいな」って思ったので負けないように頑張って更新しました!
そんなもん見てたからこんな時間までもつれこんだ説もあります
「お、おいおっさん! アリの穴は全部塞いだんじゃなかったのかよ! もし万が一ここを通ってアリたちが街にやってきたら……」
廃屋の中心に空いた穴を前に、そう声を荒らげるラッド。
その懸念は理解出来る。
迅速な対応によって犠牲者は出なかったものの、平和なはずの街への魔物の襲撃は、人々の心に影を残した。
この穴が残っていたことによってアリが湧き出すようなことになれば、今度こそ取り返しのつかないことが起こるかもしれない。
だが……。
「それなら心配ない。この穴は、もうとっくに塞がってるからな」
「は……?」
固まってしまっているラッドを手招きし、「ほら」とその穴を覗き込ませる。
「え? これ、洞窟につながって……ない?」
混乱して首を傾げるラッドの言葉の通り、この穴の先はとっくに埋め直されている。
いまここに残っているのは、かつて〈大空洞〉に通じていた穴の、ほんの数メートルの入り口部分だけ。
だが、俺の目的にはそれで十分だった。
「みんな、そんな顔をしてないで早く来い。〈帰還の羽〉が使えないだろ?」
俺はその場にいる全員をどこにもつながっていない穴の中に誘導すると、〈帰還の羽〉を発動させた。
※ ※ ※
「こ、ここは……」
〈帰還の羽〉によってやってきたのは、以前にやってきた「アリの巣」の本来の入り口だ。
「ど、どうして? 洞窟は、つながってなかったはずなのに……」
理論派なニュークは目を見開いて混乱しているが、まあなんてことはない。
システム的に〈帰還の羽〉は、「使用者がダンジョンにいる場合、ダンジョンごとに入り口と指定されたポイントに転送する」というアイテムに過ぎない。
極論、〈帰還の羽〉を使った場所と入り口がつながっている必要など全くないのだが、まあその辺りのことはゲームの知識がない人間に語っても理解は出来ないだろう。
「さ、ここから少し歩くぞ。まだアリが残っている可能性もある。警戒を怠るな」
俺は話もそこそこに、ラッドたちを促して奥へと進む。
警戒しろ、とは言ったものの、この辺りのアリは一度掃討している。
モンスターが有限なブレブレのシステム上、昨日の今日でアリたちが溢れ出す訳もない。
特に戦闘になることもなく、俺たちは以前と同じ道を通り、過去にハウンズの連中に不意打ちをされた「餌」の運搬路までやってきた。
「あと一息だ。はぐれるなよ」
一応一言だけ後続に声をかけ、あいかわらずの通路を辿って、俺たちはアリの巣の中心部に足を踏み入れる。
「な、なぁ」
「ん?」
かけられた声にふと横を見ると、隣に並んだラッドがこちらを見上げていた。
どこか不安そうに、問いかけてくる。
「もしかして、このままアリの巣を進んで王都側に抜けるつもりなのか? いや、その、一瞬で地域の境目まで来れたのはすごいと思うけどよ。山から王都までは馬車でも一週間くらいの距離があるんだろ? だったら素直に馬車を使った方が……」
そこまで聞いて、俺はやっとラッドの勘違いに気付いた。
「ま、この辺ならいいかな」
訂正する代わりに、インベントリから一つのアイテムを取り出す。
それは……。
「〈帰還の羽〉? え、でもそれを使っても元の場所に戻るだけじゃ……」
「さぁて、それはどうかな?」
さらに困惑するラッドに笑みを返してから、〈帰還の羽〉を使用する。
眩い光が辺りを包み、次に目を開けた時、俺たちは先程までとは違う場所に立っていた。
「ここは、さっきの巣の入り口、か?」
長々と説明するより、論より証拠、だろう。
戸惑うラッドの声に、俺は洞窟の入り口を指して答えた。
「ここがどこかは、外に出てみれば分かるさ」
「……まあ、おっさんがそう言うなら、見てくるけどよ」
疑り深い視線をこちらに向けたあと、それでもラッドは素直に洞窟の外に向かって歩み出す。
そしてその顔を洞窟の外に出すと、大きな叫び声をあげた。
「は、はぁあああああ!?」
だが、それも無理もない。
驚きのあまりパクパクと口を開け、必死で示した指の先。
そこには、フリーレアから馬車でも十日かかる場所にあるはずの、〈王都ブライトシティ〉の偉容があったのだから。
※ ※ ※
「し、信じられません。まさか、たったの三十分足らずで〈王都〉に来てしまうなんて……」
クラクラとした様子でそう驚きを口にするのは、ニュークだ。
理論派な彼は、どうしてもさっきまでの出来事が信じられないのか、しきりに首を振っている。
しかし、そう複雑な話じゃない。
「アリの巣の入り口がある場所は地域によって違うって言っただろ。だから、同じアリの巣の中でもフリーレア側で〈帰還の羽〉を使えば山の近くに転送されるし、王都やニーバー側に進んでから帰還するとそれぞれの街の近くに移動する、って訳だ」
