第百五十九話 絶望切り裂く光
テケトーに数えたのでミスもあると思いますが、「主人公」当て投票集計の結果、票が十票以上集まった上位四人はこんな感じになりました!
1.マナ 85票
2.プラナ 47票
3.レクス 39票
4.レシリア 30票
やはり圧倒的マナ!
有効票数256票なので、大体三分の一程度がマナに入れてる感じになりますね!
マナと答えた人はもちろんですが、投票開始の段階でプラナって答えてくれた人が多かったのも個人的には嬉しいです
まあぶっちゃけミスリード要員ではあるんですが、ちゃんと読んでないと出てこない答えなので
あとはまあ、「主人公じゃない!」の主人公ならレクスでしょ!って書いた方々には個人的にトンチ賞を差し上げます!
「――ラッドくん!」
マナの叫びに、目の前に浮かび上がった〈光輝の剣〉に魅入られるように立ちすくんでいたラッドが、弾かれるように動き出す。
「お、おおおおおおお!!」
剣を手に取って、前へ。
持ち前の思い切りのよさを発揮して、愚直に〈魔王〉を目指す。
その動きは、驚くほどに軽く、速い。
いや、それだけじゃない。
「くっ! 来るなぁ!」
〈光輝の剣〉は、光の女神が〈魔王〉を破るために作り上げた退魔の剣。
それが「そこに在る」というだけで、〈魔王〉の力を削ぎ落している。
それでも、かろうじて一体の影がラッドと〈魔王〉の間に割って入るが、
「な、にぃ!?」
一撃。
軽く剣を振っただけの一撃で、〈魔王〉の影は消し飛ばされる。
そして……。
「あ……」
ラッドは、〈光輝の剣〉を手にしたその場限りの〈勇者〉は辿り着く。
事件の元凶、〈参の魔王〉の本体に。
「くら、え!」
ラッドは、〈光輝の剣〉を振りかぶる。
かろうじて残った魔力をかき集め、もっとも慣れ親しみ、研鑽を重ねたその技を出すために!
「――〈V、スラッシュ〉!」
綺麗なVを描いたその一撃が、〈魔王〉の身体を切り裂いた。
※ ※ ※
〈光輝の剣〉の一撃を受けた〈魔王〉の身体はドロドロに溶けて地面に広がり、同時に周囲にいた影も同様に溶けて消えていく。
「終わった……のか?」
呆然と、ラッドがつぶやく。
それからゆっくりと〈光輝の剣〉を下ろし、仲間たちの元に戻ろうとして……。
《――ゆる、さんぞぉ》
しかし、それをおどろおどろしい声が遮った。
「なっ!?」
慌てて振り返る。
そこには、地面にドロドロになって溶けたまま、それでも消えずにうごめき続ける〈魔王〉がいた。
「しつ、こい!」
ラッドは追撃を加えようとするが、〈魔王〉の方が早かった。
人の姿を保てないまま、ドロドロとした液体が地面を滑るように部屋の奧へと進んでいく。
「くそっ! あれで死んでないなんて!」
「追いかけましょう!」
何とか歩けるまでに回復したニュークを連れ、マナとラッドは〈魔王〉を追ってさらに地下を進む。
その先に、あったのは……。
「こ、こは……」
数々の水路が交差して、全てが交わる終着点。
「〈水霊の住処〉……」
眼鏡を直しながら、ニュークがつぶやく。
数十の水が流れ込み、渦を巻くその中心には、この場所の主……水で作られた身体を持つ龍の姿があった。
「あれが、水の大精霊様……」
寝ている、のだろうか。
ラッドたちはその悠然とした佇まいにしばし目を奪われるが、
《はははは! 終わり! 終わりだ!》
静謐な空気に合わぬ、無粋な声がそれをぶち壊す。
いまだに不定形のままの〈魔王〉。
それが水龍の足元に、いつのまにか迫っている。
「大精霊様、あぶなっ――」
マナは必死に警告の言葉を放つ。
だが、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
《今こそ水の大精――ギャッ》
目を開いた大精霊、巨大な水龍が、その足でもって一息に〈魔王〉を踏み潰したのだ。
