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主人公じゃない!  作者: ウスバー
第四部 光の目覚め
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第七十六話 犠牲の剣

遅くなりました!

その、実は前の話書いたあと、解説するために本編読み返したらかなり記憶違いがあってですね

時間かけて色々と書き直したりしたんですが下手すりゃ過去一で雑な回に……



それでも「イクイップ・エクスチェンジ」って技はあった

あったんだ!(下書きにすら書かれてなかった)


「……ふぅ」


 コウモリと狼男の奇襲を何とか捌いた俺は、今度こそ安堵のため息をついた。

 右手のメタリック王の剣を鞘に戻し、空になった左手をプラプラと振る。


「大丈夫ですか、レクスさんっ!」


 と、そこで。

 部屋の入り口に呆然と立っていたラッドを押しのけるようにして、マナが俺に駆け寄ってくる。


「大丈夫だ、問題ない」


 引きつりそうな顔を叱咤して、俺は余裕たっぷりの笑みを返す。

 それを見て、ようやくマナも胸をなで下ろした様子だった。


「よ、よかった。木材の陰から魔物がレクスさんに襲いかかったのを見た時は、心臓が止まるかと……」

「心配するな。あの程度なら想定の範囲内だ」


 見栄を張って答えるが、もちろん嘘だ。

 あれにはめっちゃくちゃビビったし、マナが警告してくれなかったらやられていたかもしれない。


(それに、思ったよりずっと削られたしなぁ……)


 反射的にラッドを庇ってしまったが、もう二度とこんなことはするまい、と心に決める。


 消耗戦なんて趣味じゃない。

 もっと安全マージンを取って、絶対に勝てる状況で適度なスリルを楽しむ。

 そんなヌルゲーが俺は好きなのだ。


「そ、それよりおっさん! なんだよあの強さ!」


 そう言って全力で食いついてきたのは、さっきまで部屋の入口で口を開けてポカンと立っていたラッドだった。

 すごい勢いで俺に詰め寄ってくる。


「もちろんオレだっておっさんが強いのは知ってたけどさ! だけど、あんなめちゃくちゃ強いとは知らなかったっていうか! だって、その、正直、今のおっさんの能力は……」

お前(ラッド)より弱い、だろ?」


 ラッドが言いよどんだ言葉のあとを継ぐ。

 ばつが悪そうな顔をするラッドに、俺は笑いかける。


「俺があれだけ戦えたのは、そうだな。一言で言えばスキルの力だよ」



 ※ ※ ※



 レクスの状況からして、レベルアップも訓練も絶望的なのは分かっていた。

 しかし、かと言って強くなることを諦めたのか、というと、そういう訳でもない。


 俺が求めたのは、基礎能力値に依らない強さ。


「まず前提として、装備の面では俺はお前たちより充実している」


 素質値アップのために弱い育成装備をつけなければいけないラッドたちと違い、レベルアップを諦めている俺は性能重視で装備を選べる。

 特に能力アップのエンチャントは防御を捨てて筋力に全振りしているため、少なくとも攻撃力については俺の能力の不足をある程度補っている。


 それに、今回使ったのはカジノの最大の目玉賞品である〈メタリック王の剣〉。

 これは〈ゴブリンスローター〉と違い、このレベル帯においても明らかに強いゲーム終盤クラスの攻撃力の装備だ。


 ただ、そこまでなら前と同じ。



「――変わったのはスキル。特に『パッシブスキル』だ」



 レベル上げも訓練も効果が望めないなら、それ以外。

 クラスを習熟することで覚えられる「スキル」による成長を俺は目指した。


 クラスの熟練度を上げるには、そのクラスで覚えるアクティブスキルを使い続ければいいのだが、上位のクラスほど熟練度も上げにくい。

 レクスは下位職のスキルをコンプしているという変態なので、俺が覚えるべきなのは〈トレジャーハンター〉〈トリックスター〉〈剣聖〉などのユニーククラスのものばかりになる。

