第百五十七話 アインの深謀
突発Q&A!!
Q.どうしていつも守れない更新予告をするんですか?
A.予告した瞬間は、その時間に更新出来ると硬く信じているからです!
Q.そもそも余裕を持って三日後とかにしておけば時間オーバーしないんじゃ
A.「まだ余裕あるからいいか」とサボって、三日目に慌てて書き始めて四日目に更新とかになるので結局遅れると思います!
Q.だったらもう更新予告しなきゃいいのでは?
A.締切がないと「いつ更新してもいいんだぁ!」となって、そのままエタる可能性が高くなります!!
Q.あなたって本当に最低の屑ね!
A.……ぴえん
「――プラナ!」
ハアトを庇うように倒れ伏すプラナに、俺は慌てて駆け寄った。
「お、おにいちゃん! プラナが……」
取り乱すハアトをひとまず置いて、まずプラナの安否を確かめる。
(よかった、脈はあるな。呼吸も……)
意識を失ってはいるものの、プラナの胸はわずかに上下していて、口元に手をかざすとかすかに呼吸をしているのも分かった。
「何があったんだ?」
「そ、それは……」
俺が尋ねると、動揺するハアトの代わりに傍に控えていた神官服の女性が答えた。
「広場に入ったところで塔から魔法が飛んできて、彼女だけが気付いてハアト様を庇ったんです」
返ってきた答えは、概ね俺の想像通りだった。
それを聞いて、俺は内心で舌打ちをする。
(クソ、前に襲撃対策したのが裏目に出たか!)
前回広場に入った時、プラナには「誰かが襲撃するとしたらあの塔が適している。そこに先回りして待機していてくれ」と指示を出していた。
聡い彼女のことだ。
今回の襲撃の際にも、塔を警戒していたのだろう。
このイベントは、本来はハアトだけが魔法によって狙撃され、ハアトが意識を失う、という流れだ。
だが、変化を生むに足る理由や強い意思があればイベントの流れに干渉することは出来る、というのはここまでに何度も証明した通り。
それに、プラナは「主人公」。
この世界の住人よりもイベントに対する干渉力が強いということだって考えられる。
(こんなことならいっそ、俺がいる時にイベントを起こしていれば……)
胸の中に後悔が渦巻くが、俺は首を振る。
プラナが「主人公」だなんて、あの時の俺は想像もしていなかった。
(悲観的になるのはよくないな。そのおかげでハアトが助かったとも言える)
そう考えなければ、身を挺してハアトを庇ったプラナにも失礼だ。
「そっちも肩をやられてるみたいだが、大丈夫なのか?」
俺がハアトに水を向けると、彼女は申し訳なさそうにうなずいた。
「う、うん。プラナが助けてくれたから、わたしには肩をちょっとかすめただけ。傷にもなってないんだけど、魔法がうまく使えなくなっちゃって……」
しかもそれは、回復魔法をかけても治らないらしい。
(俺が食らった〈壱の魔王ブリング〉の呪いのナイフみたいな攻撃か)
基本的に、負傷の類はHPを回復させれば治る。
ただ、それではイベントが作りにくいからか、〈魔王〉のような一部の敵が使ってくる攻撃は、単純な回復が効果を発揮しないものも多い。
ゲームでも、魔法による狙撃を受けたハアトは昏倒していたし、そこは原作通りなのだろう。
襲撃者は、プラナが倒れ、ハアトがよろめいたのを見ると、
「……外したか。だが、目的は果たした」
と言い残して塔の中に消えてしまったらしい。
そして、プラナたちに回復魔法が効果がないと分かると、ラッドたちも襲撃者を追いかけて塔に入っていってしまった、と。
「……まずいな」
そうつぶやいて、俺は視線を少し後ろに送る。
「レシリア、俺は塔を調べる。その間……」
「……分かりました。無理は、しないでくださいね」
一瞬ついていくと言いそうになって、堪えたのだろう。
心配そうに俺を見たレシリアにうなずいてから、俺は塔へと走り出す。
(むしろ、無理が出来るような状況ならいいんだが……)
そう思いながら、その小さな塔に進むと、ほどなく目的のものが見つかった。
「あった! 転移魔法陣!」
ゲームの通りなら、これを踏むことで一気に〈水の都〉の地下深くに跳ぶことが出来るはずだが……。
「……ちっ! やっぱりか!」
俺が地面を踏んでも、魔法陣は全く反応しなかった。
見よう見まねで魔力を流してみようとするが、それでも変化はない。
「レクス様!」
声に振り返ると、わずかに息を切らした神官服の女性が塔を登ってきていた。
「レシリア様が、手助けに行くように、と」
「あいつ……」
あいかわらず過保護な奴だが、今回は助かった。
「これ、起動出来ると思うか?」
そう言って地面の魔法陣を指し示す。
神官服の女性はしばらく魔法陣を探っていたが、やがて首を横に振った。
「この魔法陣は、もう力を失っています。設置した本人でなければ……」
「……そうか。ありがとう」
後手後手に回っている状況に、唇を噛む。
(ああクソ! せっかく! せっかく「主人公」を見つけたって言うのに!!)
