第四十六話 インフィニティア
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先に進むにつれ、ダンジョンの難易度も上がる。
スケルトンの偽装はどんどんと巧妙になり、一度に出てくる数も最初の四体から、今は八体にまで増えている。
ただその分、見返りも大きく……。
「あ、〈成長〉しました!」
「わ、わたしもです!」
ラッドたちはダンジョンの半ばに来たところで、もう全員がレベルを上げていた。
「マジかよ。まだ、ダンジョンに入って一時間も経ってないのに……」
「言ったろ。ここの敵は、脆い割に経験値が多いんだよ」
もちろん、奇襲に対応する手段と、スケルトンに対して有利な攻撃方法を持っている、という前提ではあるが、ここのモンスターはレベル上げに向いているのだ。
初回の探索ほどではないが、成長回復のおかげでMPの枯渇もなく奥に進むことが出来ている。
初めのうちは俺も戦闘に参加していたが、ラッドたちがコツを掴んでからはそういうこともなくなった。
今のところは全てが順調に進んでいると言える。
……しかし、慣れた時にこそ罠を仕掛けてくるのがこのブレブレというゲームだ。
「……止まれ。待ち伏せだ」
「え?」
突然何もない場所で立ち止まった俺に対して、ラッドたちが怪訝な表情をしながら、それでも素直に足を止めた。
差し掛かった部屋は、少し広めだが何も置かれていない場所だ。
ラッドたちはきょろきょろと辺りを見回すが、異常は見つけられないようだ。
「何かの間違いじゃないのか? ここは別に何も……」
「いや……上だ」
釣られてその場の全員が上を見上げる。
「うわっ!」
ラッドたちの口から、悲鳴が上がる。
そこそこ高いその部屋の天井の中央には、数匹のスケルトンがびっしりと張りついていたからだ。
「おそらく、真下についたところで落ちてくる仕掛けだろうな」
「こんな罠まであるのかよ……」
今までずっと地面に注目させてからの、この罠だ。
ダンジョンの中は薄暗いこともあって、普通に探索していたらまず見逃してしまうだろう。
ただ、一度見つけてしまえばむしろこの状況はアドバンテージとなる。
「落ち着け。一ヶ所に固まっている分、対処はしやすい。遠距離で狙い撃って、落ちてきたところをトドメだ」
「あ、ああ」
まだ動揺が抜けていないようだったが、今やラッドたちも一端の冒険者だ。
手際よくスケルトンたちを撃ち落とし、次々にトドメを刺していった。
「こ、のっ!」
地面でもがく最後のスケルトンに、ラッドは剣を振り下ろす。
終わってみれば無傷の勝利だったが、ラッドの額に浮かんだ汗は引かないままだった。
「おっさん。あんなのどうやって気付いたんだ?」
「これだ」
言いながら突き出したのは、デコイガン。
まだ一度も使っていないその装置には、今は「使用可能」を示す青色の光が宿っている。
「だけどな。この部屋に足を踏み入れた瞬間、この光が『赤』に変わったんだ」
デコイガンは、脱出アイテムの〈帰還の羽〉などと同じで『戦闘状態になっていると使えない』アイテム。
だから、その使用制限を逆手に取る。
常に出しておいて、もしそれが使えないような状況になった場合、それは逆説的に「敵が近くにいる」という証明になる。
俺にとってのデコイガンは、三十分に一度だけ敵の注意を引けるアイテムじゃない。
どんなダンジョンでも無限に使える、優秀な「索敵アイテム」なのだ。
説明を聞いたラッドは、俺を何か信じられないものでも見るような目で見つめた。
「あ、あんたの頭の中、どうなってんだよ……!」
「使えるもんは何でも使うってだけだ」
そして、そういう創意工夫や遊び心を許容するからこそ、ブレブレは、この世界は、俺にとっての「神ゲー」なのだ。
それに……。
「……本当に驚くのは、これからだからな」
「えっ?」
聞き返してきたラッドに何でもないと首を振って、先を急ぐ。
そして、
「……着いたな。ここが目的地だ」
ほどなくして、俺たちはついに目当ての場所に辿り着いた。
※ ※ ※
そこは、明らかにほかの部屋とは雰囲気の違う場所だった。
今までのどの部屋よりも広く、そして部屋の一番奥には、大きな扉が鎮座している。
「あの扉。これは謎解き、か?」
ラッドがつぶやいた通り、奥の扉には意味ありげな文様が描かれていて、その手前にはこれ見よがしにレバーが設置されている。
そしてレバーの隣に、左右二つずつ、計四つの回転するレリーフが埋め込まれていた。
