第百七十二話 帰還
戻って参りました!
いや、ミリしらの方を百話以上更新してたのでめちゃくちゃ時間経った気がしてたんですが、まだ二ヶ月しか(しか?)経ってないんですねぇ
「――到着! この街もずいぶんと久しぶりだなぁ!」
俺は〈水神ウィーナ〉のよみがえった街、〈翠柱都市ヴァルツォダ〉の門をくぐると、感慨深く辺りを見渡した。
〈水の巫女〉への襲撃や〈魔王〉の襲来、それから何よりも〈水神〉の復活であわただしかった街も、今ではすっかり落ち着きを取り戻している。
(まあ、それもそうだよな。あれからもう何ヶ月も経ったんだから)
俺たちの仲間のマナが日本からの転生者であり、この世界の「主人公」だということが発覚してから、早数ヶ月。
あれから俺たちは各地を回り、今まで「主人公」権限がないから発生させられなかったおいしいイベントに片っ端から突貫。
今までの鬱憤を晴らすとばかりにイベント消化を繰り返した。
(いやぁ、笑いが止まらないとはこのことだよな!)
枷がなくなった俺は、ずっと書き溜め続けていた「主人公にやらせたいことリスト」の内容を次々に消化。
お得なイベントやアイテムなどを破竹の勢いで回収していった。
その量はすさまじく、貴重な装備はもちろんのこと、お金も大量に手に入れたことで、その総資金はもう五十億ウェンを超えた。
この分なら、いよいよ百億ウェンの〈スペシャルセーフハウス〉購入も視野に入ってくる。
(まったく、夢が広がるよ)
そしてもちろん、イベントで手に入るのはアイテムやお金だけじゃない。
長く続いた探索の傍ら、当然ながらレベル上げも怠らなかった。
今ではラッドたちのレベルはなんと五十を超え、いまだゲーム開始から一年も経っていない間にゲーム後半並みの戦闘力を手に入れてしまったことになる。
そのステータスも当然すさまじく、
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ラッド
LV 52
HP 1188
MP 262
筋力 520(A)
生命 527(A+)
魔力 195(C+)
精神 407(A-)
敏捷 336(B+)
集中 323(B)
能力合計 2308
ランク合計 74
―――――――
一番バランス寄りのラッドですらこの能力値。
数値を見るだけでは分からないかもしれないが、はっきり言えばとんでもない。
例えば、かつて闘技大会でラッドを破ったセルゲン将軍。
――――――
セルゲン
LV 55
HP 840
MP 180
筋力 350(B+)
生命 350(B+)
魔力 110(C-)
精神 255(B-)
敏捷 145(C)
集中 170(C)
能力合計 1380
ランク合計 57
――――――
その能力値と比べてみると、その差は一目瞭然だろう。
個々の能力がどうこう以前に、能力合計が七割増しくらいになっている時点で、育成の重要性というのが分かるというもの。
もちろん、レベルが五十なのに全ての能力値が二百しかなかったレクスなんかとは比べ物にならない強さだと言える。
……ただ、インパクトで言えばそれをしのぐ人間が、この中にいる。
「――急にニヤニヤし出してどうしたんですか、兄さん」
俺をいぶかしげに見つめる、この世界での妹、レシリア。
初期能力に下駄を履いていた彼女は、最初からぶっ壊れではあったけれど……。
―――――――
レシリア
LV 51
HP 958
MP 271
筋力 572(A+)
生命 413(A-)
魔力 205(C+)
精神 393(A-)
敏捷 866(SS-)
集中 335(B+)
能力合計 2784
ランク合計 81
―――――――
ここ数ヶ月の探索を経て、その強さはさらに加速した。
敏捷を攻撃力に変える忍者刀カテゴリで戦うことにした彼女は職業も装備も全て敏捷特化。
今回の探索で、武器でありながら敏捷に素質ボーナスのある〈疾風刀〉というユニーク武器を手に入れたこともあって、その特化具合は群を抜いている。
「説明不要!」とばかりに数字の横に添えられたSS-の文字が、そのやばさを物語っていると言えよう。
(振り返ってみると、ほんとみんな強くなったよなぁ)
さらにはレベルが五十を超えたことで純エルフであるプラナは固有の技を覚えたりと、全員がここ数ヶ月で目覚ましい成長を遂げた。
ただ……。
実は、俺たちの中で一番多くレベルを上げたのは、ラッドたちでもなければ、レシリアでもなかった。
―――――――
レクス
LV 91
HP 212
MP 1546
筋力 0(F)
生命 0(F)
魔力 1440(SSS+)
精神 0(F)
敏捷 0(F)
集中 0(F)
能力合計 1440
ランク合計 24
―――――――
なんとなんとなんと!
