第百四十五話 ターニングポイント
うおおおおおおお!!
今日は書籍三巻とコミカライズの三巻の発売日だぜえええええええええ!!
……はい
本当は20日頃から更新するつもりだったんですが、ほんのちょっとだけ遅れちゃいましたね!
ま、まあまた長いこと間があきましたが、今回はストーリーの都合上、割と長く連続更新することになると思うので、よければ付き合いください
半年前、全ての冒険者の、いや、全ての人々の運命を変えた衝撃を与えた神からのお告げ。
――〈救世の女神〉による神託。
その時の神々しい女神の姿、声、言葉は、今でもはっきりと脳裏に焼き付いている。
聞こえますか?
聞こえますか、世界に満ちる我らが愛し子よ
わたしの声が、聞こえていますか?
千年の封印を破り、かつて世界を我が手にしようと跳梁した悪神〈ラースルフィ〉が復活を果たそうとしています
もし、ラースルフィが完全な力をもって復活すれば、あなたがたに抗う術はありません
ラースルフィは今度こそ己が目的を遂げ、この世界は悪神の支配するところとなるでしょう
どうか、お願いします
かの闇の神との決戦に勝利するため、あなたがたの力が必要です
闇深き十二の遺跡、その最深部に隠された邪なる気をたたえた像を壊してください
猶予は、二年
あなたがただけが、頼りです
どうか……
どうか、世界を……
この世のものとは思えない透き通った声と、人並外れた美貌。
何よりも真摯に人を、世界の未来を憂うその心。
あまりにも尊いものを見たという興奮、「かつて世界を救った女神」なんて存在を目の当たりにした感動は、今もこの胸の中にある。
あれから半年の時が流れても、その感動は少しも薄れたことはない。
だが、その女神は今……。
《――あなたたちを、待っていました。よく顔出せましたねぶん殴っていいですか?》
神託の時の神秘性はどこへやら、まさに人を超えた美貌に怒りの色を宿し、額に青筋を立ててこちらをにらんでいた。
※ ※ ※
(ど、どうしてこうなった……)
それが、憧れていたはずの女神に向き合った素直な感想だった。
遺跡のボスを倒した方法はまあ、ちょっとアレではあったが、今や全ての冒険者の目標とも言える〈闇深き十二の遺跡〉を踏破して、その最深部でかつて世界を救った女神と邂逅。
本当なら子供の頃に憧れた英雄譚のワンシーンに入り込んだような、胸が熱くなるシチュエーションのはずなのに……。
(……い、いや、まあ、分かるけどよ)
女神と出会うのは、これが二回目。
一回目は「今闇の像を破壊するとアイテム集めの邪魔になるから」という理由でボスだけを倒したのに闇の像はほっぽりだして、女神の目の前で帰還。
それから数ヶ月放置したワケだから、怒るのも無理はない……と思う。
「え、ええっと……その」
なんと声をかけていいのか分からず、全員で立ちすくんでいると、そこで女神様がくすりと笑った。
《……少し、脅かしすぎてしまいましたね》
「えっ?」
眼を見開くと、悪戯っぽい表情をした女神様が微笑んでいた。
《心配、なさらないでください。あなた方は、わたしを助けるためにわざわざ来てくださった人たちです。理不尽な理由で怒ったりはしませんよ》
緊迫していた場の空気が、一瞬で弛緩する。
そんな様子を見て、女神は慈愛そのものといった笑顔を見せて、
《ええ。だって仮にもわたしは女神ですよ。闇の像まであと数メートルで、あとはただ手を触れるだけで、もうほんとあと三十秒で闇を祓えるのに闇の像もわたしも無視して目の前で帰った挙句、そのあと数ヶ月も放置した程度で目くじらを立てたりは……まあ、ちょっとしかしません。ええ、だって女神ですから! ほんのすこーしだけ全力で殴ったら鬱憤が晴れる程度しか怒ったりはしませんから、ね》
すごい勢いでそうまくし立てた。
冷や汗が額ににじむ。
(いやこれ、絶対根に持ってるじゃん)
と思ったが、まさか追及するワケにもいかない。
「え、えっと……」
助けを求めるように後ろを振り返るが、仲間たちはみんなさっと視線を逸らし、残りのメンバーもただ面白そうにこっちを見ているだけだった。
こ、こいつら、と思うが、まさか女神を放置するワケにもいかない。
「え、ええーっと。それじゃ、〈救世の女神〉様……」
仕方なく一歩前に出てそう話しかけると、女神様は悲しそうに首を振った。
《すみません。その呼び方は、やめてください》
「え……?」
まさか、呼び名のことで待ったが入るとは思わなかった。
もしかして、〈救世の女神〉って言葉、地雷だったか?
……あれ、でもこの女神様の名前ってなんだっけ?
と混乱している間に、さらなる爆弾が投下される。
《だって、わたしはまだ、世界を救えてなどいません。いえ、それどころか、わたしは――》
彼女は愁いを帯びた眼差しでこちらを見据えると、
《――あなた方に自分の名を名乗ることも出来ない、「敗北者」なのですから》
そんなとんでもない台詞を口にしたのだった。
※ ※ ※
正気をもどすように首を振って、彼女の言葉の意味を考える。
(どういう、ことだ?)
