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主人公じゃない!  作者: ウスバー
第四部 光の目覚め
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第八十話 パワーレベリング

今日は更新されるのかな? されないのかな?


そんな新鮮なドキドキを読んでいる人にいつも届けてあげたい

この更新の遅れは、そういう温かい心が生み出したものなのです


 もし、魔物との戦闘経験のない非力な一般人が魔物を倒さないといけないとしたら、その最適な相手とはなんだろうか?


 RPGの最弱モンスターの定番、スライム?

 だが、これは〈ブレイブ&ブレイド〉においては悪手だ。


 ブレブレのスライムは、強くはないがそこまで弱くもない。

 一般イメージより巨大であり、顔がついているタイプでもないため割と迫力もある。

 戦闘面でも特殊能力を持つタイプが多いのであまり素人にはオススメ出来ない。

 却下だ。


 ならもう一つの雑魚モンスター代表であるゴブリンはどうかというと、これは戦闘初心者にはかなりハードルが高い。

 確かに弱いことは弱いのだが、人型の相手と戦うのは心理的ハードルが高い。

 経験者が言うんだから間違いない。


 オマケに群れていたり、個体によって武器が違ったりするのも安定を取りたい初心者相手にはマイナスポイントだ。

 これから冒険者になろうという気概のある人間ならともかく、ただレベルを上げたいだけの素人が相手取るべき敵じゃない。



 求められているのは群れておらず、ほどほどに弱く、行動にランダム性がなく安定を取れる敵。

 つまり……。


「あれだ。あいつが最初の標的だ」

「あれ、ですか……?」


 不思議そうに首を傾げるロゼだが、その気持ちも分かる。

 俺が指さした場所は、ただまばらに木が生えているだけ……に見える場所だ。


「ま、見せた方が早いか。……ファイア!」


 腐っても、レベル五十の人間が放つ魔法だ。

 初級魔法のファイアであってもその威力は尋常ではなく、飛び出した火球はすぐさまに十メートルほどの距離を詰め、まばらに生えた木の一本に着弾する。


「レ、レクス様!? いきなり何を……」


 突然の凶行に焦るロゼだが、俺は冷静に火球の当たった木を指さした。


「よく見てみろ」

「え? あっ! き、木が、動いて……」


 俺が火球を放って燃えている木が、まるで痛みにもだえるように揺れている。


「あれが擬態型の植物系モンスター〈トレント〉だ」

「ト、トレント……。あれが……」


 名前くらいは聞いたことがあったのか、ロゼはその名を聞いてゴクリと唾を飲んだ。

 新鮮な反応に、こちらも嬉しくなる。


 このトレントはレベル五の植物型モンスターで、木に化けて近くを通った冒険者を餌食にする性格の悪いモンスターだ。

 その攻撃力および防御力は同レベル帯の中で群を抜いていて、ゲーム初期のうちに急いでフィールドを移動している時などに背後から奇襲されると、一撃で命を落とすこともある(一敗)。


 ただし、それは準備不足で近付いた場合でのこと。

 トレントは擬態能力と攻撃力には優れるが、移動力はゴミ同然。


 さらには物理防御力が高い代わりに魔法防御力が低く、火属性にめっぽう弱い。

 だからこうして遠距離からファイアで焼いてやれば……。


「……はい、終わり」


 必死にもがいてこちらに近付こうとしたトレントだったが、五メートルも進まないうちに、炎に耐え切れずに動きを止め、そのまま粒子に変わっていく。


(これならやれそうだな)


 トレントは確かにレベルこそ五と高めだが、動きが遅く、遠距離攻撃手段を持っていれば確実に先制出来る上に、低ランクのトレント系モンスターは遠距離攻撃を一切持たないために火力さえ足りていれば攻撃を受ける要素がない。

