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主人公じゃない!  作者: ウスバー
インタールード 大いなる試練
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第六十二話 新人ベテラン冒険者ラッドの受難

久しぶりのラッド視点です


 ――心が折れそうだ…。


 オレは自分の首元で砕け散った勾玉にため息をつくと、力ない足取りで中央の部屋に戻る。

 そうしてもう何個目に、いや、何十個目になるか分からない勾玉を手に取って、よろめくような足取りでふたたび試練へと向かった。


 とぼとぼと最初の試練に向かう間、


「……と、こんな感じだが、どうだ?」

「あいかわらず、兄さんのアーツはすごいを通り越して気持ち悪いですね」

「お前……。ここからつながるとっておきのコンボがあるから教えようと思ったが、必要なさそうだな」

「素直な賛辞だったのに、心外です。私が思うに、兄さんはもっと広い心を持って……」


 レクスとレシリアが楽しそうに訓練をしている声が背中から聞こえてきて、余計に惨めさが増してくる。


(くっそ、イチャイチャしやがって……! あの兄妹、仲がよすぎだろ!)


 八つ当たり染みた憎しみが湧きあがりそうになるのを堪えて、最初の試練に足を踏み出す。

 最初の石像が動き出し、ドドン、と音を立てながら地面に降り立つのを見ながら、オレは左手に持った盾に力を込めた。


 最初、レクスが石像の騎士たちと剣戟を繰り広げるのを見て血が騒いだオレは「あんな戦いをするんだ!」と意気込んで騎士に突撃し……一瞬で負けた。


 それでもまだまだと最初の部屋に戻り、勾玉を取り直してまた突撃して、騎士の攻撃を防ぎきれずに勾玉を割られて、その度にレシリアにゴミクズを見るような目で見られて……を十回ほど繰り返し、オレはやっと悟った。



 ――今のオレじゃ、こいつと打ち合うのは無理だ、と。



 アーツにアーツをぶつける、なんて言うだけなら簡単だが、当然そんな甘いもんじゃなかった。


 敵の振りかぶり動作を見て、敵の攻撃の軌道を予測。

 そこから一瞬で適切なアーツを選択して、後出しでその軌道にぶつけなければいけない。


 だが、普通のアーツをそのまま使ったのでは、対応出来ない場合も多い。

 特に石像が上からハルバードを振りかぶってきた場合、上から下への振り下ろしに対して既存のアーツで干渉出来るような軌道を持つものは少ない。

 例えば振り下ろしの迎撃に通常の〈Vスラッシュ〉を撃ったのでは、敵のハルバードはVの真ん中を綺麗に抜けてオレの頭に直撃してしまうだろう。


 だからその場合は〈Vスラッシュ〉を斜めにしてうまく敵の振り下ろしの軌道とぶつかるように調整する、のがいいんだろうが、オレはアーツを「マニュアルで発動する」ことばかりを練習して、角度をズラすことはあまり試してこなかった。


 訓練場で時間をかけてイメージを練って、自分のペースで出すなら多少は出来なくもないが、相手の攻撃が来るまでの短い間に軌道を計算してアレンジしたアーツを放つ、なんてとても無理だった。


 しかも、仮に一回や二回まぐれで成功したとしても、一度使ったアーツはしばらくの間連続では使えない。

 防げば防ぐほど、オレの手札はどんどん減っていってしまうのだ。


(悔しいけど、こいつらとまともに打ち合うにはまだオレには技量が足りない)


 それが分かってから、オレは見栄えを捨て、石像の騎士の横を抜けて台座まで走る作戦に切り替えた。


 しかし、こいつらのハルバードは攻撃範囲が広く、反応も速い。

 横を抜けようとしてもハルバードを避けられなくて潰され、アーツで弾いた隙に前に進もうとしても、背中に槍の一撃をくらってあえなくリタイア。

 すごすごと勾玉を取りに中央の部屋に戻り、レシリアに野良ゴブリンを見るような視線を向けられる、というのがここ数回のパターンだった。


 だが、前回のチャレンジで光明は見えた。


 確かに、アーツの技量ではレクスには敵わない。

 だけど、オレにあってレクスにないものもある。

 それが「盾」だ。


(確かに、こいつら相手にガードは使えない。だけどな……)


 徐々に速度を上げて駆け寄ると、待ち構える石像の騎士が槍を引く。



(――右からの突き!)



