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主人公じゃない!  作者: ウスバー
第四部 光の目覚め
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第八十八話 襲撃

パニック描写書くの楽しすぎて話が全然進まない!


「おや、またあんたかえ。最近、何かと物騒じゃからのう。気のせいかもしれんが、地面の下で何かが動いてる気配を感じるんじゃよ。地震も妙に多くなっておるし、何か悪いことが起こる前兆でなければいいんじゃが。ほっほっほ」


 日課となったほっほっほ婆さんとの語らいを終え、ギルドで今後の仕事について話し合いをしている途中、「それ」は起こった。


 バァン、と音を立ててギルドの扉が弾けるように開き、一人の男がギルド内に転がり込んでくる。


 彼は周りから向けられた奇異の視線にも気付いた様子もなく、鬼気迫った表情で口を開いた。


「そ、そと! そとに、あ、あ、あ、あ、あっ……」


 逸る気持ちだけが先行しているのか、男は外を指さしながら要領の得ない言葉を繰り返し、それから大きく息を吸って、こう叫んだ。



「アリだー!!」



 端的かつ意味不明な叫びに、騒がしかったギルド内が一瞬にして静まり返る。

 みなが戸惑いに動きを止める中で、


「来た、か!」


 俺はにぃと唇の端を歪め、男の脇を抜けるようにして、ギルドの外にいち早く飛び出した。

 つんのめるようにして建物の外に出ると、そこには想像していた通りの光景が広がっていた。


 活気にあふれたフリーレアの街並み。

 そのそこかしこに地中から穴があけられ、そこから黒いナニカ……触角までふくめれば全長一メートルにも及ぶほどの巨大なアリが、何匹も這い出してきていた。


 街の人々は悲鳴をあげ、逃げまどう。

 だが、それだけではない。


 地上に出てきたアリは、身体を折り曲げるようにしてその尻を建物や街の人々に向け、そこから黄色の粘液を発射した。

 逃げ遅れた人々は、その液体が放物線を描いて飛んでくるのを、ただ呆然と眺めていた。


 それは、人々が隠れる建物や地面にぶつかって、シュゥゥゥと音を立てる。


「なんだこれは? アリの体液か?」

「うわっ! 酸……。酸だああああああああ!!」


 阿鼻叫喚の地獄絵図。

 だから、まずはパニック寸前の場を、掌握する。



「――〈ファイアレイン〉!」



 俺の手から放たれた火の雨が、アリたちの上に降り注ぐ。


 このアリ、〈キラーアント〉は一般人にとっては恐ろしいモンスターであるが、レベルは十しかない。

 少し経験を積んだ冒険者にとっては大した敵でもないし、仮にもA級の冒険者であるレクスの敵じゃない。


 場の視線が集まったのを待って、俺はすかさず叫ぶ。


「落ち着け! 戦えない者は建物の中に! 冒険者は俺と一緒に虫退治だ! 大した相手じゃないのに数は多い! 稼ぎ時だぞ!」


 アリが倒せない相手ではないと分かったこと、行動に方向性が与えられたことで、混乱していた状況に、少しだけ秩序が戻る。

 中には、「レクスだ!」「あれが……」なんて声も聞こえた。


 そして、その状況を後押しするように、冒険者ギルドの扉がバーンと開け放たれ、そこから見慣れた偉丈夫が叫びながら飛び出してくる。


「冒険者ギルドのヴェルテランだ!! アリたちは、俺たち冒険者が引き受ける! 野郎ども、やっちまえぇ!」


 まるで山賊みたいな掛け声だが、この場合はその分かりやすさが功を奏した。


 その大声を無視出来なかったのか、一斉にヴェルテランの方を向き直る殺人蟻たち。

 そしてそこに、ワアアアアアという蛮声と共に飛び出した冒険者たちが殺到し、冒険者対殺人蟻の戦端が開かれたのだった。



 ※ ※ ※



「ししょ……おっさん!!」


 街の外から戻ってきたラッドたちと合流したのは、それから十数分後。

 街にあふれていたアリたちが粗方片付いてからだった。


「よぉ。早かったな」


 俺が片手をあげて迎えると、ラッドは焦った様子でまくしたててくる。


「よぉ、じゃねえよ! どうなってんだよ、これは!」

「見ての通り、アリの襲撃だよ。……まあ、心配するな。山場は越えた」


 まだ街の壁なんかにはそれなりの数が残っているが、街の中にはもう、数える程度しかアリは残っていない。

 それも、血気盛んな冒険者たちの手によってほどなく駆逐されるだろう。


(しかし、間違いないな)


