第百七十一話 人と神と
深夜突然思い立ってci-enに今作ってるフリゲのページ作りました!
https://ci-en.net/creator/16826/article/779294
こっちに出てくる〈ブレイブ&ブレイド〉のネタ元……だったはずがお互い魔改造されて別物になっちゃったゲームなので、まあ興味あったら覗いてみてください
「――いやぁ、〈水神〉は想像以上にいい奴だったなぁ」
今回のことで俺が唯一懸念していたのは、〈水神〉の理性を超えてゲームシステムが適用されること。
例えば、交渉で向こうの出した選択肢を拒否した時点で三つ目の選択肢を選んだとみなされて戦闘が始まったり、交渉が成功しても実際にアイテムを使った瞬間に追い出しイベントが発生して、「やっぱお前資格ねえわ」と〈神の座〉から追放されたり、と、そんなシステム補正によるイレギュラーを警戒していた。
これまでのことを考えるとあまり高くはない可能性だったが、何しろ相手は一瞬でこっちをミンチに出来るまさに神のごとき、いや、神そのものの力を持った相手。
ミミック狩りを実際にやってみるまでは、俺も結構緊張していたのだ。
まあ蓋を開けてみればゲームの強制力的なものは何もなかったし、〈水神〉は考えていたよりもずっと話せる奴で、意外にも楽しくおしゃべりまで出来てしまった。
というのも、俺がミミック狩りを申し出たあと、
《……分からぬ。ここは神域。この身から水が枯れ果てぬ限り、この場所に魔物が生まれることは永劫ありえぬ》
〈水神〉は俺の要求を頭ごなしに突っぱねることなく、ただ不思議だというように首を横に振ったのだ。
俺はそんな〈水神〉の態度に、活路を見出した。
この様子なら、〈水神〉本人には特に不利益がないことを説明すれば問題ないだろう。
「ミミックは自分で持ってきているから大丈夫だ」
多少安心した俺が、肩の力を抜いてそう切り出すと、あとはポンポンとスムーズに会話のキャッチボールが成立した。
《そのようなもの、どこにいる? 我を謀るつもりなら……》
「いや、インベントリに入ってるんだよ」
《……ミミックとは魔物ではないのか?》
「ミミックは魔物だけどアイテムにもなるんだ」
《……何故に魔物などを持ち運んでいる》
「いや、色々と便利なんだぞ、ミミック」
そんな風に真摯に回答を重ねると、俺の誠意が通じたのか、〈水神〉はしばらく黙ったあと、
《――人とは、刹那を生きるもの。やはり永劫を生きる我らには、その生き方は理解出来ぬか》
一気に年を取ったかのように妙に人間臭い仕種で首を横に振り、快くミミック狩りの許可をだしてくれた。
それだけじゃない。
俺たちがミミックを狩ってヒャッハー言っているのを横目に見届け、最後に〈神の座〉を出る時には、
《……また、ここを訪れるがよい。狩りの価値は我には分からぬが、神の命の対価としてはあまりに足らぬ》
とデレてきてくれたのだ。
おかげで俺たちは伸び伸びとミミック狩りを楽しむことが出来たし、本当に〈水神〉様々だ。
「いや、ミミック狩り楽しんでたのはおっさんだけだからな! というかおっさんはさぁ! おっさんはほんと、こう、うあああああ!」
ラッドが突然叫んだと思うと、何やら身悶えし始めた。
まあ、これも割といつものこと。
よく分からんが青春してるなぁと、それこそおっさん目線で見守っていると、
「いえ、兄さんのせいですからね」
隣のレシリアから、凍り付くような視線が向けられた。
それだけじゃなく、レシリアからもこれみよがしにため息をつかれる。
「……はぁ。兄さんがこういう人なのは私が一番分かっていたのに、不覚でした」
本当に、私が一番、分かっているのに、ともう一度強調するように言ってから、何やら首を振るレシリア。
どうやらラッドもレシリアも、〈水神〉の迫力にあてられて少し情緒不安定になっているようだ。
「……あーもう、いいや! よくねえけど! それより、おっさん!」
そこで、ラッドがもう一度大声を出すと、吹っ切れた様子で顔をあげる。
「〈水神〉様、なんか特別な装備をくれるって話だったじゃんか。それはよかったのかよ」
「あー、まあ、限定品に魅力を感じない訳でもないんだが……」
ラッドの疑問ももっともではある。
ただ、〈水神〉がくれる〈水龍の衣〉……どころか、その上位互換である〈水神の衣〉であっても、やはり大量のエンチャ装備には敵わない、というのが俺の判断だ。
