第九十三話 遺跡攻略者
ほんとは昨日更新する予定だったんですが、昨日突然12月26日発売のコンプエース2月号が送られてきたので読んでたら遅れました!!
いやーコンプエース面白いですね!
特に巻頭カラーの「主人公じゃない!」って新連載がオススメです!!
とまあ白々しい宣伝はともかく、コミカライズ連載始まりました!
コンプエースは電子版もあるらしいので、近くの本屋に置いてないって人もぜひ!
「――おう。早かったな」
俺たちが執務室のドアを開けると、ヴェルテランが書類から顔を上げてそんな言葉を投げかけてくる。
ただ、俺としては悠長に挨拶を返している心の余裕はなかった。
単刀直入に、問いかける。
「レシリアから話は聞いた。〈闇深き十二の遺跡〉が攻略されたってのは、本当なのか?」
……俺にとって「遺跡が攻略された」という報告は、寝耳に水だった。
初めてのワールドイベントである虫の大襲撃イベントの最中に起こった、〈魔王ブリング〉の襲撃。
そこで俺はあえて「イベントの流れに逆らう」ことで、本来逃げ出すはずの〈魔王〉を、その場で仕留めることに成功した。
のちのイベントで大暴れする〈魔王ブリング〉をここで潰せたというのは大金星だ。
ただ、一方で主人公につながる有力な手がかりもまた霧散してしまった。
そう思っていたところでの、レシリアからの情報提供だ。
誰が遺跡を攻略にしたにせよ、放っておく訳にはいかないし、その「誰か」が〈光輝の剣〉らしき武器を使っていたとしたらなおさらのこと。
だから、そのレシリアに情報を流したのが冒険者ギルドのギルドマスターであるヴェルテランだと知った俺は、取るものもとりあえずヴェルテランのところまで話を聞きに来た、という訳だ。
「本当だ。……いや、正確には事の真偽は分からねえが、そうとしか思えない現象が確認された」
俺の性急な問いかけに、ヴェルテランも感じるところがあったのだろう。
真剣な顔を作ってうなずいた。
ただ、その答え方には違和感が残る。
「そうとしか思えない現象? 遺跡の攻略が報告された訳じゃないのか?」
ヴェルテランは俺の問いかけに「順を追って話そう」と言って、椅子に深く座り直した。
「まず、遺跡が攻略されたって情報が流れてきたのは、隣の地域、〈ニーバー〉の冒険者ギルドからだ」
「ギルドの通信装置か」
現代日本と違い、インターネットも電話もないこの世界では、情報の伝達は遅い。
ただ、冒険者ギルドにはほかの街のギルドと連絡を取るための通信の魔道具が存在していて、〈アリの女王討伐〉などの有事の際にはギルドマスター同士が話し合っているのは俺も知っていた。
「今から五日前。ニーバーの街の近くの遺跡から突然、光が膨れ上がり、大陸全土を巻き込むほどに大きく広がって消えたそうだ。これはその時にニーバーの街にいた人間ほぼ全員が確認している。いや、それどころか、この街、フリーレアの住人にも、西の方で何かが光ったのが見えた、と言っている奴もいる」
「なるほど、な」
ゲームにおいて、「主人公」以外が〈闇深き十二の遺跡〉を攻略することはなかった。
〈闇深き十二の遺跡〉が攻略された時、外で何が起こっているのかは分からなかったが、光が世界に広がる演出、というのはありえる話だ。
「で、それを不審に思った冒険者のパーティが件の遺跡に行ってみると、そこの魔物は全滅。最深部まで攻略が完了していた、ということだ」
「なら、やっぱり攻略した本人が報告した訳じゃないんだな」
「ああ。だから、遺跡を攻略した奴がソロってのも、光る剣を使ってたってのも、単なる目撃情報だ」
「なんだ、そりゃ……」
普通に考えて、〈闇深き十二の遺跡〉の攻略は冒険者にとって大きな功績になる。
それを攻略したのであれば、誰もが一番にギルドに報告するはずだ。
