第五十話 闇深き十二の遺跡
すごい名案を思いついたんですが、毎回まえがきで「うおおおおおおお!! 今日も更新間に合ったぜえええええええええ!!」って叫び続ければ、九割くらいの人は「おっ、毎日更新途切れずに続いてるんだな。すごいな」と錯覚してくれるのでは?
「俺たちは今から〈闇深き十二の遺跡〉に挑む。ただ、ひとまずの目的は攻略じゃない。レアアイテムの収集だ」
これまで、ラッドたちは最短距離を駆け抜けるようにして強くなってきた。
能力ランクが低い間に訓練によってステータスを底上げ。
レベル四の段階で二次職に転職し、格上のダンジョンに潜って一気にレベル十越え。
その後も順調に成長を続け、パーティメンバーのほとんどがレベル十五を前に通常職業の最高峰とされる四次職業に到達。
今度は無限湧きによって、一気にそのレベルを三十にまで上げた。
「ただ、近道が出来るのはここまでだ」
少なくともこれ以降にゲームバランスをぶっ壊すような稼ぎ場所は見つけていないし、四次職業より上のクラスとなると、全てが特別な条件を持つ〈ユニーククラス〉となる。
ここまで稼いできたアドバンテージがなくなることはないだろうが、成長速度は確実に鈍ることになるだろう。
それに、ブレブレはゲームが進めば進むほど、その難易度は加速度的に上昇していた。
ここまで真っ当な手段とは言えない方法も使って戦力を充実させてきたが、製作側はこういう裏技的な攻略が出ることをある程度許容して、それを前提とした難易度を設定していたようにすら思う。
この世界は、やり直しの効かない一発勝負。
まだまだ気を緩められるような状況ではない。
「〈闇深き十二の遺跡〉は難易度が高い分、見返りも期待出来る。今のお前たちなら素の状態でも装備制限Bくらいの装備もつけられるだろうし、エンチャントでステータスを盛ればAランクにだって手が届く。出来れば有用なユニーク装備を手に入れて……」
「ちょ、ちょっと待った、おっさん! その、装備制限BとかAってなんだ?」
つらつらと説明をするが、そこでラッドから待ったが入った。
「……ああ。そういえば、評価ランクの話はしたことがなかったか」
どうやら、少し先走りすぎてしまったらしい。
ゲームの仕様が頭の中に入りすぎていて、他人に対してもそれを前提で話しがちなのは俺の明確な欠点の一つだろう。
「それぞれの能力の強さを測る基準に〈評価ランク〉ってのがあるんだ。能力値が1から4までならランクE-、5から14まではランクE、15から29まではランクE+、30からはランクD-、って感じでどんどん上がっていく。そうだな。今のお前たちなら……」
手帳を取り出し、ラッドたちの能力値の項目を見つけると、俺はそこに評価ランクを付け足した。
―――――――
ラッド
筋力 284(B)
生命 297(B)
魔力 105(C-)
精神 227(B-)
敏捷 218(C+)
集中 183(C+)
ランク合計:57
―――――――
「こんな感じだな」
手帳を広げると、ラッドたちはこぞって覗き込みに来た。
得心がいった、というようにニュークがうなずく。
「なるほど。これなら、数値だけの時よりも何が得意で何が苦手なのか、はっきりと分かりますね。だから『評価』ランクですか」
「ああ。大体の強さを測るなら、こっちの方が分かりやすいかもしれないな」
どちらかというと俺はデータ派なので実数値の方が好きなのだが、そこは好みの問題だろう。
「それで、装備の能力値制限はこのランクを元に決められている。例えば、お前が今持っている〈ブレイブソード〉は装備条件が『筋力D+』だから、筋力が七十五になるまで使いこなせないって具合だな」
「そういう仕組みだったのか」
今さらながらに新事実を知って、ラッドは手にしたブレイブソードをじっと見つめた。
「実は、訓練の効果とレベルアップに必要な経験値量も、能力値そのものじゃなくてこの評価ランクを元に計算されている。装備制限を考えるとランクは高い方がいいが、あまり上げすぎるのも問題になる」
「あ、覚えてるぜ! 要らない能力は抑えた方が成長は速いんだよな!」
「まあ、結論としては結局そういうことだ」
ちなみに評価ランクは高いランクになればなるほどランクを上げるのに多くの能力値を必要とするため、能力値の合計値が同じ場合でも、偏った上げ方をした方が大抵はランク合計は低くなる。
全ての能力値を完全に均等に上げている、俺で実例をあげてみると、
―――――――
レクス
筋力 200(C+)
生命 200(C+)
魔力 200(C+)
精神 200(C+)
敏捷 200(C+)
集中 200(C+)
ランク合計:54
―――――――
ラッドと戦闘力が大きく違う割に、ランクの合計値はたったの三しか違わない。