はっきり言って、状況は最悪だ。
〈常闇の教団〉に憑依した〈魔王〉は、この〈水の都〉の守護者である水の大精霊を狙っている。
ただし、代々の〈水の巫女〉が結界によって大精霊の気配を隠しているため、〈魔王〉はその居場所を掴んでいなかった。
しかし、だからこその「白の女王襲撃事件」だ。
ゲーム本編では、イベントでは確定でハアトが昏睡。
それによって大精霊を隠す結界が解けてしまい、〈魔王〉が憑依した教団員が大精霊のもとに向かう、というのがこのイベントの概要だ。
今回はプラナの活躍があってハアトは意識を失ってこそいないが、襲ってきた教団員が「目的は果たした」と言っていたのだから、大精霊の居場所は掴まれたと考えた方がいいだろう。
(つまり、状況としては「主人公」が倒れている以外は、ゲームのイベントのまま、と考えるべきか?)
ゲームではハアトが襲撃によって倒れたあと、教団員を追いかけるか追いかけないかの選択があった。
まず、ハアトを優先して襲撃してきた教団員を追いかけなかった場合は、教団員は大精霊のもとに到達。
そのまま放置すると数日後に〈水の大精霊〉が支配されてしまい、それまでに正規ルートを使って大精霊のところに辿り着けなければ大精霊は敵に回り、〈水の都〉が水没する。
一方、追いかけた場合はまだ活性化している塔の転移魔法陣を使って一気に〈水の都〉の深部へと赴き、大精霊の目前で〈魔王〉の欠片と戦闘をすることになる。
その戦闘では〈光輝の剣〉などの勇者の力を使えば苦戦することはない、が……。
(逆に、それ以外の攻撃はほとんど通らない。「主人公」不在、ってのはやばいぞ……!)
倒れたプラナに一瞬だけ視線を向けて、俺は首を振った。
ないものねだりをしても仕方がないし、一応、ラッドたちにも切り札はない訳じゃない。
ラッドはマニュアル発動で〈魔王〉に特効を持つと思われる〈オーラ斬り〉を使えるはずだし、本当に最後の手段として、マナは〈サクリファイス〉という一度切りの全体回復魔法が使えるようになっている。
(ただ……)
〈オーラ斬り〉は確かに〈魔王〉に特効を持つが、流石に本物の〈光輝の剣〉にはおそらく及ばない。
それに、マニュアル発動でもアーツのクールタイムは無視出来ないので、それだけで押し切るのは厳しい。
マナの〈サクリファイス〉は本人が戦闘不能になる代わりに仲間を全回復する博打技だ。
一度しか使えないし、何よりリスクが大きすぎる。
(それに問題なのは、敵はそれだけじゃ終わらないってことだ)
どうにか奇跡が起こって勝ったとしても、そこからもう一波乱ある。
倒された〈魔王〉の欠片が大精霊を暴走させ、〈水の大精霊〉が暴れ出すのだ。
暴れ出した大精霊はある程度の時間その場にいる者たちを襲った後、地上に出て暴走。
結果として、〈水の都〉を水没させることになる。
そのためには〈水の大精霊〉が外に出る前に静める必要があるが、相手のレベルは百五十。
流石に神として覚醒した状態よりも弱いが、まともに戦ってどうにか出来るような相手じゃない。
(それでも俺なら……。俺がいれば対処出来るのに……!)