……かつて、掲示板のスクショで見た〈水神の衣〉。
店売り最強防具の三倍という圧倒的な防御力には確かに驚いたものの、俺が本当に羨ましいと思ったのは表示された装備欄の最後、「筋力プラス255」の部分だ。
ただ、この能力値アップは装備に元からついている効果じゃない。
そもそも「精神」を司る〈水神〉の名前を冠した装備で、火の管轄のはずの「筋力」値が上がるというのがおかしな話。
ではあの筋力アップは何かと言えば、あれはモンスタードロップの装備を手に入れた時にランダムで付与される「エンチャント」。
要するに、運次第で後付けされる追加効果だ。
これは、某掲示板で〈水神の衣〉を手に入れたと自慢していたアクション上手いさんが、わざわざ「水神倒しまくってドロ厳選」をした理由でもある。
なぜなら、基本的にブレブレではボスのドロップ品は固定。
例えば〈魔王〉が落とす装備は必ず対応する呪い防具一択だし、遺跡の〈守護者〉だけ二種類のうちどちらか一方を落としたりするが、どちらも確率は同じなので目当てのアイテムを出すだけなら何度も倒す必要はない。
あ、あとマナによるとリメイク版ではドロップが二種類あったボスは、両方のアイテムを落とすようになったらしい。
神リメイクかよ!!
……というのは置いといて、とにかく狙いの装備を落とすだけなら、厳選なんて作業は必要じゃないのだ。
「結局、強い装備を一個取るより、いいエンチャのついた装備を大量にもらった方が戦力は上がるからな」
今回俺がやったのは、かつて〈真闇の古代迷宮〉で「最強の育成用装備」を手に入れたのと全く同じ仕掛けだ。
ミミックが化けているカジノ産の〈スティールソード〉を高レベルのエリアで解放し、そのミミックを一定時間エンチャントが必ずつくようになる消費アイテム、〈黒猫の祝福コイン〉を使ってから倒す。
エンチャントの効果は「倒したモンスター」ではなく、「倒した場所」のレベルによって決まるため、この手順でミミックを狩れば必ず強いエンチャントがついた装備がもらえる、というカラクリだ。
「ん、んー? じゃあ結局、前のとは何が違うんだ?」
ラッドは首をかしげるが、その答えは単純明快。
「簡単に言うと、今回のエンチャントは〈真闇の古代迷宮〉産のものと比べて2.5倍以上の強さがあるんだよ」
ダンジョンレベル、あるいはエリアレベルというのは、大体その場所に出てくる雑魚モンスターの平均レベルが採用される。
遺跡の中で一番難易度が高い〈真闇の古代迷宮〉の九十九レベルが俺の知るダンジョンの中では最高峰だった。
しかし、この〈神の座〉の推定エリアレベルは、それを遥かに上回る二百五十五。
これはおそらく、ここにいる唯一の敵がレベル五百の〈神〉だというのもあるし、ここのエリアでドロップするのが〈神〉を倒した時のドロップ品だけだから大胆に数値を上げられた、という要因もあるだろう。
理由はともあれ、この〈神の座〉でミミック狩りをした場合、平均127、最高255というぶっ壊れ性能のエンチャを手に入れられるということになる。
一人の人間が、装備可能な防具は七つ。
例えばその防具全てに筋力二百のエンチャがかかっていたとしたら、たとえレベル一の村人だろうとあの剣聖ニルヴァ以上の筋力値を得られる、と言えばそのすごさが分かるだろうか。
――ただの人を、最強へと変える。
まさにこれは、神の力がこもった装備なのだ。
とはいえ、もちろん前のエンチャント装備と欠点は変わらない。
「まあ、これもミミックの落とした低級装備だからな。以前の育成装備と同様、防御力や基本性能に問題はある」
それに防御力の問題を解決したとしても、この装備を俺が身に着けることは出来ない。
俺の装備構成はビルドの関係上ガッチガチに縛られていて、強い装備が出てきても採用する余地がないのだ。
今の俺のビルドの肝は「魔力値以外の成長値がゼロ」であることで、それは成長値にマイナス補正がつく装備を着ないと実現出来ないからだ。
ただ……。
「――この装備には、まだ『先』がある」
DLC第四弾の〈スペシャルセーフハウス〉には、「エンチャントを別の装備に移し替える」装置が備えつけられている。
金額が金額なのでまだ先のことになるが、どうにか百億ウェンを集めてセーフハウスを買うことが出来れば、その装置でこの神のエンチャントを俺の呪い装備に移し替えて……。
(……まったく、夢が広がるぜ!)