 一番捌きやすい突き攻撃が来た幸運を噛み締めながら、オレは槍に自分から突っ込むように踏み込むと、



 ――パリィ!



 肝心要の瞬間に、槍を振り払うように盾を薙ぐ。

 槍と盾が一瞬だけ噛み合い、火花が散る。


 だが、均衡はほんの刹那。

 石像の騎士は槍を弾かれ、バランスを崩す。


「よし!」


 このパリィこそが、オレの出した答え。


 盾をぶつけるタイミングだけは厳しいが、成功すればアーツで相殺した時よりもわずかに長く相手の体勢を崩すことが出来る。

 だが、これで気は抜けない。


 盾を振り抜いた姿勢のまま、走り出した勢いを止めずに石像の騎士の脇を抜ける。

 すぐ背後で、「ブゥン!」という何かが空気を薙ぐ音がして肝を冷やすが、何とか距離を取ることに成功。


(走れ! 走り続けろ!)


 自分に言い聞かせる。


 石像騎士は、二体いる。

 前後を挟まれれば勝ち目はない以上、後ろの一体が追いついてくる前に勝負を決めるしかない。


 ――ドドン!


 必死に走るオレの先で、地面に降り立った二体目の騎士が降り立つ。


(ここが、勝負どころだ!)


 前々回は、こいつの着地の隙に横を抜けようとして背中に槍をくらって負けた。

 前回は、ここで足を止めて確実にパリィを決めてから進もうとして後ろから突進してきた最初の騎士に背中を貫かれて負けた。


(無視してもダメ、足を止めてもダメ。なら……!)


 その足止めと移動速度、二つの条件を両立した動きをするしかない。

 オレは左手の盾を放り捨て、胸にかけた勾玉をもぎとるようにつかみ取る。


「どけぇええええ!!」


 叫びと共に繰り出すのは、オレが唯一マニュアル発動可能な吹き飛ばし効果のあるアーツ〈尖衝波〉。

 着地の姿勢から動けない石像の騎士を吹き飛ばし、生まれた間隙にオレは身体をねじ込む。


 吹き飛ばし効果による硬直はほんの一瞬。

 背後で持ち直した騎士が槍を構えるのが気配で分かる。


(間に、合ええええええええ!!)


 だが、石像の騎士の槍がオレの背中を捉える、一瞬前。

 オレの伸ばした左手が勾玉を台座の光に差し出していた。



 ――勾玉が、光を放つ。



 そして、光が収まった時、勾玉に開いていた二つの黒い穴のうち一つが煌々とした光を湛えていた。


「やった……のか?」


 おそるおそるに背後を振り返ると、今にもオレの背に槍を突き立てようとしていた石像の騎士は、ピタリ、とその動きを止めていた。

 

 オレが固唾を飲んで見守っていると、そのまま何もなかったかのように踵を返し、自らの定位置へと戻っていき、まるで普通の石像であるかのように動かなくなった。


「は、は……。やった!」


 そこでやっと勝利を確信したオレは、光を湛えた勾玉を振り回し、最初の部屋に駆け戻る。


「ししょ……おっさん! ついにやったぜ! 最初の試練、クリアだ!!」


 レクスは最初、駆け寄るオレに目を丸くしていたが、やがてにっこりと笑顔を見せた。


「やるじゃないか、ラッド。じゃあ……」


 そうして、最初の試練の反対側。

〈壱の試練〉とほとんど同じレイアウトの通路を指さし……。



「――次は四体だな。頑張れよ」



 それと同時にまるで空気を読むように〈弐の試練〉の二体の石像が動き出し、同時にドドン、と地面に降り立ったのだった。




前も書いたと思いますけど、この作品については読んでて何かに気付いちゃっても出来れば感想欄に書いたりしないでくださいね!

伏線あんま隠してないので何か閃いたならたぶんそれ正解なんで!


どうしても我慢出来ない時は「俺、すごいこと気付いちゃったかも(ニチャア」くらいに留めて具体的なことは伏せるか、もしくは感想欄以外のとこに書いてもらえると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] スキルの練習じゃなかったの?
[良い点] 笑ったw >レシリアにゴミクズを見るような目で見られて
[良い点] ブラコンさんめっちゃ辛辣で草 [一言] もう素直になっちゃえよ…という気持ちと、でもツンツンしてるのも良き…という気持ちでせめぎ合ってる
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