俺が大襲撃イベントの対象をハチではなくアリにした最大の理由は、表彰式での「主人公」の捜索のため。
だが、それだけでイベント対象をアリにした訳じゃない。
大襲撃イベントでアリが作るダンジョン〈大空洞〉は、フリーレアからなら中心部に到達することがたやすく、それゆえにそのまま地域移動用のショートカットとして利用出来るのだ。
「ま、このショートカットが使えるのは〈フリーレア〉から〈王都〉か〈ニーバー〉に行く時だけで、帰る時はこんな楽は出来ないんだがな」
「そ、それでも、往復の移動時間のうち半分がなくなると考えるだけでも革命ですよ」
俺がそう言うと、まだ衝撃が抜けきってない様子のニュークは必死な様子でそう答える。
とはいえ、それほどの動揺を見せているのはもはやニュークくらいだった。
事前に話を聞いていたレシリアは驚くはずもなく、静かに俺の横を歩くプラナは「廃屋に来た時点で予想はついた」と平然としているし、マナも一瞬だけ驚いていたようだが、すぐに持っていた「旅のこころえ」をしまって〈王都〉の観光ガイドを開き始めた辺り、こいつが一番図太いのかもしれない。
一番動揺していたラッドも「まあ、ししょ……おっさんのやることだしな」とよく分からない納得を見せたことで、ニュークも何とか気持ちを切り替えられたようだ。
まだ〈王都〉が見える場所まで来たというだけで、ここはモンスターが出現するフィールドだ。
油断はしないに越したことはない。
とはいっても、基本的に街の近くに出るモンスターはあまり強くない。
アリの巣から〈王都〉までの道中、何度かモンスターと戦闘にはなったものの、レベルの上がったラッドたちの敵にはならなかった。
(……ただ、明らかに敵のレベルは上がってるな)
〈王都〉周りのモンスターについてはしっかりと覚えている。
出てきた敵を〈看破〉で見たところ、今の俺たちにとって脅威になるほどではないが、初期状態では絶対に出てこないレベルの魔物が出現しているのは確かだった。
〈闇深き十二の遺跡〉が攻略され、世界のモンスターのレベルが一段階上昇したのは確定と見てしまっていいようだ。
ただ、それ以外には特筆することもなく、俺たちはすんなりと街に辿り着き、世界の中心とも言えるその街に、初めて足を踏み入れる。
「こ、ここが王都……」
「わ、わわっ! すごい! 見てください! あの看板、魔法で浮いてますよ!」
お上りさん丸出しでキョロキョロと周りを見回すラッドに、興奮してプラナの手を振り回すマナを微笑ましく眺めながらも、俺の頭は次の計画を練っていた。
「はしゃぐのはあとだ。まずは冒険者ギルドに向かうぞ」
出発前の時間を使って、ヴェルテランにここの冒険者ギルドに例の「遺跡攻略者」の捜索に協力してもらえるよう、一筆書いてもらった。
件の彼がどんな人間かは分からないが、冒険者である以上、ギルドにやってくるのは間違いないだろう。
そして、それっぽい人物を見つけてしまえばもうこっちのものだ。
(今の俺には、「切り札」がある)
あの〈魔王〉が俺たちに残したのは、経験値だけじゃない。
アレさえあれば、きっと俺は「主人公」を……。
と、考え事をしながら歩いていたのが悪かったのだろうか。
曲がり角で、誰かとぶつかりそうになる。
「っと。わる――」
「ああ。すまな――」
互いに軽く頭を下げて、そのまま足を進めようとして……。
「……は?」
「ア、レ……?」
硬直する。
俺とそいつは目が合って、何か不思議なものでも見たかのように、お互いが中途半端に口を開けたまま、固まった。
何とも言えない沈黙。
だが、金縛りから解けたのは、相手の方が先だった。
「――レクス! レクスじゃないか、久しぶり!」
呆れるほどに整った顔に喜色を浮かべて、嬉しそうに俺の名前を連呼する。
(おいおい、どんな偶然だよ、こりゃ)
女でも見とれるほどの豪奢な金色の髪に、優しげな笑みを湛えた甘いマスク。
一度も見たことのない、だが飽きるほどにゲームで目にしていたその顔に、俺の口は自然とその名を口走る。
「アイン……」
初めての〈王都〉に到着してから、たったの二分。
俺はレクスの友人にして、「チートの中のチート」の名をほしいままにする〈王都〉の、いや、この国の最重要人物、〈光の王子アイン〉と遭遇した。
ブレブレのチートオブチートくんのステータスは次回公開!
明日更新予定です!
ということで第五部本格始動!
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では、今年もよろしくお願いします!





