第百五十四話 本当の主人公
とうとう設定確認用に「主人公じゃない!」の漫画版を三巻分、電子書籍で買っちゃいました!
いや、だって漫画原作者だと出版社からは二冊しかもらえなくてですね……
あ、皆さんも手軽に今までの設定とか見直したい時は、伏線がギュッと詰まった漫画版を買って読み返すのオススメですよ!
俺も買ったんだからさ(同調圧力)!!!!
「――兄さん! 落ち着いてください、兄さん!」
背後を走るレシリアの声に返事をするのももどかしく、俺は地を駆ける。
ハアトから明かされた、新たなる「主人公」候補のヒント。
それを聞いた俺はいてもたってもいられず、ハアトの護衛をラッドたちに任せ、いや、押しつけて、漁村に駆け出していた。
最後までまともにプレイしたことがあるのは《冒険者に憧れる都会の少年》だけだが、ほかの出自についても最低限の知識は持っている。
確か、《寒村の漁師の息子》のストーリーは一種の貴種流離譚。
噴水で落とした母の形見の指輪が大精霊のところに流れ着いたと知った彼は、大精霊に会うために様々な試練を乗り越え、その過程で指輪の秘密、そして自分の本当の生まれを知る……というストーリーラインなのだが、その最初のきっかけが奉漁祭。
普段は亡き母の言いつけを守って漁村に閉じこもって暮らしていた彼だが、オープニングイベントで巨大な魚を倒したことで奉漁祭の代表に選ばれて〈水の都〉に来ることになるからだ。
つまり、奉漁祭の代表者が若い男性で、「特徴的な指輪」をしていたのなら……。
(それは、《寒村の漁師の息子》……「主人公」である可能性が非常に高い!)
逸る心のままに足を動かせば、漁村へはすぐに着いた。
突然の余所者に村の人々からの奇異の視線が突き刺さるが、構うつもりもない。
おぼろげな記憶を頼りに村を走り抜け、村の外れへ。
そこには、ゲームで見かけた記憶のあるボロボロの小屋と、
「……見つけた」
きょとんとした顔で突然の乱入者に目を丸くする、どこか見覚えのあるような顔をした少年がいた。
※ ※ ※
「……兄さん」
気遣わしげなレシリアの言葉に、声を返す力はなかった。
(外れ、だったな)
漁村で見つけた少年とはちゃんと話が出来たし、彼は確かに「主人公」らしき面影を宿していた。
いや、実際に彼は《寒村の漁師の息子》ではあったんだろう。
ゲームの出自選択で見た通りの形見の指輪をつけていたし、顔自体は見覚えはなかったものの、パーツ単位で見てみると「主人公」の顔エディットで確かに見たような印象があった。
だが、それでも「彼」が「主人公」ではなかったことは明白だ。
《寒村の漁師の息子》の「主人公」は奉漁祭を終えたあと、噴水広場を通りかかった時に「女神の神託」を目撃して、大事な指輪を噴水に落としてしまう。
だが……。
(彼の指にはまだ、形見の指輪があった)
これはおそらく《捧げられた闇の御子》と同じ。
彼は「主人公」候補の一人だったが、「主人公」として選ばれなかった者の一人。
少なくとも、お願いして〈魔王〉の装備を身に着けてもらったら明らかに呪いによって弱体化したことも考えると、彼が〈光の勇者〉でないことは疑いようがない。
(……少し、期待しすぎてたかもな)
肩透かしはいつものこと。
別に何かが悪くなった訳ではないし、少なくとも《寒村の漁師の息子》が「主人公」でないと分かっただけでも前進だ。
そう思ったら、少しだけ気が楽になった気がした。
「帰りましょう、兄さん。きっとみんな、待っていますよ」
「……そう、だな」
だから、いつになく優しいレシリアの言葉にうなずいて、水の都に戻ろうと振り返り、
「――なぁ。その前に少しだけ、寄り道してもいいか?」
遠くの丘に見えた見覚えのある景色に、俺の心はふたたび吸い寄せられていた。
※ ※ ※
「これは……」
レシリアの驚きの声に後押しされるように、俺はその巨大な建造物に近付いた。
「――〈英霊碑〉、だよ」
この〈水の都〉に来たら、一度は確認しておきたかった場所の一つ。
かつて世界のために尽力した英雄の名前を記した石碑……ということになっている代物だ。
「え、ええと、モーションデザイナーに、チーフプログラマー、サウンドコンポーザー? これは、職業、なんでしょうか?」
困惑するレシリアに、俺は苦笑する。
「ま、そうだな。ただ、俺がいた世界の、だけどな」
レシリアが理解出来ないのも無理はない。
これは、ゲーム中に現実の要素を出すことをあまり好まないブレブレの製作スタッフが、唯一思いっきり「現実世界」のことを書き記したもの。
ブレブレの製作スタッフの名前が刻まれた記念碑であり、要するにスタッフロールの代わりだ。
(……ま、今となっては、あんまり意味がないんだけどな)
ここが本当にゲームの世界なのか疑っていた当時ならともかく、今これを見て何か得られるものがあるとは思えない。
ただ……。
(懐かしいなぁ)
思ったよりも俺は、日本のことを恋しく思っていたらしい。
現代日本で目にしたような名前が並んでいるのを眺めるだけで、なんとなく顔がにやけてしまう。
三メートルほどの平らな板のような形をしたその石碑には、「山田太郎」なんていうザ・日本人というような名前や、「ジーザス乳谷」なんていう明らかにペンネーム的なものまで、様々な名前が並んでいた。
それを見ると日本を懐かしく思うと同時に、自分が本当にゲームの世界に入り込んでしまったのだな、と否応なく理解させられる。
(……さて、と)
いつまでも感傷に浸っていても仕方ない。
今さらではあるが、とりあえずこれでこの世界がブレブレのゲームを基にした世界だということに確信が持てた。
これからは心機一転頑張って……。
「……っと、そうだ」
その場を離れかけたところで、思い出す。
碑文の最後にはスタッフの名前以外に、結びの言葉が書かれていたはずだ。
(……確か、「ブレイブ&ブレイド製作スタッフより愛を込めて」だったか)
それは、メタネタを嫌う製作陣が唯一ゲーム内にゲームタイトルを記した文として有名だった。
せっかくだから最後にそれだけは見て帰るか、と俺は視線を下げて……。
「……え?」
それを見た瞬間に、呼吸を忘れた。
「な? ……え?」
警戒していなかったところからの不意打ちに、理解が追いつかない。
書いてある言葉は分かるのに、それが脳に入っていかない。
(いや、え? おかしい、だろ?)
