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主人公じゃない!  作者: ウスバー
第三部 革命
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第三十八話 大人の戦い


「わ、悪い、ししょ……おっさん。その、オレが口をすべらしちまって……」


 そう頭を下げたのはラッドだった。

 訓練場で俺に突撃してきた女性は「メイジー」という名前の冒険者で、冒険者になる前のラッドと少しだけだが面識があったらしい。


 そのよしみで、ということなのか、俺がラッドの訓練を始めた頃、俺の悪い噂を聞いた彼女がラッドに忠告をしに行って、その際にラッドが俺のことを色々としゃべったんだとか。


「その、アタシもバカだったから、その時は信じてなかったんだけど……」


 それから数週間が過ぎて昨日、ラッドたちは溶岩洞のボスを倒した。

 メイジーたちよりもはるかに格下、まだひよっこだと思っていたラッドが、突然に、だ。


「それでアタシ、やっと気付いたんだよ。ラッドの奴が『あいつは、フリーレアで一番の指導者だ』って言ってたのは、本当だったんだ、って」

「ちょ、メイジーさん!?」


 突然の暴露にラッドが慌てているが、それが逆にメイジーの言葉に信憑性を与えていた。


「ほお。ラッドが、ねぇ」

「な、なんだよ……」


 つついてやると、ラッドは口を尖らせた。

 案外認められてたんだな、と思うと嬉しい気持ちもあるが、まあこれ以上やると本気で怒られそうだ。


「アタシのパーティはもう二年近く冒険者やってるんだけど、全然で。〈七色の溶岩洞〉も一度行ったことはあるんだけど、こんなの無理だって逃げ帰ったばっかだったから、さ」

「それで、藁にも縋る思いで、ってことか」


 俺が言うと、メイジーは慌てて手を振った。


「ム、ムシのいい話だってのは分かってる! アタシにも、ラッドみたいに指導してくれ、とか、そこまで厚かましいことを言うつもりはないんだ! ただ、アタシは自分の才能が知りたい。アタシ、初期クラスはファイターで、だけど何だかしっくりこなくてさ。何度も何度も転職して、色々とがんばって……。だけど、だけど結局、何をやってもうまくやれなくって……」


 悔しさを押さえつけるように、メイジーはもう一度頭を下げた。


「だから、せめてアタシに何の才能があるのか、それともないのか、それだけを教えてほしいんだ! あんたみたいなすごい奴に、才能がないって言われたら、それでスッパリ諦められると思う! だから……」


 メイジーは傍から見ても分かるほどに必死に頼み込んでいる。

 熱意は伝わってくるが……。


―――――――

メイジー


LV 11

HP 160 MP 93

筋力 61 生命 54

魔力 67 精神 70

敏捷 58 集中 74

―――――――



(やっぱりなぁ)


 試しに〈看破〉してみたが、それだけでは「何だか迷走してる気がするな」という以上のことは分からなかった。


 俺がラッドたちの素質値が判別出来たのは、あくまで能力から逆算したというだけ。

 ラッドたちが一度も転職を経験していないから出来たことで、さらに言えばぶっちゃけ計算間違いやら勘違いやらで間違っている可能性だってある。


 実際にレベルアップしてもらえば差分で成長値は割り出せるが、レベル十一でこの能力値では、それにだって時間がかかるだろう。


「兄さん。彼女の素質を調べるのは手間もかかるでしょうし、メリットがありません。ここは、断った方が……」


 隣に立つレシリアは、小声でそうささやいてくる。

 それは確かに正論だ。

 しかし、


「いいぞ」


 俺はあまり考えることなく、そう答えていた。


「えっ? ほんとにいいのか……ですか?」


 この返答に一番驚いていたのは、頼み込んでいたメイジーだった。

 信じられない、という顔で、ぽかんと俺を見ていた。


「ああ。ただ、ここじゃあ無理だ。少し付き合ってもらうぞ」


 俺が言うと、メイジーは「も、もちろんです!」と打てば響くような反応を返してきた。

 内心、ほくそ笑む。


(これは、ラッドたちの次の「テストケース」としてちょうどいいかもしれないな)


 本当はもう少し先に、と思っていたが、こうして機会が転がり込んできたなら、少しばかり計画を前倒ししてしまってもいいだろう。


「向かうのは、闘技場だ。少し歩くぞ」


 そう言い捨てて俺が訓練場を出ると、なぜかラッドたちまでついてきていた。

 自主訓練をしてもらおうと思ったが……まあいいか。


「いいんですか? 兄さんに何が出来るのか、彼女から情報が漏れてしまう危険性もありますけど」

「どうせもうヴェルテランには色々話しちまったしな。今さらだ」


 そう返すと、レシリアは眉根を寄せる。

「やっぱり私が兄さんについていないと……」とか何とかぼそぼそ言っているのが聞こえたが、レシリアは心配性過ぎる。


「大丈夫だ。これも、もともと計画していたことだからな」

「計画、ですか?」

「この世界は、一般の冒険者が弱すぎるんだよ。だから俺が、時代を加速させる」


 なおも不安そうな顔をするレシリアに、俺は笑いかけた。


「ま、何もダンジョンに突撃して魔物を倒すだけが戦闘じゃない。大人の戦い方ってもんがこの世にはあるんだよ」


 まあ言うほど大したことをする訳でもないが、こう言っておけば何か色々考えてる奴っぽく見えるだろう。


 俺は精々自信満々に見えるようにみんなを先導すると、遠くに見える闘技場へと近付いていくのだった。



 ※ ※ ※



 フリーレアの中心に位置する〈闘技場〉は、街の名物であると共に神の遺物の一つであり、様々なルールの下で、命の危険を冒すことなく人間同士の決闘を楽しむことが出来る施設だ。


