第六十六話 最後の悪意
お待たせしました!
これが解答編になります!
フリーレアの街まであと少し、というところで、俺はふと後ろを振り返り、目を細めた。
(ラッドは今頃、一番奥の台座まで辿り着いてる頃かな)
結局、ラッドにはあまりアドバイスはしてやれなかったな、とちょっとだけ後悔する。
当初の予定としてはもう少し色々と助言をするつもりだったが、少しでもラッドの方を見ようとすると、
「兄さん、あんまり余所見をしないでください」
と怖い怖い妹からの文句が飛んでくるから仕方がなかったのだ。
まあ、レシリアだって教えがいのある奴ではあるし、何よりラッドのやる気なら一人で勝手に強くなっていくだろう。
むしろ、すぐに追い抜かされないように俺が頑張らないといけない。
「……でも、少し意外でした」
そんなことを考えながら歩いていると、隣を歩いていたレシリアが、ぽつりと言った。
「意外? 何がだ」
「兄さんが、試練を途中で切り上げて帰ってきたことが、です。兄さんなら、帰り道を全速力のアーツで移動することにしてでも、無理矢理再挑戦の時間を作るかと思ってました」
俺のイメージは一体どんなだ、と思わないでもないが、あながち否定も出来なかった。
ただ、今回に限っては見当外れだ。
「そんな必要はないさ。ええと……」
周りを見渡すと、近くの丘に俗に「魔力花」と呼ばれる錬金素材の群生地があるのが見えた。
小銭稼ぎにもなるし、ちょうどいい。
「ちょっと寄り道させてくれ」
と言い捨てて、魔力花の花畑へと走り寄っていく。
今までであれば事前に〈盗賊の眼〉でポイントを探すところだが、今の俺にはその必要すらない。
俺は花畑の真ん中まで足を踏み入れると、左手を高々と掲げて、宣言する。
「――採取!」
すると、花々のあちこちから白い光が浮き上がり、俺の左手へと吸い込まれていく。
「な……」
俺から半径数メートルにある採取ポイント全てから俺の左手に向かって光は飛んでいき、ほんの数秒後には、採取可能な花全てが俺のインベントリの中に納まっていた。
あ、ちなみに根こそぎにしちゃってもファンタジーの不思議な力でまた生えてくるので安心だ。
「な、なんですか、それは」
「想像はついてるだろ。〈トレジャーハンター〉のスキル〈採取の達人〉の効果だよ」
にやりと笑って告げる。
……そう。
今の俺の職業はもう〈剣聖〉じゃない。
〈トレジャーハンター〉なのだ。
「まさか……」
どうやらレシリアも気付いたようだ。
「さては兄さん! 事前にあの神殿に行って、試練を終わらせていましたね!」
「え……?」
それは流石にどうかと思います、とドン引きで俺を見るレシリアに、慌てて弁解する。
「違う違う! 俺が〈トレジャーハンター〉になったのは、帰る直前の挑戦の時だよ」
「だけど、あの時は【最終試練】の途中で落ちていたじゃないですか」
「いいや。俺はあの時、試練の一番奥に行って……いや、奥に触れてきてたんだよ」
それでもまだピンと来ない様子のレシリアに、俺は質問をする。
「レシリアは【最終試練】の扉の前に書かれていた文章を覚えてるか?」
「確か、『龍の道の先で待つ 勇を示し、我に完全な鍵を捧げよ』でしたか」
「正解だ。じゃあそもそも、俺たちがあそこに行った目的ってなんだった?」
「それは、〈トレジャーハンター〉のクラスを手に入れるためでしょう」
バカにしてるんですか、という目で見られるが、それにへこたれずにもう一つだけ質問をする。
「だったら、新しいクラスに転職するには、普通どうすればいい?」
「それは、なりたい職業の『英雄の像』を見つけて、条件を満たした状態で像に触れると身体が光って……あぁ、なるほど」
レシリアの声が、途中で疑問から納得に変化する。
「――【最終試練】で出てきた、一人だけ槍と剣を持っていた石像は、英雄の似姿。つまりあれこそが〈トレジャーハンターの像〉だったんですね」
確信のこもったレシリアの言葉に、俺はうなずいた。
槍と剣の二刀流、というのは生前の〈トレジャーハンター〉の特徴だ。
事前に〈トレジャーハンター〉の英雄についての情報を得ていれば、それは大きなヒントになる。