「……それを、お前に言われたくはないんだがな」
どこか呆れた様子で、ヴェルテランが俺を見る。
俺は〈魔王〉を倒したことをヴェルテランに報告はしたものの、〈魔王〉を倒したのが俺だというのは公表しないようにヴェルテランに頼んだ。
〈魔王〉が復活したこと、〈魔王〉を倒したことまでは公表せざるを得なかったものの、討伐作戦中に複数のパーティで〈魔王〉と遭遇し、復活したばかりで力が戻っていなかった〈魔王〉と数を頼りに戦って、犠牲を出しつつもかろうじて辛勝した、というシナリオにしてもらったのだ。
これはこれ以上の名声は要らない、というような話ではなく、単純に〈魔王〉最弱であるブリングと実際に戦ってみて、今の俺たちが正攻法で勝てるような相手ではないと悟ったからだ。
残りの〈魔王〉は、数十本も特効アイテムを用意出来るような都合のいい相手ばかりじゃない。
だとしたら、極力〈魔王〉に狙われるような評判が立つのは避けたい。
ただ、俺の名前を伏せるのにヴェルテランに要らぬ手間をかけさせたというのも事実。
俺はヴェルテランの恨みがましい目を避けるように、問いかけた。
「それで、それ以外にそいつに関する情報はないのか?」
「どうやら人付き合いが嫌いな奴だったらしくてな。向こうも必死に素性を探ってはいるらしいが、今はまだ名前すらはっきりとは分からんらしい。ただ……」
そこで、ヴェルテランは執務机に身を乗り出し、まるで秘密の話を打ち明けるようにこう言った。
「――そいつはもうニーバーの街を出て、どこかに旅立ったって話だ」
※ ※ ※
「兄さん、どうしますか?」
「……そうだな」
ギルドを出た俺に、レシリアが問いかけてくる。
まだ思考がグルグルとして定まらないが、状況を整理してみる。
まず、〈闇深き十二の遺跡〉が攻略されたのは、五日前。
時期的には〈魔王〉を倒したすぐあと、俺たちがまだアリの巣穴にこもっていた時期だ。
それなら、俺たちが気付かなかったのも納得出来る。
それに……。
(思い起こせば、何だか最後の方、少しアリが強かった気がするんだよな)
女王が死んだことでアリの襲撃はなくなったが、巣穴の敵が全滅する訳じゃない。
迎えが到着するまでの暇つぶしを兼ねてアリ退治をしていたが、予想よりもアリが硬かったような印象はあった。
それが「遺跡が攻略されたことによって、敵モンスターのレベルが上がっていたから」と解釈すればしっくりとは来る。
(次に気になるのは、「眩く光る剣」だよな)
俺の知る限り、そんな武器は〈光輝の剣〉くらいしかない。
いや、普通の剣に光のエンチャントをかければもしかすると誤認することもあるかもしれないが、可能性はあまり高くないだろう。
そして、遺跡が攻略されたのが五日前だとしたら、〈魔王〉を倒したあと。
言い換えると、俺の前に〈光輝の剣〉が現れたあとだ。
俺たちが中途半端に「〈魔王〉との遭遇イベント」を起こしたせいで、ニーバー側にいた「本当の主人公」が〈光輝の剣〉を使えるようになった?
そんなことがありえるのか?
(……どちらにせよ、確かめないって選択肢はない、か)
ヴェルテランは、その冒険者はニーバーを発ったと言っていた。
そして、ニーバーから行ける地域は二つだけだ。
山を挟んで北西のフリーレア。
それから……。
頭の中に地図を思い浮かべた俺は、言葉を待つレシリアに向き直った。
「レシリア。これから、旅の準備だ」
「兄さん?」
話についていけない様子の彼女に、俺はこう言い放った。
「――初めての遠征だ。俺たちはこれから、王都に向かう!」
ということで第五部開始!
フリーレアタウンにさよならバイバイして舞台を移します!
ちょっと余裕作りたいのでひとまず一日置き投稿予定
次回更新は明後日です!