(そういえば、大会ももうすぐか)


 ブレブレでは、六月と十二月に「世界一決定戦」があり、冒険者に限らず様々な有名NPCたちとのバトルが楽しめる。

 単純に普通では戦えない相手と戦える、というだけでなく、上位に残ると莫大な賞金がもらえるほか、闘技場の覇者にならないと覚えられない技能などもあるため、キャラ強化の視点からしても非常に重要だ。


 しかし、今はオフシーズン。

 大会前後には満員まで人が入るが、朝や昼は利用する者も少なく、申請すればパーティ内での模擬戦のようなことも出来る。


「オレ、闘技場って入るの初めてなんだよなー」


 そうは言っても普通の冒険者だとあまり縁がないのか、ラッドたちはそわそわと辺りを見回している。

 しかし、特に目を引くのは、やはり闘技場の入り口にドドンと立つ巨大な石像だろうか。


「かっこいいな、この人。闘技場の戦士なのかな」


 物珍しそうにラッドがコツンコツンと石像の台座を叩いていると、マナがすかさず出てきて解説した。


「これは初代チャンピオンの像、ですね! 世界大会開催以来の三十年間、ただ一度の敗北もなく、周りに惜しまれながらも引退するまで常勝無敗を貫いた伝説の闘士さんです! あ、ちなみに今のチャンピオンの方は、この人の遠い子孫らしいですよ!」

「流石。詳しいな、マナ」


 やはり冒険者マニアともなると、闘技大会の動向にも詳しいということなのだろうか。

 俺が声をかけると、マナは指をツンツンと合わせて、赤面しながら白状した。


「あ、う、その……。か、観光案内を読み込んでいたので……」


 それは……冒険者マニアとかじゃなくて、もはや単なるお上りさんなのでは。

 まあそんな疑惑はおいておいて、ラッドたちの様子を見て、メイジーの緊張も少しはほぐれたようだ。


「……メイジー。準備はいいか?」

「は、はいっ!」


 まだ緊張しているようだが、まあしょうがない。

 彼女を促して、中へと進む。


「いいか。素質を調べると言ったが、それにはちょっとした条件がある」

「じょ、条件、ですか?」

「別に大したことをする訳じゃない。ただ、闘技場に上がってじっとしているだけでいい。ああ、ただし……」


 メイジーの装備を上から下まで眺める。

 能力値が変動するようなものはなさそうだが、エンチャントがかかっている可能性はある。

 念には念を、だ。



「――装備は全部外して、な」



 俺がそう言った瞬間、メイジーがビクッと肩を震わせ、心なしかその顔から血の気が失せたのが分かった。


「は、はい……。わかり、ました」


 ここまで来てごねてもしょうがないと思ったのか、覚悟を決めたような表情でうなずくと、リングの向こう側へ歩いていった。


(もしかすると、装備がない状態でボコられる、とでも思ったのか?)


 まあ、誤解はリングの上で解けばいいだろう。

 そんな風に考えて、俺もリングに上がろうとしたところで……。



「――み、見損なったぜ! おっさん!」



 後ろから、声がかかった。


「……へ?」


 振り向くと、ラッドが肩を怒らせて立っている。

 いや、それだけでなく、ニュークは呆れたように、プラナも刺すような冷たい目で、マナだけはきょとん顔でぽけーっと仲間たちを見ていた。


 そして、最後の一人。


「兄さん。大人の戦いって、そういう……」


 軽蔑しきった顔のレシリアの台詞で、やっと俺はメイジーたちが何を勘違いしたのかが分かった。


 ブレブレは装備によって、キャラのグラフィックも変わる。

 そして、特に一部のお洒落な装備は、単に鎧を変えただけなのに、グラフィック的には中の服も変わるようなものもある。


 それは単なるゲームの都合ではあるのだが、それが現実化するとどういう処理になるのか。

 もしかすると、一部の装備はその内側の服や下着も込みで「一つの装備」という扱いになっているのではないだろうか。

 そしてそういう装備であれば、当然肌に直につけている訳で、それを脱いだとしたら、一体どうなるのか……。


「あ、あぁ……」


 今度は俺の顔から、血の気が引いていく。


 メイジーの気持ちになって、自分の言動を振り返る。

 素質を見るには条件がある、と言って闘技場に呼び出して、装備を外してじっとしてろと要求した。

 これって、見方によっては、いや、見方によらなくても……。



「――ち、違う! そういうことじゃないからぁ!」



 そうして俺は、闘技場の隅で涙目になって裸になろうとしていたメイジーを、必死に説得する羽目になったのだった。

ちょっとした文化の違い!




突如として現れた謎の新キャラ「メイジー」ちゃん!

女戦士の割に可愛い名前の彼女の適性職は一体なんなのか!


正解率1%(当社比)の謎を暴け!!

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ちょっとした記入ミスで、登場人物も、世界観も、ゲームシステムも、それどころかジャンルすら分からないゲームのキャラに転生してしまったら……?
ミリしら転生ゲーマー」始まります!!




書籍三巻発売中!
三巻
メイジさん作画のコミックス四巻も発売されています!


「主人公じゃない!」漫画版は今ならここでちょっと読めます
ニコニコ静画」「コミックウォーカー
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― 新着の感想 ―
[良い点] ぐへへ……
[一言] 下手なバラエティ番組のスベった珍回答よりよっぽど面白い回答が並んでますね♪(≧▽≦)
[一言] これが大人の戦い方ってやつさ! メイジーちゃんなら名前的にまぁアレよね…
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