「何も知らなくても、〈看破〉してみたら名前が出るから分かるんだけどな。あ、ついでに言っておくと、あの最後の石像だけ筋力が1じゃないのもそれが理由だな」
転職用の像のステータスは「そのクラスに転職するのに必要な能力値」となる。
だから、今までの試練に出てきた石像が攻撃力1の防御力999みたいな極端な相手だったのに対して、最後の石像だけが常識的な範囲内に収まっていた、という訳だ。
そして、そこが分かればあとは難しいことなどない。
「なら、『勇を示し、我に完全な鍵を捧げよ』というのは……」
「ああ。【最終試練】の真ん中で降ってくる〈トレジャーハンターの像〉に勇気を出して近付いて、勾玉を持った手で触れ、ってことなんだよ」
俺が最後に〈飛閃掌破〉を石像に対して使ったのは、何もノックバックをさせてあの石像を奈落に落とそうとした訳じゃない。
勾玉を持った右手を一番素早く石像に触れさせるには、あのスキルを使うのが最善だと思ったからだ。
……まあ、触ったあとのことを考えてなかったから、試練を達成した直後に落ちてしまった訳だが。
しかしそこで、レシリアは考えるように眉をひそめた。
「だけど、待ってください。だったら、あの一番奥の台座は? 龍の道の先、とはあの台座ではなかったんですか?」
そこが、この試練の一番の引っ掛けポイント。
ただそれも、ちゃんと台座を観察していたら分かるように出来ている。
「あの台座は、今までの試練のゴールに置かれていた台座とはデザインが違う。ただ、ほかの試練にないものってことでもない」
「どういう、ことです?」
「あれはな。【壱の試練】にも【弐の試練】にも数十個単位で置かれてたデザイン。試練の通路の両脇にある、石像が載せられている台座なんだよ」
そして、確かめる術はないので想像になるが、きっと【最終試練】の扉が閉まっている時は、あの〈トレジャーハンターの像〉はきちんと「龍の道の先」……すなわち、一番奥の台座に立って挑戦者を待っているのだと思う。
それが、【弐の試練】がクリアされたと見るや急いで魔法で天井に隠れてスタンバイする、とか思うと割と萌えキャラにも思えてくるから不思議だ。
「……ま、ほかにも細かいヒントはあるが、仕掛けとしてはそんなところだな」
全ての解説を聞いて、レシリアは「はぁぁ」と大きなため息をついた。
「何とも……性格が悪いですね」
顔をしかめながらそんなことを言う。
「〈トレジャーハンター〉が作った試練だからな。そんなもんだろ」
俺が言うと、レシリアは首を振った。
「試練も、ですが、兄さんもです。ラッドに伝えなくてよかったんですか?」
「まあ、それについては迷ったんだけどな」
悔しくないのかとラッドが詰め寄ってきた時、一瞬だけ素直に「もう試練はクリアしたから」と答えようとしたのだ。
だが、結局は口にはしなかった。
「ちゃんとヒントは伝えておいたし、ああいうのは自分で解いた方がためになるだろ。それに――」
「それに?」
訝しげなレシリアに、俺は純度百パーセントの笑顔を浮かべ、
「――俺、最初にあの謎を解くのに二時間も悩んだんだぜ。簡単にクリアされたら悔しいじゃないか!」
盛大に本音をぶちまけたのだった。
ちなみに、その後。
怒りで言語野を破壊されたラッドが「おまえ、おまえがー!!」と言いながら俺の部屋を襲撃してきたのは、神殿でラッドと別れてから実に十二時間後のことだった。
いともたやすく行われるえげつない行為!!
と、いうことで、思ったより長くなりましたがトレジャーハンターの試練編はこれで終わりです!
当初は三話で終わるかなーと思ってましたけど見通しが甘いってレベルじゃねーぞ!
なんとなくもう一仕事終わった気分になってますが、ここからやっと第四部本編スタートなんですよね!
予告した通り、主にメインストーリーと「主人公」関連の話になる予定です
次回更新は明日か明後日!
あ、つきましては温かい応援のメッセージやポイント支援などを投げつけてもらえると、蒸気サマーセールのゲームに負けて更新が滞る可能性が100%から90%くらいに下がります! ……たぶん
ではまた第四部で!





