第六十九話 二人きりの冒険
書籍に合わせていくつか修正したので報告
・ドゥームデーモンのステータスを強化(レベルの割に弱かったので)
・「人間」種族を「ニンゲン」表記に変更(アンテ感がアップ!)
・ニュークの髪の色を茶色から青に(相棒のラッドが赤なので)
・各話のまえがきあとがきを掃除(更新予告詐欺なんてなかった!)
「……それでは、また」
そう言ってしっとりと微笑み、彼女は踵を返した。
「リリー・ハーモニクス……」
どんな時も楚々とした佇まいを決して崩さないその後ろ姿を眺めながら、俺の口は、意味もなく彼女の名前を紡いでいた。
「ちくしょう。開発の奴ら、いい仕事しやがって……!」
憎まれ口なんだか、褒め言葉なんだか、自分でもよく分からない言葉を吐き捨てる。
(……ま、とりあえず順調、って言っていいのかな)
彼女との二度目の邂逅は、概ね満足出来る結果に終わったと言ってもいいだろう。
今日の行動でも最初から好意的に接してきた彼女の反応を見るに、感触は悪くない。
前回酒場で思わぬ醜態を見せたためどうなることかと思っていたが、どうやらあの時の行動は結果的にはプラスに働いたらしい。
(少なくとも、彼女のフラグはまだ折れてない、ってことだ)
だとしたら、なんとしてでも彼女を仲間に引き入れたい。
それは彼女の見た目がどうとかいう話ではなく、純粋に彼女が有用だからだ。
手元のデータに視線を移す。
そこには、彼女の素質値がはっきりと書いてあった。
――――――――
筋力 ふつう
生命 ふつう
魔力 ダメ
精神 スゴイ
敏捷 ダメ
集中 超スゴイ
――――――――
これを見るだけならば、彼女は決して強力なキャラとは言えない。
素質の合計値は十九。
平均である十八よりは高いものの、ユニークキャラであれば二十程度あるのがざらだ。
それに、ステータスの割り振りも微妙だ。
集中が高いので盗賊向きかと思いきや敏捷が低く、精神も高いのでヒーラーの道に進ませたいところだが、こちらでは魔力の低さが足を引っ張る。
だが、一つだけこの奇妙なステ振りを存分に活かせるクラス系統がある。
それが〈吟遊詩人〉だ。
演奏に必要な「集中」と、豊かな感受性を育む「精神」のみを必要とするこのクラスなら、彼女の高い集中と精神の素質を存分に活用出来る。
――吟遊詩人。
これは、ブレブレに数ある職業の中でもかなり異質なクラスだ。
自身に戦闘力はほとんどなく、演奏と歌による味方全体の強化や敵への弱体化付与が主な仕事になる。
その最大の特徴は効果範囲が広いことと、魔法使いや僧侶の魔法と違い、スキルを使用するのにMPを消費しないこと。
それだけ聞けば素晴らしいように見えるが、演奏中はほかのことが出来なくなるため無防備になるという弱点のほかに、肝心の技能をマスターするのにほかの職と比べてもアホほど時間がかかるという弱点がある。
熟練度を上げるのがバグを疑うレベルで遅い上、未熟なままの演奏を他人に聞かせると石を投げられる、というなかなかにシビアな職業だ。
もちろん俺は吟遊詩人関係の技能は最初からあきらめ、転職すらしていない。
そういう意味で初めから吟遊詩人の職についていて、演奏技能を覚えているだろう彼女は稀有な人材と言えるだろうが、それだけじゃない。
〈ブレイブ&ブレイド〉の初回限定版の特典でついてきたクッソ分厚い冊子。
その登場キャラクターの項目の端っこに、彼女のデータが載っている。
そしてそこに、彼女の秘密が無造作に記されていたのだ!
・ユニークスキル
【ローレライ・ボイス 習得レベル1】
ユニークキャラだけが持つ特別な能力〈ユニークスキル〉。
彼女のそれは「声を聴かせた相手を魅了する」というもの。
モンスター相手に対してはどうか分からないが、主に人間相手の交渉にはもってこいの技能だと言えるだろう。
(やっぱり、リリーは絶対にスカウトしないと!)
戦闘に関してはこっちが頑張ればなんとでもなるが、イベントにはNPCとの交渉が必要なものも多い。
リリーがいれば、そういった方面のことは全て任せることが出来るだろう。
※ ※ ※
決意を新たにした俺は、その次の日から積極的に動いた。
普段は近場を巡ってレベルアップやアイテム収集をしながら、合間に合間に必ずリリーに会いに行く。
こまめにプレゼントをして、彼女の頼みを聞く。
初めは心持ち硬かった彼女の態度もだんだんと軟化し、なんと五度目の会話では、
「厚かましいお願い、ですけど……。これからはお互いのこと、名前で呼び合いませんか? もちろん、さん付けやちゃん付けはなしで、です!」
なんて提案をされ、
「こいつ! あざとい! あざてえよちきしょおおおおおおお!!」
俺はその場で身もだえながらもノータイムで了承した。
いや、あっさりほだされてるとかそういう訳じゃなくてね。
うん、こうやって何でもうんうんってうなずいてる方が彼女の警戒心も解けるだろうしね。
なんて誰に言ってるのか分からない言い訳を脳内で繰り返し、そして、リリーとの会話の回数がそろそろ二十を越えるかな、という時、ついに転機が訪れた。
いつも、どんなに欲しいものを尋ねても、自分からは何も要求しなかった彼女。
その彼女にいつものように欲しいものを尋ねると、「欲しいもの、というのとは少し違うかもしれませんが」と前置きしたあと、リリーはこちらを真剣な目で見つめて、言ったのだ。
「――どうしても、伝えたいことがあるんです。これから、ダンジョンまで付き合ってもらえませんか?」
次回更新は明日!