 ゲームの時よりも迎撃側、つまりフリーレアの冒険者の質が上がっている。


 NPCが人間になって状況判断が確かになったからか、あるいはクラス関係の情報やマニュアルアーツについて情報提供したのがよかったのか。

 なんにせよ、ゲームの時とは比べ物にならない速度で状況は終息に向かっているように見える。


(まあ、事前に色々と仕込んでおいたしな)


 フリーレアでアリの襲撃を受けた時、一番の湧きポイントは街外れにあるとある廃屋からだった。

 だから事前に手を回し、その廃屋を買い取って穴があけられないような蓋をしておいたのだ。


 その分のアリはほかの穴に分散したかもしれないが、一度にたくさん出てこないだけでだいぶ状況は改善したはずだ。


 さらに、街の至るところに設置しておいた箱の中に低レベルのモンスターを数秒だけ行動不能にする〈匂い袋〉を用意しておいたのもちゃんと機能している。

 そのおかげもあって、今のところ街の人からは軽傷者は出ても死者は出ていないようだ。


 そんな俺を複雑そうな顔で見て、ラッドは問いかけてくる。


「な、なら、街はこれで何とかなった、ってことでいいのか?」

「ここまでは、な」


 俺の言葉に、ラッドは顔をひきつらせる。


「って、ことは……」

「これだけの数の魔物が、何の理由もなく出てくる訳、ないだろ。この裏には、これだけの数のアリを生んだ原因が、『女王』がいる」


 言いながら、俺はゲームの記憶に思いを馳せる。



 ――ワールドイベント〈アリの大襲撃〉。



 これは、時代区分がⅡになってから発生するイベントで、ゲームの進め方次第で同じく街に蜂が襲撃をかけてくる〈ハチの大襲撃〉のどちらかが発生するようになっている。


 その条件とはズバリ、敵対種族の討伐。

 簡単に言えばアリを倒せばハチが、ハチを倒せばアリの数が増え、その天秤が一定まで傾いた時にこのイベントは発生するようになっている。


 アリとハチを均等に倒すことである程度まで発生を遅らせることは出来るが、時間経過と共にカウントが上がっていき、結局はどちらかの襲撃が発生することは避けられない。


 なら、思いっきり対象種族を絞って討伐して、こちらで発生をコントロールしてやろう、というのが俺の思惑だ。


 さらに、このイベントを最後までこなして、さらに自分の手で「女王」を討ち取ることが出来れば……。



(――「主人公」を見つけ出せるかもしれねえ!)



 俺の様子から何かを感じたのか、心なしか腰が引けた様子のラッドの肩を叩く。


「喜べよ、ラッド。幸い、『女王』がいる場所も、その場所に一番乗りする方法も、もう算段はついてる」


 まあ、そのためには多少の無茶はしなきゃいけないが、今さらだろう。

 つまり……。


「――さぁ、お待ちかねの『冒険』の時間だ!」


ここだけの話、サ、サンダー!とアリだー!!の部分だけ、数ヶ月前からもう書いてあったんですよね

ちゃんと話つなげられて本望です




次回更新は12月4日!

書籍発売日です!


また、活動報告に書籍の情報載せておきました!

よかったら見ていってください!

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― 新着の感想 ―
[一言] サンダー!アリだー! つまりライトニングアントだな!
[気になる点] ワールドイベントはフリーレアばかりで発生するのかな? ゲームにおける主人公の拠点もフリーレアってことなのだろうか
[良い点] アリ欲張りセットで笑ってしまった。これがやりたかった感がすごい。
感想一覧
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