 しかしここで肝心なのは、熟練度上げは片手間でも出来る、ということだ。


 例えばプラナが使っていた〈トリックスター〉のスキルなどは分かりやすい。


 このクラスが初期で習得しているスキルは〈高速交換〉。

 インベントリにある武器と今の自分の武器を一瞬で交換する、という地味な技だが、これは熟練度上げには非常に便利だ。

 攻撃スキルでは敵に当てないと熟練度が上がらないものが多い中、これはただ武器交換するだけでいい。


 長話を聞きながら机の下でひたすら武器を交換し続けてもいいし、なんだったら同じ武器から同じ武器に交換する場合なら、大抵の人は武器が変わったことにすら気付かない。

 別の仕事をしながらも、内職感覚でひたすら熟練度上げが出来てしまう、という訳だ。


 そして、その上で思いもよらない力を発揮したのは〈剣聖〉唯一の微妙スキル〈剣聖の覇気〉だった。

 これは「周囲のキャラクターの睡眠および眠気を解除する波動を出す」というスキルで、もちろん状況によっては使える技ではあるのだが、使用機会の少なさと〈剣聖〉にそんなの求めていない、という部分から微妙技扱いをされていた。


 しかし、この技の真価は別にあった。

 実戦用として考えるなら確かに微妙だが、その分一回のコストが低く、クールタイムも短いため連発が容易。

 そして何より、この技の熟練度上昇は「効果がおよんだ人数」によって決まるため、人がたくさんいる場所で使うことでより多くの熟練度を獲得出来るという隠れた利点があったのだ!


 だが、その強みはゲーム内では発揮されることはほとんどなかった。

 まず、人がそんなに集まっている場所がゲームではそこまでなかったこと、それからゲームでは周りに睡眠状態のキャラがいない場合は発動されなかったことが原因だ。


 しかし、この世界ではその縛りはなくなっており、試してみたところ、周囲の人間がバリバリに起きていても関係なくスキルを発動させることが出来た。

 そして同時に、おあつらえ向きに人が集まる舞台を、俺は自らの力で獲得している。


 ……そう。

 素質鑑定やマニュアルアーツについての講演や指導。

 それを目当てにアリのごとく群がってくる奴らに、俺は勝手にこの〈剣聖の覇気〉を使い、無断で眠気を飛ばしまくっていたのだ!


「おっさん……。あんな真面目ぶって演説してる裏で、そんなことしてたのかよ……。オレ、ちょっと感動してたのに」

「い、いいだろ。眠気を飛ばすだけで、損させてないんだから」


 呆れた目で俺を見るラッドをそう言って黙らせてから、解説を続ける。


 とにかくこの「無差別覇気テロ」によって、本来上げにくいはずの〈剣聖〉の熟練度はメキメキと上昇した。

 まともに戦闘で使っているだけでは数ヶ月はかかるような熟練度稼ぎを、街にいながらにして楽々とこなしたのだ。

 これはもう笑いが止まらない。


 そうして俺は、二刀流に必須のスキル、「片側の手で繰り出した技の効果が反対側の手にも乗る」という〈ツインアーツ〉はもちろん、その先。

 あの〈剣聖ニルヴァ〉だってこの時期ならまだ覚えていないはずの超強力なスキルであり、〈剣聖〉のぶっ壊れ具合をさらに加速させる剣系最強パッシブスキル〈剣の極み〉を習得するに至ったのだ。