「……え?」
ぽかーんとマナたちが見守る中、水龍は悠然と足を上げる。
そこにはもう、〈魔王〉の残滓すら残ってなかった。
あまりにもあんまりな幕切れ。
「え、ええぇ……」
「さ、流石水龍さま、ですね」
そうマナたちが顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた時、
《どうして標的に、「水」の大精霊を選んだか、お前らに分かるかぁ?》
潰されたはずの〈魔王〉の声が、〈水霊の住処〉に響き渡る。
マナたちが声の主を捜すと、その答えは意外な場所から見つかった。
「――オォォォォォォォォォォォ!!」
腹の底にまで響くような、苦悶の声。
見ると、さっきまで悠然と構えていたはずの水龍が、苦しそうに身をよじっていた。
「あ、あれは……!」
見ると、水で出来た龍のその足、そこに、どす黒い異物が紛れ込んでいた。
その異物……水龍の身体に入り込んだ〈魔王〉が、楽しそうに叫ぶ。
《――それはこいつが一番、「混ざりやすかった」からだよぉ!!》
そこでようやく、マナたちは悟った。
「ま、さか……」
〈参の魔王スプレド〉、その正体は……。
「――スライムの、〈魔王〉!?」
そう考えれば、分裂をしたり、液体になっても死ななかったりしてもうなずける。
だが、答えに至るのがあまりにも遅すぎた。
《大精霊の意識を乗っ取ることは、もうあきらめた! だが、ただで死んでなるものか! どうせ死ぬならこの精霊と、この街も道連れだ!!》
その声が響くと共に、水龍の苦悶の声も大きくなる。
その巨体を揺らし、尾を振り回す。
水龍の身体がぶつかる度、水路は悲鳴を上げ、壁の表面が崩れ落ちる。
いや、それだけではない。
暴走した水龍はあちらこちらに水を噴出させ、それが壁を砕き、水路を逆流させる。
このままでは「街の崩壊」という最悪の結末が真実になるのも時間の問題だった。
「ま、ずいぞ!」
今すぐに水龍を止めなくてはならない。
それを真っ先に理解したのは、ラッドだった。
「ラッド!?」
ニュークの驚きの声を置き去りに、ラッドは走る。
「この、〈光輝の剣〉なら!」
水龍の身体を通して〈魔王〉を浄化出来ればよし。
そうでなくても、最悪水龍の足を切り落として、〈魔王〉を分離させてしまえばいい。
そんな風に思って繰り出した〈光輝の剣〉の一撃は、
「……え?」
ほんの薄皮一枚、水の表面にわずかな切れ目を入れるだけで止まった。
「ダ、ダメです! 大精霊様のレベルは、百五十……。強さが、違いすぎます!」
そう叫ぶマナの警告は、遅すぎた。
ほんの少し、わずかに身をよじった水龍の身体が当たっただけで、ラッドはあっさりと吹き飛ばされる。
吹き飛んだ身体はそのまますさまじい勢いで壁にたたきつけられ、受け身も取れずに地面に倒れる。
「ラッドくん!」
攻撃を受けた訳ではなく、ただ身じろぎに巻き込まれただけ。
だから、生きてはいるのだろう。
何とか起き上がろうともがいているが、もはや水龍と戦うどころではないことは明白だった。
「マナ! 今は大精霊様を何とかしないと!」
「くっ! なら、回復魔法で正気を……〈ホーリーライト〉!」
水龍に力で立ち向かってもどうにもならないことは明らか。
ならばと、体内の〈魔王〉を浄化しようとニュークと二人で思いつく限りの魔法を放つが、
《アハハハハハ! 無駄! 全ては無駄! 徒労だ! 我が身体はすでにこの大精霊の身体と混ざり合い、同化している! 意のままに操るまでは出来ぬとも、このまま理性を持たぬ魔物と変えてやろう! アハハ、アハハハハハハハハハ!!》
水龍の勢いは止まるどころか、さらに増すばかり。
〈魔王〉の哄笑に、膝が折れそうになる。
(わたしは〈聖女〉、「主人公」なのに……! わたしが、世界を、みんなを救わなきゃいけないのに……!)