 特に初期魔力が高いロゼには最適な相手だと言えるだろう。


「す、ごい……」


 初めて間近で戦闘を見たのか、ロゼが感嘆の息をこぼす。

 感動してもらえるのは嬉しいが、それは少し早すぎる。


「感心しているところ悪いが、次はそっちの番だ」

「え……」


 そう言って、俺はロゼをあごでしゃくった。

 ロゼは目を丸くして、首を振る。


「そ、そんな……。で、でも、わたしはクラスのないただの一般人で、あんなすごい魔法なんて……」

「何のための装備だと思ってる。やれるさ」


 軽く言っているようだが、俺はそれを事実だと知っている。

 俺の言葉にさらに動揺するロゼだが、その服装は先ほどまでとは全く様変わりしている。


 地味な町娘、という風情だった彼女は、俺が用意した真っ白なローブに三角帽子、中で炎が燃えているように真っ赤なリングをつけ、今ではいっぱしの魔法使いのように見える。


 いや、見えるというか、実際にそうだ。

 この装備には高い魔力補正がついていて、その合計は数値にして百五十を超える。

 少なくとも魔力という一点において、今のロゼは駆け出しの魔法使いなど目ではないほどの強さを誇っていると言える。


 そして、右手には今回の肝になる武器の〈ファイアロッド〉。

 こいつは「使う」ことで炎の魔法を使える装備であり、本来魔法など使えないロゼが高い魔力値を活かすための要だ。


 ここまでやればトレント程度は一方的に倒せるはずだが、防御面も妥協はしていない。

 防具であまり防御を盛れなかった分、アクセサリーを防御寄りに整えた。


 まず、高く上げた魔力を活かしつつ不慮の事故を防ぐための〈バリアリング〉。

 さらに、自分で撃った火で火傷したりしないように二つ目のアクセサリーには〈バーンガードリング〉をライド。

 最後のチョイスは魔法防御を犠牲に物理防御力が大幅に上がる〈ゴールデンアイアンリング〉と迷ったものの、万が一の事態も想定して物魔両面に対応出来る〈キャッスルリング〉を採用。


 どこを見ても隙のない完璧な布陣。

 少なくとも俺がきちんと見守っている限りは、多少の想定外があってもロゼが傷一つつけられることはないだろう。


 いや、むしろトレント相手にやりすぎなんじゃないかと思ってしまうが、危険への備えはあればあるだけいい。

 我ながら見事な仕事だと関心はするが、どこもおかしくはない。


 それでも、ロゼはやはり自信が持てないようだ。


「で、でも、どうやってトレントと普通の木を見分ければ……」


 狼狽して尋ねるロゼに、俺は笑顔で答えた。


「そんなの悩むまでもない。まず、燃やしてみればいい」

「へ?」

「燃えた時に動いたらトレント、動かずに灰になったら普通の木だ。な、簡単だろ?」

「で、でもそんな……。ま、魔物じゃないのに燃やしてしまったら、その……」


 戸惑って固まったロゼを前に、俺はすぐにこらえきれなくなった。


「冗談だよ冗談。〈看破〉して情報が出る奴がトレントだから、木に〈看破〉をかければ間違いがない。俺が指示するから、ロゼはそいつを攻撃してくれ」

「レ、レクス様!」


 だが、それで緊張は解けたようだ。


「ほら。あそこにある右から二番目の木がトレントだ。……やれるな?」


 俺がそう言って〈看破〉で見破ったトレントを指すと、彼女はゆっくりとうなずいた。


 幸い、トレントは近付かない限り動かない。

 時間はいっぱいある。


 彼女は気を静めるように深呼吸をして、目を閉じて。

 それから目をキッと開いて、魔法の言葉を口にした。



「――ファイア!」



 瞬間、彼女の杖から俺の撃った火球と遜色ないほどの魔法が放たれ、トレントを打つ。

 大きな炎にまかれたトレントは、もがき苦しむように俺たちに近付こうとうごめき、よろめいて、そして……。


 ――ドォン。


 大きな音を立ててその場に倒れ、二度と動くことはなかった。


「たお、した……? わたし、が?」


 呆然と立ち尽くすロゼの肩に、俺はポンと手を置いた。


「よくやったな、ロゼ。レベルアップ、おめでとう」

「……へ?」


 こうして、ロゼはあまりにもあっさりと、モンスターの初討伐と初レベルアップを果たしたのだった。



 ※ ※ ※



 一度やってしまえば、あとは早かった。

 深窓の令嬢のように見えても、冒険者に憧れていた、なんていう人間だ。


「――ファイア! ファイア! ファイア!!」


 彼女はあっという間に適応すると、俺が指示をする端からトレントに火球をお見舞いしていく。

 よく見るとその唇の端が吊り上がっていて楽しそうで何より、なのだが、



「ロゼ! そこでストップだ」

「ふぁい……え?」



 俺はそこで彼女を止めた。


 大好きなおやつを前に、お預けを食らった犬のような表情でこちらを見るロゼ。

 いや、喜んでもらえているのは嬉しいのだが、少しやりすぎた。


 俺は彼女を〈看破〉する。



―――――――

ロゼ


LV 4

HP 68

MP 65


筋力 0

生命 15

魔力 46

精神 14

敏捷 5

集中 8

―――――――



(やっぱり、少し上げすぎたな)


 彼女には、初期職業がない。

 ゲームでは一般人のNPCのレベルを上げる機会などなかったから分からないが、正確に言えば、何の補正もない〈ノービス〉クラスについていると考えられる。


 もちろん、レベル上げをするならきちんと成長値に補正がついている職業でレベルアップする方が効果が高い。

 ラッドたちほど切実ではないので特訓で上位職に、なんてことはしないが、狙えるなら狙った方がいいだろう。


(ぶっちゃけ、ロゼはあんまり成長値はよくないからな)


 潜在的な吸血鬼ということで普通の人とは違うかな、と思っていたが、少なくとも今の状態では普通の人、ということなんだろう。

 魔力と精神については成長値アップの装備をつけているので、それを抜いた彼女の成長値は、



―――――――

筋力 0

生命 2

魔力 3

精神 2

敏捷 0

集中 1


合計 8

―――――――



 となり、合計値が九の俺よりも一低い。


(いやー。やっぱレクスは腐っても冒険者だからなぁ! 残念ながら一般人に負ける訳ないんだよなぁ!)