「……剣の、極み?」


 ラッドの言葉に、俺は待ってましたとばかりに言葉を紡ぐ。




「その効果は単純にして明快。このスキルは『剣による攻撃のダメージを倍にする』んだ」

「……は?」




 ゲーム終盤クラスの戦闘力を持つ〈剣聖ニルヴァ〉。

 それに一対一で勝って〈剣聖〉クラスを得て、さらにそのクラスで数十時間も戦い続けてようやく手にするはずの境地だ。


 そのスキルの強さは、まさしく群を抜いている。

 どう考えてもぶっ壊れ。

 ゲームを壊しかねない性能だ。


「あ、ちなみに、下位互換の『剣ダメージ三割上昇』のスキルなら〈ソードマスター〉で覚えられるぞ」

「え? ほんとかよ!?」


 残念ながら、このタイプのスキルは効果が累積しない。

 今さら俺が覚えても意味がないが、ラッドにとってはもちろん有用だろう。


「今回のことで、成長補正だけがクラスの全てじゃないって分かっただろ? 焦ることはない。少しずつ、足元を固めて……」


 そうやって、俺がラッドの肩を叩きながら、まとめにかかろうとした時だった。





「――待って、ください」





 レシリアだった。

 彼女は訝しげに俺を見て、詰問するように口を開く。


「兄さん。左手に持っていたナイフは、どうしたんですか?」

「……俺が〈高速交換〉を覚えたのは知ってるだろ。インベントリにしまったんだよ、ほら」


 俺はそう言って、空になっていた左手に瞬時に新しい〈ゴブリンスローター〉を出現させる。

 だが、レシリアの視線は揺るがない。


「そもそも、右手の剣しか使わないなら、左手に武器を持たずに剣を両手持ちにした方が攻撃力は上がるはずです。どうして兄さんは、振るいもしない武器を左手に持っていたんですか?」

「……サポート用だよ。出番はなかったが、いざという時に使うかもしれないからな」


 答えをひねり出すまでに、少し間があった。

 レシリアの目が、一層鋭くなる。


「それに、やっぱりおかしくないですか?」

「何が、だ」


 緊張をはらんだ雰囲気の中で、レシリアは問う。


「確かにその〈剣の極み〉というスキルは強力です。でも、その効果だけでレベル四十のモンスターをああも簡単に倒せるものでしょうか?」


 レシリアの指摘に、俺は思わず言葉に詰まった。


〈剣の極み〉は強いが、地力がなければ意味がないスキルだ。

 あくまでも上げるのは「ダメージ」であって、「攻撃力」ではないため、もともとダメージが通らない強敵には効果がない。


 つまり、俺が〈剣の極み〉を抜きにしてもレベル四十のモンスターにダメージを与える方法を持っていなければ、あいつらを一撃で倒すことなど出来ないのだ。

 スキルの習得方法や効果を長々と語ることで、どうにかそこを誤魔化して話が出来た、と思っていたのだが……。


 俺とレシリアの視線が、ぶつかり合う。

 無言の攻防。


 俺たちは、しばしにらみ合い、


「……分かったよ。そこまでバレてちゃ、仕方ない」


 レシリアより先に、俺の方が目を逸らした。


「ど、どういうことだよ」


 混乱するラッドに、俺は真実を告げる。


「あいつらを倒したのは、純粋な俺自身の力じゃない。武器の力なんだよ」

「武器……?」


 ふたたび首を傾げるラッドにため息をつき、俺は観念して「本当の勝因」を語り始めた。



 ※ ※ ※



 俺が自己強化のためにスキルを覚えていたのは本当だが、今の自分の低いステータスで、レベル四十クラスの魔物と戦えるなんて、俺は最初から思っていなかった。

 そして、ステータスに依らない戦い方、で、真っ先に思いつくのは過去の模倣だ。


「まあ、ぶっちゃけ俺の攻撃力じゃあんなモンスターには歯が立たない。だけど、一つだけ、あの〈剣聖ニルヴァ〉にだって通用した技があるだろ?」

「ニルヴァ……って、もしかして〈ファイナルブレイク〉!?」


 武器を壊す代わりに、強力な範囲攻撃を繰り出すスキル〈ファイナルブレイク〉。

〈投擲〉では通用しない〈ゴブリンスローター〉の攻撃力でも、それ以上にダメージ倍率の高い〈ファイナルブレイク〉でなら痛手を与えられる可能性はあった。


「で、でも待ってくれよ! あんな狭い場所で範囲攻撃なんて使えないだろ! それに、実際おっさんはそんな技……」

「ああ。今までの俺にはあそこで〈ファイナルブレイク〉は使えなかったし、そのまま〈ファイナルブレイク〉を使っただけなら、あまり意味はなかっただろう。ただ、今の俺には別の選択肢があった」