かつて、〈壱の魔王〉と対峙した時の絶望が、無力感が、ふたたびマナを襲う。
だがその時に覚醒した力は、〈光輝の剣〉を生み出す能力は、この場において何の意味も持たない。
「――〈サクリファイス〉を、使います」
だからマナは、決断した。
本来のゲームでは、味方にしか効果のない魔法。
だけどこの世界では、もしかすると……。
「そんな!? もしそれで失敗したら……!」
ニュークが焦って止めようとするが、その懸念ももっともだ。
〈サクリファイス〉だけでただちに命を落とすことはないが、そのあと一度でも攻撃を受けてしまえば、高確率で死ぬことになるだろう。
それに、この力が水龍に効くかどうか、仮に水龍に効いたところで、〈魔王〉を排除出来るかどうかは未知数……いや、冷静に考えれば、これで〈魔王〉を何とか出来る可能性は低いとマナにも分かっていた。
どう考えても、あまりにも分の悪すぎる賭け。
(それでも……!)
もはやこれしか方法はない。
決意を込めて、マナが水龍の方へ歩を進めようとした、その時だった。
「…………え?」
まるで、意識の間隙を縫うように。
空から、小さな光が舞い落ちる。
(宝、石……?)
数多ある水流の一つから零れ落ちたその光り輝く何かは、コツンと水龍の傍に転がって……。
――次の瞬間、全てが変わった。
苦しげに呻いていた水龍の魔力が、唐突に膨れ上がる。
先ほどまでの痛みに苦しむ声とは違う、歓喜の雄叫びをあげ、そして、
《な、んだこれは!? 急に強さが、押し流され……消え――》
水の、爆発。
大精霊の身体から突然に無尽蔵とも思えるような量の水があふれ出したかと思うと、それが逆流し、水龍の身体を再構成していく。
ほんの数秒の奇跡。
そのあとに姿を現したのは、一回りも二回りも大きく、力強くなった水龍の姿だった。
「な、にが……」
驚き竦むマナたちを前に、水龍はその身をひるがえす。
ただ、最後に、
《――我は水神〈ウィーナ〉。我が名を取り戻してくれたこと、感謝する》
そんな言葉だけを残し、まるで地面にしみこむようにしてどこかへ消えてしまった。
あとに残ったのは、呆然とそこに立ち尽くす三人。
そして、
「あれ、は……?」
水龍のいた場所にポツンと落ちた、小さな「何か」だけ。
ふらふらと、導かれるようにしてマナは、その「何か」を拾った。
「ふ、ふふふっ! あはははははっ!」
「マ、マナ!?」
そしてマナは、空から落ちてきた光の正体を、今回の最大の功労者の存在を知る。
(そっか。……そう、だよね)
その小さな奇跡の光を、レクスが耳につけていた、「通信機からの声を受信出来る」イヤリングをマナはそっと胸にかき抱いて、思う。
その全ての思惑と結果を、正確に理解した訳じゃない。
だが、一つだけ確実に分かることはあった。
(この世界でのわたしは〈聖女〉で、ゲーム設定上の「主人公」だけど……。それでもやっぱりわたしは、この世界の「主人公」じゃない)
だって、ここには「主人公」よりも「主人公」らしい、本当の英雄が――
「……また、助けてもらっちゃいましたね、レクスさん」
――わたしにとっての「最高の英雄」が、いるのだから。
これぞ我らが主人公!
「主人公」の正体バレ、想像以上に盛り上がってくれたので嬉しいんですが、商業的に考えればこの盛り上がりこそ三巻発売日に当てるべきだったのでは、という疑惑が……
書籍三巻およびコミカライズ三巻は好評発売中です!(今さら)
あ、次回は第六部エピローグになります!