「典型的な仕掛け扉、ですね。四つのレリーフの絵柄を特定の組み合わせにしてレバーを引くと扉が開く……んだと思いますが、問題は今のところ、絵柄のヒントになりそうなものが何も……」
ニュークは困った顔で分析しているが、俺は構わず前に進む。
「お、おい、おっさん?」
「お前たちはそこで待ってろ」
ついてこようとするラッドを制して、レバーの前まで行く。
「待ってろって言ったんだが」
「兄さんの隣で、待っています」
理屈の通らないことを言うレシリアに嘆息しながら、俺はためらいなくレバーに手をかける。
「ま、待ったおっさん! まだ仕掛けは……」
「ああ。だが、これでいい」
ラッドの言葉を振り切って、思い切りレバーを引き倒す。
直後に「ビィィィィ!」という耳障りな警告音が辺りに響き渡った。
そして、異変はそれだけではとどまらない。
「じ、地面から、骨が……!」
部屋のあちこちの地面から、骨が生えてくる。
骨は抜き出した一部を足掛かりに、少しずつ自分の身体を引き上げ、その姿を現していく。
「スケルトン! でも、この数……」
プラナの警告の通り、出てきたのはスケルトンだ。
その数は、全部で「十六」。
最初に遭遇した四体の、実に四倍の数のスケルトンが、その場に出現しようとしていた。
「そんなぼさっとしてていいのか? 完全に出てくる前に数を減らさないと、面倒なことになるぞ」
「こ、この野郎! みんな! まずは範囲攻撃だ! 出てくるまでに出来るだけ弱らせて、そのあとに数を減らすぞ!」
我に返ったラッドが叫び、そして、死闘の幕が開けた。
※ ※ ※
「くっそ。とんでもねえ、数だった」
荒い息をつきながら、それでもラッドたちは自力でスケルトンの大群を退け、その場に立っていた。
俺やレシリアも少しだけ手伝ったとはいえ、撃退したのはほとんどがラッドたち自身の力。
予想以上の大健闘だと言える。
「流石だな。正直、最初はもっと苦戦するかと思ってたよ」
俺がパチパチと手を叩くと、その態度が気に障ったのか、ラッドが叫んだ。
「お、おっさん! こういうことをする時は、もっと事前にちゃんと……」
「悪かったな。だけど慣れた方がいいぞ。まだまだ先は長いんだからな」
言いながら、俺はもう一度部屋の中央に向かう。
それを見て、ラッドの顔が青ざめていく。
「お、おい。おい、おっさん! まさか……」
「そのまさか、さ」
この部屋の「罠」こそが、この〈不死なる者の迷い路〉がブレブレの攻略を変えたと言われる所以。
本来であれば、一度倒したモンスターは日付を跨いでの補充以外で復活しない。
冒険者たちは、限られた数の魔物を計画的に倒し、自身を成長させていくのが普通だ。
そんな世界の中で……。
スイッチ一つで無尽蔵に魔物が湧き出す奇跡の装置が、これだ。
仕掛けの解除を間違った時のペナルティとして魔物が襲ってくる、というのはゲームでもよくあること。
そして、解除のペナルティが一回だけではいくらでも総当たりで解けてしまうので、間違える度に同じトラップが発動する、というのもゲームでは同様によくあることだ。
だが、その二つが出会った結果、ブレブレのシステム上あってはならないとんでもない事態を引き起こしてしまった。
絵合わせの謎を解かず、あえて不正解の答えを選び続けることで、この罠は無限にモンスターを生成し続ける。
結果としてプレイヤーは、「無限の経験値」を手に入れられるのだ!
攻略があまり盛んではなかったブレブレにおいても、この技だけはインターネットの掲示板や、ゲームの裏技が載せられている情報サイトでも取り上げられ、ブレブレプレイヤーの間に瞬く間に広がった。
そうして、この〈不死なる者の迷い路〉の罠は、「ブレブレ史上もっとも有名なレベル上げポイント」としての名声をほしいままにしたのだ。
「じゃ、行くぞ」
俺は気軽に言うと、レバーに手をかける。
「ま、待てって、おっさん!」
「レ、レクスさん! それは……」
ラッドやマナの焦った声が聞こえる中、俺は鼻歌交じりにレバーを引く。
直後に「ビィィィィ!」という耳障りな警告音が辺りに響き渡り、そして……。
そして……。
「……………………あれ?」
何も、起きなかった。
どれだけ待っても地面から骨が湧き出してくることはなく、ただ無機質なレリーフの絵柄が、俺を責めたてるように見つめていた。
そうして、深い、深い沈黙の中で、
「……いや、そりゃそうだろ」
ぼそりとつぶやかれたラッドの言葉が、俺の心をえぐったのだった。
これがワ〇ップ系俺TUEEEE小説だ!