呼吸が、苦しい。
脳がぐるんぐるんと回って、自分が立っているのか座っているのか、それすらも分からなくなる。
「兄さん? ……兄さん!」
レシリアの言葉が、いやに遠く聞こえる。
その言葉がうまく消化出来ないくらいに、混乱していた。
(だけど……)
心のどこかで、納得している自分もいた。
(……そう、だ)
ずっと、不思議に思っていたことがあった。
ずっと、何かがズレているような収まりの悪さがあった。
――どうしてこの世界では、ブレブレで一番有名だった、スケルトンでの無限稼ぎが出来なかったのか。
――どうしてこの世界では、ブレブレで一番不人気だった、リリーの性別が変わってしまっていたのか。
「ゲーム」だった世界が「現実」になったから、非現実的な要素として世界から矯正された?
……そんな訳がない。
同じくらい非現実的な挙動は世界から許容されているし、リリーと同じ「性別を偽るキャラ」であるフィンはそのままこの世界に再現されている。
――どうして発売されなかったはずのDLC、《魔の島の少年》がこの世界には実装されているのか。
――どうしてDLCがあれば即座に手に入ったセーフハウスが、この世界では有料に変わっているのか。
喉にひっかかった小骨のような小さな疑問。
取るに足らない、けれど無視出来ないそんな諸々の矛盾の全てが、「これ」を真実だと仮定すれば全て説明がつけられてしまう。
俺はもう一度、今度は覚悟を持って視線を碑文の最後に移す。
そこには確かに、俺の記憶とは異なる文章が刻み込まれていた。
オリジナル版『ブレイブ&ブレイド』製作スタッフおよび
リメイク版製作を後押ししてくれた全ての方々へ無限大の感謝を
『ブレイブ&ブレイド GP』製作スタッフより愛を込めて
「……リメイク、されてたんだ」
この世界は、「俺がやり込んだゲーム」の世界じゃない。
おそらくブレブレに新しい要素を追加して、目立ったバグや問題点を修正したリメイク版。
製作会社が潰れたはずのゲームがどうやってリメイクされたのか、それ以外の変更点はどこなのか。
疑問は無数にある。
だけど、今ここで考えなければいけないのはそこじゃない。
――この世界への転生を「願った」のは誰だ?
(……思い出せ!)
もはや擦り切れて、色あせた記憶をたどる。
俺は車に轢かれそうな少女を助けようとして道路に飛び出して、最期の瞬間、「もう一度ブレブレをやっておけばよかった」と強く思った。
直後に「そのねがい、聞き届けたり」という言葉が聞こえて、俺はレクス・トーレンになっていた。
(……思い出せ!)
だからきっと、俺の願いが叶ってこの世界に転生したんだと、今までそう思い込んでいた。
だけど、ここが俺の知っている「ブレブレの世界」ではないのなら、この世界が俺の知らない「リメイクされたブレブレの世界」であるのならば……。
聞き届けられた「願い」は、果たして本当に「俺」の願いだったのか?
――浮かび上がるのは、荒唐無稽な一つの可能性。
俺はあの時、道路に飛び出して轢かれそうになった女子高生を助けた。
いや、助けたつもりになっていた。
でもそれが思い違いで、あの少女も大きな怪我を負っていたとしたら?
そしてそこで、彼女が生まれ変わりを「願った」としたら?
それなら、俺がここまで「主人公」を見つけられなかった理由に想像がつく。
それは、俺がずっと無視していた可能性。
俺が助けようとした少女こそが、この一連の転生劇の「主人公」で、この世界の「主人公」でもあるのなら……。
そして、この世界の基になったのが俺のやっていたゲームそのものではなく、そこに女の主人公を追加したゲームであるならば……。
――本当の「主人公」は、女性だ!
辿り着いた真実!
ということで、個人的にずっっっと温めていた暴露回でした!
わざとらしい前書きの時点で何か勘付いていた方もいるかもしれませんが、ここまでで情報は出切ったので、あらためて最初から読み返せば誰が「主人公」かはほぼ確実に分かるかと思います!
推理が捗る場面ではあると思いますが、「主人公」が誰かはすぐに本編中でも明らかになりますので、感想欄では具体的なことを書くのはもう少し待っていてください!
……ただ、逆に言うとこれがネタバラシ前に「主人公」を当てる最後のチャンスでもありますので、特別に活動報告に「主人公当て投票所」という記事を作ってみました!
主人公当て投票所URL
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/168215/blogkey/3002354/
満杯になっちゃったので2ページ目
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/168215/blogkey/3002495/
さらにおかわりで3ページ目
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/168215/blogkey/3002924/
自分の推理に自信がある人も別にないけど試しにって人も、よければそこのコメントに「誰が主人公か」の予想を書き込んでいってください!
正解してたらネタバレのあとにドヤ顔出来ますよ!!