さらに、ラッドたちの中で一番極端なステータスをしているプラナを見てみると、
―――――――
プラナ
筋力 248(B-)
生命 150(C)
魔力 124(C-)
精神 124(C-)
敏捷 248(B-)
集中 388(B+)
ランク合計:54
―――――――
能力値は明らかに俺よりも高いのに、ランク合計は全く同じ。
これはつまり、経験値にかかるペナルティは俺と完全に同じになるということを表している。
あらためてレクスの不遇さを突きつけられて嫌になるが、それは置いておこう。
「将来を見据えるなら、魔法使いの〈筋力〉や戦士の〈魔力〉、それから〈敏捷〉や〈集中〉は抑えて得意分野を伸ばした方が効率がいい、というのは前に話した通りだ。レア度の高い装備には、特定の素質を上げつつ別の素質を下げるものもあるから、今回のアイテム収集はそれも目的の一つになるな」
これで一通りのことは話した。
そう思ったが、ラッドはまだ何か言いたいことがあるようだった。
「……目的は、分かったけどよ。その、〈闇深き十二の遺跡〉って冒険者にとっての最前線だろ。オレたち、ほんとにそんな場所で戦えるのかな」
ラッドのくせに、どうやらいっちょ前に怖気づいているらしい。
俺はこれみよがしにため息をついた。
「お前な。もう一回、自分のステータスを見てみろ」
「え? あ、ああ、うん」
虚を突かれると、こいつはいつも素直だ。
自分のステータスが書かれたページを見るラッドに、俺は言ってやる。
「分かるだろ? お前はもう、ステータスだけなら俺よりも強い」
「あ……」
今初めて気付いたというように漏らしたラッドに、笑いかける。
「自信を持て。A級冒険者よりも上のステータスの奴なんてそうはいない。もうお前は駆け出しなんかじゃない。フリーレアの街のエースの一人だ」
「オ、オレが……」
呆然と、そうつぶやくラッド。
そりゃあまあ、冒険者になって二ヶ月で「お前がエースだ」なんて言われても実感はないだろう。
だが、日本の一般人がある日突然A級冒険者になるのに比べたら、おとなしい転身ではないだろうか。
ラッドの中でも葛藤があったのだろう。
彼はしばらく黙り込んでいたが、数秒後に顔を上げた時、そこに迷いの色はなかった。
「おっさん、オレ、やってみるよ! おっさんにもらった力で、やれるだけ!」
「はは! ま、今回の探索には俺も参加するつもりだ。ダンジョンの敵は早い者勝ちだからな。ぼーっとしてると何も出来ずに終わっちまうかもしれないぜ?」
「へっ! おっさんには負けるかよ!」
すっかり調子を取り戻したラッドと軽口を交わし合う。
やっぱり、ラッドはこのくらい生意気な方が安心するというものだ。
「それじゃあ、行くか」
「ああ!」
気負いなく声をかけ、俺たちは出発する。
この世界に来てから初めての〈闇深き十二の遺跡〉の攻略。
凶悪なレアアイテムと最凶のボスが待つ、〈死の番人の洞〉に。
※ ※ ※
ダンジョンに入って三十秒ほど経った時だった。
「……来る」
一番耳のいいプラナが、曲がり角の奥にいる魔物の存在を察知した。
「いよいよ、か」
少し緊張の残る様子でラッドが剣を構えるが、俺はそんなラッドの頭をぽこんと軽く小突いた。
「い、いてっ!?」
「心配するなって言っただろ。大丈夫だ」
「そ、そうは言うけどよ……」
唇を尖らせるラッドには悪いが、こいつはほんとに分かっていない。
ラッドがここで緊張する必要も、心配する必要も、本当に全くないのだ。
なぜなら……。
「お前たちには一匹も渡すつもりはないからな」
「……へ?」
魔物の姿が目に入ったのと同時に、俺は両手に握ったメタリック王の剣を振り抜く。
「――〈疾風剣〉!」
アーツの効果で速度バフを得た俺の身体は地上を飛ぶように駆け、グングンと敵の姿が近付く。
「ちょ、おっさん!? は、はやっ」
後ろからラッドが追いかけてくる気配がするが、そんなもの間に合うはずがない。
敏捷による速度補正は二百で概ね頭打ち。
だとするとあとはアーツによる補正になるが、ラッドはいまだに移動に役立つ突進系アーツをあまり習得していない。
(七体のゾンビの群れが二つ。まずは左からやるか)
敵の姿がはっきりと視認出来た時、もはや、俺の頭の中から後ろのラッドたちの存在は完全に消えていた。
アドレナリンが脳を支配して、戦闘の酩酊と今まで組み上げたコンボだけが頭の中を縦横に駆け巡る。
「――〈オーバーアーツ〉」
初撃を振り抜いた俺は、足だけは止めぬまま抜き打ちの姿勢を取り、
「――〈駆け抜け三寸〉!」
ノータイムで抜刀アーツを発動。
両手持ちの上に持っているのは刀じゃなくて剣だが、マニュアルアーツの前でそんな差異は意味をなさない。
(まずは、お前だ!)