この数ヶ月の探索でもっとも多くレベルを上げたのは、何を隠そう俺なのだ!
(はぁぁぁ。ほんと、〈魂の試練〉で魔力特化になっておいてよかったぁ!)
この世界の基となったブレブレというゲームは、レベルが下の敵を倒すともらえる経験値が激減する。
だから、初期からレベルが五十ある割に弱いレクスというキャラクターは、全くレベルが上がらなかった。
そのせいでずっとずっと、血を吐くような思いをしてきたのだが、今は違う。
俺のこの「魔力特化ビルド」は、「能力値がゼロだとランク合計が異様に低くなる」ことを利用し、あえて「魔力以外の能力値を上げずにゼロを保つ」ことでレベルアップに必要な経験値量を抑えるという裏技的なビルド。
というか、俺の悲しいほどに低い成長率がなければ達成出来なかった、俺専用の成長型だ。
その必要経験値の少なさに加えて、極端な攻撃偏重パラメータとやべーほどのMP、それからアイテム使用による範囲火力という雑魚狩りのために生まれたようなキャラ性能によって、俺は七十五レベルから九十一レベルまで、なんと十六ものレベルを上げることが出来たのだ。
こんなもの、笑顔にならない方がどうかしている。
「――この数ヶ月で俺もずいぶんと強くなったなと思ってさ」
いまだに不審な顔で俺を見るレシリアにそう返すと、レシリアはちょっと嫌そうな顔をした。
「私としては、兄さんにはもっと防御を上げてほしいんですけどね」
「う……」
チクリ、と言葉のナイフを刺されて、俺は口をつぐむ。
能力値がゼロから五に上がるだけでこのビルドの利点は激減してしまうし、さらに能力値ゼロを維持するためには素質にマイナス補正がかかるものを身に付けなくてはいけない関係上、装備も変えられない。
どれだけレベルを上げても攻撃偏重すぎて紙みたいな装甲なのは、いわばこのビルドの宿命なのだ。
「と、とにかく、もうすぐ王都とフリーレアに戻れるんだ。アインとヴェルテランに会ったら強くなったことを自慢しないとな!」
旗色が悪いのを見て取って、俺は素早く話題を転換した。
……そう。
俺たちがここ、〈翠柱都市ヴァルツォダ〉にやってきたのは、海路を使って王都に戻るため。
懐かしい場所ではあるが、あまり長居するつもりもない。
(出来れば、ハアト辺りには挨拶くらいしたかったところだが……)
なんてことを考えていたせいだろうか。
「おにいちゃーん!」
噂をすれば影が差す。
俺のもとに、一人の幼女が駆け寄ってきた。
「――ハアト!」
俺は目を見開いて、彼女を待ち受けた。
見た目こそそこらの街を歩いている普通の幼女に見えるが、彼女こそが、〈白の女王ハアト〉。
この街の支配者にして、〈水の神〉の巫女だ。
「見つけられてよかったー! 大変だよ、レクスおにいちゃん!」
ただ、どうやら彼女は、単に旧交を温めに来た訳じゃなさそうだった。
息を切らしながら、俺に向かって早口で訴えてくる。
「えっとね。ギルド経由で、リリーって人から、連絡がきたんだ。おにいちゃんに、急いで教えてほしいことがあるって」
「リリーから?」
かつてフリーレアで知り合った吟遊詩人リリーには、王都で情報収集を任せているはず。
その彼女が、連絡を寄越してくるということは……。
「――うん! アイン王子の弟が、見つかったって」
急報!!
という訳で今回は導入!
今回のエピソードはそんなに長くないですが、終わるまでは毎日更新の予定です!
ちなみに「リリーって誰だっけ?」ってなった人は漫画がちょうどリリー編をやっているのでコンプエースの最新号をチェックだ!(自然な宣伝)