 それを理解した俺が、口元がひくひくと持ち上がりそうになるのを抑えるのが大変だった……のはともかくとして。


(冒険者じゃない人間でも、転職って出来るのか?)


 浮かび上がってきた疑問は、非常に興味を引かれる問題だった。


 幸い、一次職の転職条件は非常にぬるい。

〈ファイター〉なら筋力二十に生命十、〈マジシャン〉なら魔力二十に精神十、というように、メイン能力二十とサブ能力十を達成すればいい。


 そして、ロゼなら〈マジシャン〉の魔力二十に精神十を達成するのが一番早いだろう。

 そう思ってわざわざ魔力と精神の素質装備まで装備してもらっていたのだが、少しオーバーさせてしまった。


 何を言われるのか、不安そうにしている彼女に声をかける。


「お楽しみの時間だ。転職、試してみたくはないか?」


 その言葉に、彼女はうんうんと何度もうなずいたのだった。



 ※ ※ ※



 道中はびっくりするほど何もなく、無事に街に戻ってこれた。

 いつものようにおしとやかな足取りに見えて、普段よりも三割は速いロゼの早歩きについていくように、俺たちは〈神殿〉に向かった。


 そして、



「あ……。クラスチェンジ、できてしまった、みたい、です」



 やはり拍子抜けするほどにあっさりと、彼女は〈マジシャン〉への転職を果たしてしまった。

 そうして……。


「ファイア!」


 今日は十分に成果を出したし、「主人公」のせいで時代が進まない以上、そこまでレベル上げを急ぐ必要もない。

 俺は帰ることを提案したのだが、ロゼのたっての希望で、ふたたびトレントの狩場まで取って返し、レベル上げを続けることになった。


「次は……あれだな」

「はい! ファイア!」


 もはやその動きも慣れたもの。

 レベルが上がったことによって一層力を増した火の魔法が、トレントを打ち据え、消し炭へと変えていく。


 そんな殺伐とした光景の中で、


「ありがとうございます、レクス様」

「え……」


 ロゼが不意に、俺に頭を下げる。


「何だか、夢を見ているみたいです。なんにも出来ないと思っていたわたしが、街の外に出て、こうやって恐ろしい魔物を相手取っているなんて、昨日のわたしは思ってもいませんでした」

「ロゼ……」


 彼女は悲劇を背負ったキャラクターだ。


「もちろん、自分の力が冒険者として通用するなんて、そんな思い上がりはしません。だけど、嬉しいんです。わたしにも、出来ることがあることが。それを示してくださる素敵な方が、わたしの近くにいてくれたことが」


 ロゼの、確かな熱を帯びたその視線。

 俺はそこから逃げるように目を逸らして、


「……ただの、気まぐれだ」

「ですけど……!」

「それより、またレベルが上がったようだぞ。転職の効果がしっかりと出ているか、確かめ……っ!?」



 ――異変は、その時に起こった。



「あり、えない……」


 俺の口から、思わずそんな言葉が漏れる。


「レクス、様……?」


 ロゼの声に、返事を返す余裕もない。


 照れ隠しのために行った〈看破〉。

 だが、そこに表示されたロゼのステータスは、明らかに異常だった。


 彼女は〈マジシャン〉に転職していなかった?

 いや、そんなはずはない。


 俺は彼女が転職の像に触れるのも、像が光を放つのも見た!

 彼女は間違いなく〈マジシャン〉になっているはずで、それ以外の可能性はない。


 だから、今の装備品を除いた能力上昇値は、職業補正なしの八にマジシャンの補正で六を加えた、十四になる。

 それが正しいはずだ。


 なのに、なのになんで……。



―――――――

筋力 1

生命 3

魔力 6

精神 4

敏捷 2

集中 4


合計 20

―――――――



「なんでこんなに成長してんだよ!」


 これじゃあ、これじゃあ……。



 ――レクスの素質値、ロゼにすら抜かされてるじゃねえかあああ!!



低成長の運命を背負ったレクス!





明日またここに来てください

本当の21時更新をお見せしますよ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 安心の低成長伝説さん [一言] その名はレクイエム
[気になる点] 一般人じゃなくなると補正値が変わるのかな
[良い点] ほう、経験が生きたな 成長率を奢ってやろう
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