少なくとも、神話、童話の世界では、光の女神たる彼女、〈救世の女神〉が〈悪神ラースルフィ〉を倒して封印した。
そういうことになっているはずだ。
何かの間違いと女神を見るが、女神の表情はいたって真剣だ。
言葉を取り消す気配もないし、とてもではないが冗談を言っているようには思えない。
「冗談、ですよね?」
それでもあきらめきれずにそう口にすると、彼女は首を横に振った。
《残念ながら、本当です。そもそも、創造神の従属神として生み出されたわたしたちには、嘘を口にするという行為が元より不可能です》
嫌な予感が、膨れ上がる。
それでも時は止まらない。
彼女は沈痛な面持ちのまま、ゆっくりと言葉を紡いだ。
《神々との死闘の末、〈悪神ラースルフィ〉は確かに破れました。ですが、かの邪神はとんでもない呪いを残していったのです》
「とんでもない、呪い?」
もはや、彼女の言葉をオウム返しにするだけの機械と化したこちらに向かって、その「真実」が叩きつけられる。
《――「名の剥奪」、です》
名の、剥奪?
名前を、奪われる、ってことか?
その程度か、と一瞬だけ思った。
だが、それはとんでもない思い違いだった。
《あなたは疑問に思ったことはありませんか? 各地に残る神話や童話、伝承の数々に至るまで、ラースルフィ以外の神の名が書かれていないことに》
「まさ、か……」
ぞくりと、背筋を悪寒が駆ける。
《そうです。世界中の人々から、いえ、それどころか神であるわたしの記憶からすらも、ラースルフィ以外の神の名前の記憶は失われてしまったのです》
「世界中の人、から……」
想像もつかないスケールに、目がくらむ。
《わたしたちのような神や精霊のような存在にとって、名前は何よりも重要なもの。それが奪われれば、神といえども、いえ、神であるからこそ、その力を十全に発揮することは出来ません。ですが逆に、かの闇の神よりも先に神々の名を知ることが出来れば、散ってしまった彼らにかつての神としての在り様を、正しき彼らの役目を、思い出させることが出来るかもしれません》
事態が、オレの思惑を超えて大きく動いていくのが分かる。
――きっとこれは、オレみたいな凡人の手に余る大きな、大きすぎる出来事だ。
だが、視線を逸らすことは出来なかった。
女神のまっすぐな視線が、オレを、オレたちを貫く。
《わたしが、あなた方の前に姿を現した理由もここにあります。我が愛し子、光の勇者たちよ。どうか、お願いします》
あまりよくないオレの頭はパンク寸前で、正直この女神様が何を言っているのか、全く飲み込み切れてなかった。
けれど……。
《――悪神によって奪われた神々の名前を、見つけ出してください!》
けれどこの瞬間、オレたちの冒険が新しいステージに進んだことだけは、オレにもはっきりと分かったのだった。
☆ ☆ ☆
――って感じで、きっとラッドたちは盛り上がってるんだろうなぁ。
女神の一言一言にいちいち表情を変えているラッドたちの内心を想像してニマニマとしていると、隣からわき腹がつつかれた。
「……兄さん。悪い顔してますよ」
そう呆れた風に言うのは、やはり俺と同じようにどこか冷めた目をした妹、レシリアだった。
「わ、分かってるって」
レシリアの言葉に応え、真面目な顔を装う俺だったが、こんなもんニヤニヤしない訳がない。
いや、まあ、だってさ。
みんなしてあんな深刻な顔で話してるところ悪いんだけど、俺……。
――神様の名前、もうぜーんぶ知ってるんだよな!!
ミッションコンプリート!!
ということで、いつも通りな感じに連載再開です!
例によって感想欄に書かれると致命傷になる要素が満載なので、展開予想などは感想欄では控えてもらえると助かります!
でもまあそれ以外の感想とか評価とかは軽率にポチポチやって下さると作者がニヤニヤします!
色々と書きたいことはあるんですが、流石に発売日なんで今日くらいは宣伝を!
今日発売の書籍三巻はリリーとロゼのエピソードで、キャラデザと挿絵がめちゃくちゃいい出来です!
あと「ガチの一般冒険者からするとレクスはどう見えるのか」というのをテーマで結構な長さの書き下ろしを書いていて、とあるベテラン冒険者チームを主役にして、ついでにメスガ……いえ、ちょっと年少の冒険者を添えて作り上げた話で作品ファンにはオススメ(自画自賛)です!
あとはもちろん、メイジさんがコミカライズしている漫画版の三巻も同日発売なのでぜひぜひどうぞ!
もっと詳しい情報については、あとできっと書く活動報告……か、グー〇ル先生に聞いてください!!
ここだけの話ですが、グーグ〇先生は何でも知ってます!!(説明放棄)