グッと、拳を握りしめる。
もちろん、大精霊の暴走は相手にとっても苦肉の策。
闇の陣営に支配される訳ではないので放置した場合よりはマシとはいえ、街が水没するのに変わりはない。
(クソ! どう考えても最悪の事態じゃねえか!)
そう毒づきながら、俺はまず噴水に戻った。
街が水没する場合、〈翠の柱〉……この大きな噴水から水があふれ出し、さらに地面が割れて大精霊が飛び出してくるのだが、今は静かなものだ。
無理だとは思うが、何でも試してみるべきだろう。
俺は大噴水の前にしゃがみこんだ。
「おーい! 聞こえるかー!! おーい!!」
「レ、レクス様!? 何を……!?」
動揺する神官服の女性を無視して大声で呼びかけ続けても、特に何も起こらない。
ならばと物を投げ入れても反応はないし、試しに地面を剣で突き刺そうとしてみるが、ビクともしない。
ま、そりゃそうだよな。
水路が通じているってだけで、直下にいる訳じゃない。
(流石に、ここを掘って進む、なんてのは現実的じゃないか)
ゲームが現実になった時の定番、「ダンジョンの壁を壊して一気に最深部に!」みたいな手段は今回は使えないと考えた方がよさそうだ。
しかしそうなると、本格的にやばい。
俺は急いでハアトのところに駆け寄ると、前置きもなしに切り出す。
「ハアト! 詳しい説明は省くが、お前を襲ってきた犯人は大精霊のところに向かった可能性が高い! 俺をそこまで連れていくことは、可能か?」
「ム、ムリだよ! 大精霊さまのところに行く道にはどうしても〈水の証〉が必要なんだ! でも、そのためには……」
俺の言葉に、ハアトは泣きそうな顔で応じる。
「三つの試練をこなして、ギルドマスターに〈水の証〉をもらう必要がある、か?」
そう確認を取ると、ハアトは無言でうなずいた。
……俺はそっと、天を仰ぐ。
それは、八方塞がりの状況に悲観したから……ではない。
(なぁ。まさかお前は、ここまで全部読み切ってた、なんてことはないよな)
遥か彼方、王都にいるはずの王子様の思惑を、考えていたからだった。
「……ギルドに、行くぞ」
「え?」
間に合うかどうかは分からない。
ただ、もう賽は投げられた。
確実に大精霊にまで辿り着く手段がこれしかないのなら、もう動き出してしまったのなら、突き進むしかない。
「……冒険者ギルドに行くって言ったんだ。一緒に来てくれるな?」
それは、要請に見せかけた強制。
俺の言葉に、ハアトは何か思い至ったように、表情を変える。
「ま、さか……」
「やっぱり、持つべきものは権力だよなぁ」
全部がうまく転んでも、間に合うかどうかはあいつら次第。
だが、何もやらないよりはいい。
――本来ならありえない「選択肢」をくれた王子様に感謝をしながら、俺は不敵に笑う。
やっぱり俺は、「主人公」じゃない。
もし俺が「主人公」だったら、こんな権力に頼って物語を台無しにするような手段を取る訳がないんだから。
「ギルドマスターに伝えてくれ! 英雄様が『ちょっと借りたいものがある』らしい、ってな」
――さぁ、ゲーム知識と権力で、イベントをぶっ壊しに行こう!
レクス、始動!!
次回更新(の努力目標)は明日です!
本当に明日更新出来るように、ポイントとか感想とかいいねとかわるいねとかで応援して下さい!!





