第九十二話 祭りのあと
〈ゴブリンスローター〉が一度装備したら呪われて外せなくなるのぶっちゃけ忘れてたんですが、まあ地面に投擲とか高速交換だと呪い処理を迂回して外せるガバ設定だったと脳内補完しといてください
「――今回は、流石にハードだったな」
ようやく帰り着いた懐かしのフリーレアの宿で、俺は深いため息をついた。
死ぬような思いをしながら〈魔王〉を退けたのはもちろん、そこから先も一苦労だった。
そもそも、「アリの女王」のところに俺たちが一日で乗り込めたのは、正規の入り口がアリの巣のある山の近くにあったため、〈帰還の羽〉で一気に飛べたから。
逆に言えば、フリーレアに戻る時に〈帰還の羽〉を使った場合、戻れるのは山の近くまでだけで、街に帰るのにはほとんど役に立たないことになる。
フリーレアからアリの巣の入り口まで馬車がやってくるのに三日、そこからその馬車に乗って帰るのにさらに三日。
結局、後始末も含めて俺たちがフリーレアに戻るまで一週間以上の時間がかかったのだ。
(命があっただけでも儲けもの、と言いたいとこだが、本音を言うともう少し実りが欲しかったな)
今回、「アリの女王」を倒したのは冒険者ではなく、〈魔王〉だ。
作戦の功労者の席は空席となり、それに加えて〈魔王〉が復活していることが発覚してしまった。
何とか〈壱の魔王〉を倒したとはいえ、復活を果たしたであろう〈魔王〉はまだまだいるのだ。
当然ながらその対応が優先されて表彰式は行われず、「主人公」が誰だったのかは結局分からずじまいになってしまった。
(〈光輝の剣〉が手に入れば、そんなもの全て帳消しになったんだが……)
念のため、ブリングを倒したあとに〈光輝の剣〉を弾き飛ばした場所も探ってみたが、そこにはもう何もなくなっていた。
それに……。
「――顕現せよ、〈光輝の剣〉」
虚空に手を向けてつぶやいてみるが、当然のように何も起こらない。
(やっぱり、無理か)
ゲームのイベントに則れば、〈光輝の剣〉でブリングを退けた「主人公」は、イベント後に自力で〈光輝の剣〉を呼び出すことが出来るようになる。
だが、どうやらそれは俺には適用されないらしい。
(あの時、俺が素直に〈光輝の剣〉を手に取っていたら、もしかして……)
一瞬だけ考えてしまって、首を横に振る。
仮に、あの場で俺が剣を手に取ってイベントをゲーム通りに進めたとしたら、あの場ではブリングを追い返すことは出来たかもしれない。
だが、そうするとあの〈魔王〉は退却し、のちのイベントでパワーアップして再出現することになる。
そしてその時は、今回とは比べ物にならないほどの数の犠牲者が出るのだ。
(あの選択は、間違ってはいなかったはずだ)
それに思い返せば、〈光輝の剣〉が出現した状況もゲームとは微妙に異なっていた。
「主人公」ではない俺の前に〈光輝の剣〉が現れたというのはもちろんそうだが、それ以外にも不自然な点がある。
まず、〈光輝の剣〉というのはアイテムではなく、能力だ。
あれは〈光の勇者〉である「主人公」の力が具現化されたものであり、〈光輝の剣〉の説明文にも「自分の手に破邪の力を集め、光の剣を生成する技」と書かれている。
だからゲームでは「主人公」の右手に光が集まって、そこから徐々に光の剣が生成されていく演出があった。
だが、あの〈光輝の剣〉は俺の右手ではなく、最初から俺の目の前に出現した。
なら別の誰かが生成したものを渡してきたのかと考えても、剣を渡せるほどの距離には誰もいなかったし、仮にどこかに「主人公」が隠れていたとしても、〈光輝の剣〉を自分の手から離して宙に浮かせるなんて芸当は、ゲームでの「主人公」の力の範疇を越えている。
何から何までがイレギュラー。
いや、イレギュラーというなら、まず「主人公」でもない俺たちが、〈魔王〉と最初に遭遇したことだって……。
(いや。もしかすると、それが原因……なのか?)