疾風剣の二撃目と合わさったその一撃は、あいさつ代わりに先頭のゾンビの首を刎ねた。
※ ※ ※
〈闇深き十二の遺跡〉はブレブレにおける本流、メインコンテンツだ。
それはまさしく「主人公」のために用意されたダンジョンで、ほかのダンジョンと違い、基本的にNPCがこのダンジョンをクリアすることはない。
難易度も当然それ相応に調整されており、遺跡は初期状態においてもそれぞれの街のトップ冒険者、つまりはヴェルテランクラスのキャラでも苦戦するくらいのレベルになっている。
と、いうことは……。
(ヒャッハー!! 殺戮だぁあああ!!)
ヴェルテランより素の能力が強く、優秀な装備とアーツを使える俺が、苦戦する理由はない。
そもそも、初期の遺跡のモンスターのレベルは二十五。
今のラッドたちが苦戦するような相手でもないし、戦ったって大して経験値も入らない。
だからこそ、
(別に俺が、遠慮する必要なんてないよなぁ!)
何の気兼ねもなく、効率を気にせずにただただ戦うことが出来る!
(つっぎっは!)
移動アーツの余勢を駆って倒れたゾンビの脇を駆け抜け、次なるアーツを発動する。
「〈切り返し〉!」
ゾンビ三体に向かって一息に剣を振るう。
その一撃は正確に三匹のゾンビを捉えるが、
(ち、浅いか)
やはり、単体のアーツでは火力不足。
すぐさまオーバーアーツを重ね、
「――〈一閃〉!」
三体のゾンビを返す刀で切り伏せる。
(これで、四匹!)
サクサクと魔物を屠る楽しさに、俺の唇は自然と吊り上がっていた。
ぶっちゃけた話、ここで俺が戦っちゃいけない理由はないが、実は戦わなければいけない理由もない。
だからこれは、はっきり言ってただのストレス解消だ。
ゲームでは強敵とギリギリの戦いをするのももちろん好きだったが、「命を懸けた戦い」なんて現実になったらやっていられない。
だけど幸い、なのかなんなのか、俺はすこぶる性格が悪い。
だから、
(――圧倒的な力で思う存分に敵を蹂躙するのも大好きなんだよなぁ!)
内心で叫びながら、振り抜いた剣の勢いをいなすように複雑な動きを奏で、
「――冥加一心、スティンガー!」
いつものコンボで、ようやく動き出したゾンビのうちの一体を貫く。
そうして、
(よし! あいつでラスト、七体目!)
俺が最後に残った群れの一体に剣を向けた、その時だった。
「――〈オーバーアーツ〉」
闇の奥から、涼やかな声が響き、
「〈駆け抜け三寸〉〈一閃〉」
俺が狙っていたゾンビの頭と胴が、同時に両断される。
どさりと崩れ落ち、消えていく魔物のその背後から、淡々としたつぶやきが零れ落ちる。
「――八つ」
その声に慌てて右を見れば、もう一つあったはずの魔物の群れは、もうすっかりとその姿を消していた。
戦慄にも似た武者震いに、身体が震える。
(そりゃ、早い者勝ちって言えば出てこない訳ないよな)
俺はもう一度、消えゆく魔物の背後に目を戻す。
そこには果たして、俺の想像していた通りの人物が、
「――ここは終わりですね、兄さん」
両手に持った二本の忍者刀を静かに鞘に納め、こちらに笑いかける妹の姿があったのだった。
―――――――
レシリア
LV 30
HP 638
MP 187
筋力 382(B+)
生命 274(B-)
魔力 142(C)
精神 254(B-)
敏捷 525(A+)
集中 209(C+)
ランク合計:64
―――――――
ニンジャ!?ニンジャナンデ!?
ついにレクスの前に立ちふさがった過去最強の敵(妹)!
絶望的な戦力差を前に、果たしてレクスは勝つことが出来るのか!
次回、第五十一話「二刀流vs両手持ち」
お楽しみに!





