第百四十八話 最悪の一手
前話で割とでっかいミスをしてたので修正しました
というか、基本的に最新話投稿から一、二時間くらいは見直ししてるので、ちょこちょこ細部が変更されたり何行か増えたりしますがご了承ください
まるでバグまみれのまま発売だけしてあとからパッチでごまかすゲームみたいだぁ(直喩)
《――どんなエッチな願いでも一つだけ、叶えてあげましょう!!》
女神の放ったその言葉に、俺は確かに空気が凍りつく音を聞いた。
「兄さん……」
背後から、レシリアの声。
振り向かずとも分かる。
俺の背中には、妹からの絶対零度の視線が突き刺さっていた。
(いやいやなんでだよ! 俺が言った訳じゃないだろ!)
こんなポンコツのせいで、冤罪をかけられてはたまらない。
俺は慌てて軌道修正を図った。
わざとらしく咳払いをして、口を開く。
「な、なるほど。悪神を倒したら、何でも願いを叶えてくれると……」
だが、俺の確認の言葉に、女神はきょとんとした顔で首を傾げた。
《え? そのようなこと、言っていませんよ》
「えっ?」
目を見開く俺に対して、女神はまるでワガママを言う子供を見るような顔で語る。
《お願いはエッチなこと限定です。だって、わたしの力でどんな願いでも叶えたら、それこそ世界を揺るがすことにもなりかねませんし……》
なんだかちょっと筋が通っているから困る。
いつもポンコツなくせになんでそんなとこだけ無駄に常識的なんだよ、と内心憤りながらも、流れを変えるべく必死に頭を働かせる。
「ああ、いやでもほら! 神様って嘘ついちゃダメなんですよね! さっき、どんな願いでもって……」
活路を求めて口にした俺の言葉に、やはり女神は首を横に振った。
《いえ、「どんなエッチな願いでも」、なので、エッチさに上限がないってだけですよ。あ、だからあんまり時間かかるのはダメですし、おさわりもやめてくださいね。ほら、わたしも忙しいですし、みんなの神様なので、一人のものになるのはちょっと……》
「アイドル気取ってるんじゃねえよ! というかおさわり出来なかったらエッチさも激減だろうが!」
イラっときて思わず敬語を忘れて叫んでしまって、ハッと我に返る。
嫌な予感に駆られてちらりと横を見ると、
「レクス……」
「おっさん……」
近くにいたプラナとラッドが、呆れたような顔で俺を見ていた。
「い、いや、あのな。今のは論理の穴を突いただけの、単なるツッコミで……」
「な……。つっこみ……」
プラナがドン引いた顔で俺から距離を取る。
いややめろよ!
なんか俺がいかがわしいこと言った感じになってんじゃねえか!
(ク、クソ! はめられた!)
もはや、まともな報酬が期待出来るような空気じゃない。
俺は怒りを込めて女神をにらむと、流石に悪いと思ったのか、意外にも女神は素直に頭を下げた。
《ご、ごめんなさい。そこまで本気で食いつくなんて思っていなくて……》
「へ? いや、ちがっ……」
誤解が解けたのかと思ったら、全然そんなことはなかった。
何を思ったのか、女神はこんな時だけ慈愛の表情を浮かべて……。
《だ、大丈夫ですよ。時間とおさわりだけに気を付けてくれたなら、それ以外は甘んじて受け入れます! い、今すぐ目の前で裸になれとか、メ、メスダルニャシアのポーズをしろ! って言われても、ちゃんとやって見せますから!》
なんだったら鳴き声もつけますよ、と要らぬサービス精神を発揮する女神と、
「は、裸はともかく、ダルニャシアは、流石に……」
「し、師匠……。そこまで……」
驚いた顔であとずさるニュークに、なぜか顔を赤くしてもじもじしているフィン。
無言で俺に呆れた視線を送るラッドとプラナと、背後からいてつくはどうを迸らせているレシリア。
先ほどまで、世界の命運をかけた話をしていたとは思えないほどのカオス。
もはや、「メスダルニャシア?」ときょとん顔をしているマナだけが唯一の癒しだった。
「――兄さん?」
そして……。
まるでタイムリミットを告げるように、背後から聞こえたレシリアの声に、危機感が募る。
「ち、違うんだ! これは全部誤解で……」
何か弁解をしようとするが、場の空気が完全にアウェイだった。
ここから何を言っても、誤解を解ける気がしない。
(一体どうすれば……)
追い詰められた状況。
だが、こちらを慈愛顔で見つめる女神の姿が目に入った瞬間に、俺の頭脳がこの場を切り抜ける最適の解を見出した。
(――そう、か!)
脳裏を走る、雷のごとき閃き。
それが一つの形を作っていくのを感じながら、ゆっくりと深呼吸をする。
一番状況に呑まれていたのは、俺だ。
いくらアホな状況だからって、それに引っ張られて俺までアホな言動をする必要はない。
今の俺は、A級冒険者レクス・トーレンだ。
ついキャラを忘れて大声をあげてしまったが、この程度のことで取り乱して騒ぐなんて、〈孤高の冒険者〉にはふさわしくない。
「……いいから落ち着け。全部誤解だ」
いつものロールプレイを思い出す。
いつも通り、不敵に、冷静に、最善の手を打っていけばいい。
「願い事は女神が勝手に言ったことで、俺に下心はない。なぜなら――」
あえて自信たっぷりにその場の全員を見回し、そうして唯一残った活路……。
すなわち、「女神の胸元」を指し示し、俺は力強く言った。
「――俺は、巨乳派だ!!」
その後、怒り狂った女神と、なぜかガチギレしたレシリアとプラナによる弾劾裁判が始まり、結局報酬の話はどこかに行ってしまったのだが……まあ、それはまた別の話である。
的確に地雷踏み奴~
文字数思ったより短くて迷ったんですが、ここより面白い切りどころなかったので今回はここまで
次回更新もたぶん明日だから許してください何でも(略