確かに俺たちは、とんでもない装備を手に入れた。
でもまだこれは、ほんの始まりに過ぎない。
この「神のエンチャント装備」も、俺が昔からずっと手に入れたいと思いながら、「主人公」がいないから無理だと断念していたものの一つ。
そんなアイテムやイベントが、この世界にはあふれるほど転がっているんだ。
「これから、もっと忙しくなるぞ」
俺が言うと、レシリアは澄ました顔で、ラッドは望むところだと生意気に、ニュークは真面目な顔で、プラナは不敵な笑みを浮かべながら、マナは両手を握って気合十分に、それぞれがそれぞれの表情で、しかし躊躇うことなくうなずいた。
(……俺は、いい仲間を持ったな)
柄にもなくそんな感慨にふけりながら、俺たちは次なる目的に向かって進んでいく。
「じゃあ次は地底オオナマズに会いに行くか! あいつを放っとくと地震で街が滅ぶけど、一定時間でヒゲが再生するから時間ギリギリまでヒゲだけ切り続けると無限に素材が取れておいし――」
「いや、おっさんはやっぱちょっとは自重しろよな!!」
――俺たちの冒険は、まだ始まったばかりだ!
インタールード「神の力」完!
ということで、ちょっと(半年)だけ休憩が挟まりましたが、何とか物語最大の謎を書き切れて、やっっっっっっと肩の荷が下ろせた気分です!
今作は調子乗って伏線バラまきすぎたので、感想欄とかで議論が活発になったらマジで疑う余地なく色々確定しちゃうんですよね!
実際めちゃくちゃ早い人はネタバラシの百話も前の時点で理詰めでもうマナが主人公だと詰めてたみたいなんでビビりました
いやなんというか、犯人が読者みんなにバレてる推理小説を百話も書き続けるとか、そんなのもう苦行って次元超えてもはや何かの罰ゲームですからね!
そうなったら確実に書くのやめてたと思うので、改めて黙っててくれた考察勢の人たちには感謝です!
ひとまずストックなくなったので、次は少しだけですが書き溜めが出来てる「二重勇者はすごいです!」こと「にじゅゆ」を連載……するとでも思ったかバカめ!!
新作やります!
へへへ、結局どんな綺麗ごと言おうと、やっぱ新しい作品書かないと飽きちゃいますからね!!
本格的に連載始めるのは明日からですが、「あれ? 一話なかったら誘導出来ないんじゃ」ってことにギリギリで気付いたので突貫で今から一話だけ公開します!
ミスってなければ下(感想フォームの直下)にリンクが出来てるはずなのでどうぞ!
「ミリしら転生ゲーマー」って書いてあるところを押すと飛びます
一話で大体分かると思うので、いけそうだったらまたしばらくお付き合いください!
別にいいや、というなら「新作→にじゅゆ→これ→」の黄金の永久機関ループが回ってくる予定(机上の空論)なので、しばらくお待ちください!