本来〈光輝の剣〉が使えない俺たちが、〈光輝の剣〉を必要とするイベントに巻き込まれてしまった。
だから世界が「イベントをつつがなく進行するため」に、俺の目の前に〈光輝の剣〉を出現させ、イベントの辻褄を合わせようとした、なんてことは……。
そこまで考えて、俺は首を振った。
情報がそろっていない状況で考えすぎても、深みに嵌まるだけだろう。
だが、一つだけ。確かに言えることは……。
――この世界には、俺の知っているゲームと違った「何か」がある!
これから先、ただゲームの知識を妄信するだけじゃダメだ。
何がゲームと同じで、どこがゲームとは異なるのか、慎重に見極めていく必要がある。
(ともあれ、まずはこっちの強化を急がないとな)
ブリングに対しては、幸運にも特効アイテムが大量にあったから有利に戦闘を運ぶことが出来た。
だが、ほかの〈魔王〉が出てきた場合、今の俺たちではなすすべもなく殺されるだろう。
(ただ、それについては好転しそうな材料もある)
ブリングとの戦闘中に〈レベルストッパー〉を外したことで俺はレベル五十からついに五十一に成長した。
さらに!
戦闘後に自分のステータスを見てみたら、なんとレベルが五十二にまで上がっていたのだ。
今までの三ヶ月、レベルが一すら上がらなかったのが嘘みたいなレベル上昇だが、やはり、最弱とはいえ〈魔王〉は〈魔王〉。
その経験値も桁が違ったということだろう。
(それに、虫の大襲撃も終わったということは、時代ゲージもかなり進行したはず。これがもう少し進んで、時代区分が変わる条件が整えば……)
ついに、あのイベントが、「アイン王子の失踪」イベントが発生するはずだ。
そうなれば、「魂の試練によるステータス振り直し」が出来る。
(こういう時こそ焦らずじっくりと、だ。「主人公」があの〈大空洞〉にいたのはほぼ間違いないんだ。捜索は並行して行いながら、今は地盤固めを優先して……)
「兄さん!」
バン、と音を立てて、宿の扉が開いた。
何事かと振り向くと、そこには息を切らせたレシリアが立っていた。
「レシリア? まだ、ギルドに行く時間には……」
俺は振り返りながら、そんな言葉をかけ、
「――〈闇深き十二の遺跡〉の一つが、攻略されたそうです」
突然告げられた言葉に、思わず硬直した。
「……は?」
何を言われたのか、分からなかった。
だって、そんなことはありえない。
〈闇深き十二の遺跡〉はゲームのメインコンテンツだ。
当然ゲームでは、NPCが勝手に遺跡をクリアしてしまうことなんてなかったし、俺たちがボスを倒したまま放置していた〈死の番人の洞〉がいつまで経ってもクリアされないことから、この世界でも同じだと俺は判断していた。
そうだ。
もし、そんなことを出来る存在がいるとすれば、それは……。
「信じがたいことですが、攻略を果たしたのは、三ヶ月前はまるで無名だったソロの冒険者。目撃者の話では、彼は……」
そこでレシリアはほんの少し考えるように言葉を途切れさせ、それから何かを訴えるように俺の目を見て、こう言った。
「――ただの一太刀で魔物を打ち払う、眩く光る剣を使っていた、という話です」
動き始めた時計の針は、止まらない。
激しく回り出した歴史の渦に、俺は否応なしに巻き込まれていくのだった。
←to be continued
くぅ~疲れましたw これにて第四部完結です!
いやぁ、第四部も綺麗に終わりましたね!
というのはともかく、今回の魔王戦、連載前に考えてたこの作品の三つの見せ場の最初の一つなんですよ!
作者的にはようやくここまで辿り着けたなぁという思いと、まだここまでしか書けてないのかよという思いで板挟み中です
このまま第五部突入出来ればいいんですが、まだ詰めきれてないのでちょっと間が空くかもしれません……しそうでもないかもしれません
まあ12月26日にコミカライズの連載が始まる(はず)なので、遅くてもその時には戻ってくるかなと
それまでは12月4日より好評発売中の書籍版『主人公じゃない!』でも読んで待っていてください!(巧妙な宣伝)
では、また第五部で!