 俺の言葉に疑問符を浮かべるラッドに、俺は言った。


「〈剣聖〉の熟練度を上げて、〈ツインアーツ〉を覚えたって言っただろ。そのスキルの効果、覚えてるか?」

「え、ええと、『片側の手で繰り出した技の効果が反対側の手にも乗る』? え? ま、さか……?」


 目を見開くラッドに、俺は驚きの事実を叩きつけた。


「そのまさか、だ。左手で使った〈ファイナルブレイク〉の威力が、右手の武器にも乗ったんだよ!」


 いや、俺もびっくりしたよ。

 どういう処理してんだと思ったが、実際そうなったものは仕方ない。


 それからもう一つ。

〈ファイナルブレイク〉中に武器をしまうことで〈ファイナルブレイク〉が中断される、という小技を組み合わせることで、謎のコンボが生まれた。


 タイミングを計り、右手の剣が敵に当たった瞬間に左手で〈ファイナルブレイク〉。

 すぐさま〈高速交換〉で爆発するナイフを回収し、新しいナイフに変える。

 こうすれば、範囲攻撃を発動させずに右手の剣に〈ファイナルブレイク〉の威力だけを加えることが出来る。


 ここで重要なのは、右手の剣の攻撃力が〈ファイナルブレイク〉と同じ威力になった訳ではなく、元々の剣の攻撃力に〈ファイナルブレイク〉の威力が足された、ということ。

 しかもこの場合さらに、


「攻撃したのは剣だから、〈ファイナルブレイク〉の分の攻撃力まで〈剣の極み〉で増幅されるんだ」


 ただでさえ高威力の〈ファイナルブレイク〉にメタリック王の剣の攻撃力まで乗せて倍の強さで撃てば、そりゃコウモリ程度ワンパンは余裕だ。

 問題があるとすれば、最後のウェアウルフだが……。


「あいつはコウモリほど速くはなかったからな。〈ファイナルブレイク〉に、さらにアーツを乗せた。ついでに言うと、モンスターには背中から攻撃されると多くダメージを与えられる背面弱点の特性がある。いくら強いと言ってもひとたまりもなかっただろうさ」


 俺が淡々と語ると、ラッドが興奮したように身を乗り出してきた。


「すげーじゃんか! そうやって戦えば、おっさんはレベル四十の相手にも勝てるってことだろ? それなら……」


 嬉々とした様子で、ラッドは語る。


 だが、違う。

 違うんだ。


 もしそんな力がノーリスクで出せるなら、俺だって最初から話してるし、もっと自慢している。

 だが、世の中にそんな上手い話はないのだ。


「十六本……」

「え?」

「それが、俺があの戦闘で失った〈ゴブリンスローター〉の数だ」


 中断されたとは言っても、〈ファイナルブレイク〉で武器がなくなるのは変わらない。

 当然左手の〈ゴブリンスローター〉はなくなるし、〈ゴブリンスローター〉は錬金すれば五百万ウェンで売ることが出来る。


 つまり、



「――あの攻撃一回ごとに、五百万ウェンをドブに捨てることになるんだよ!!」



 流石にピンチだと思ったので惜しまずに使ったが、剣を振る度に叫びそうになったし、戦ってる最中謎の緊張で変な汗が止まらなかった。


「いざという時のために三十本は残しておこうと思ったのに、もう残り二十七本だぞ!」


 最後の二匹はまとめて斬ったから節約出来たが、それでも価格にして八千万ウェンの赤字。

 それも、あのたった三十秒足らずの戦闘で、だ。


(あああああ! あの時に見栄を張らずにラッドたちとも協力すればよかった!)


 しかしその場合はコウモリはともかく、奇襲のウェアウルフに誰かがやられていた危険性はある訳で、いやでもあそこは無理に一人で頑張るべきところでは……。

 などと煩悶していると、目の前に小柄な影が立っているのが見えた。


「……レクス」


 静かに、名前が呼ばれる。

 そのエルフの少女、プラナは、感情の読めない目で、じっと俺を見つめていた。


 俺が知らず知らずのうちに唾を呑んで待っていると、彼女はその小さな唇を開いて……。



「その技、〈金ドブ剣〉って名前をつけよう」

「やめろ!!」



 今後定着しそうな不吉な技名を、俺に突きつけたのだった。

テッテレー!

レクスは新しい必殺技を習得した!





次回更新は明日!

これでやっと能力確認パートも終わり!

次からようやく第四部本編です(一週間ぶり四回目)

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― 新着の感想 ―
[一言] 生徒A「なあ、レクス先生の講義ってすげー集中できるよな!?」 生徒B「ああ、おれ、講義とかって、すぐ眠くなっちまうんだけど、レクス先生の講義だけは最後まで受けていられるんだよ」 生徒A「あれ…
[良い点] これが次世代のぜになげだー! [一言] チャリンチャリーン
[一言] いやちゃんと効果出してるからドブじゃないよ!(擁護になってない)
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