第百四十三話 新たなる一歩
二ヶ月の沈黙を破り、「主人公じゃない!」がまたまた帰ってきた!
いえ、いつものパターンだとエイプリルフールで復活なんですけど、思いついたネタやるのにちょっと進行度が足りなかったんですよね!
ともあれしばらく更新しますので、またお付き合いください!
「――ほ、ほんとにいいんですね!? 〈フレア・カノン〉!」
ここ最近の王都周辺のダンジョン探索によって、以前よりもさらに強化されたニュークの魔法が、俺の身体を打つ。
〈魂の試練〉によって魔力特化型になる前の俺でも、食らったらただでは済まないその一撃。
だが、
「なっ!?」
ニュークの魔法は、俺の身体に触れる前に霧散した。
当然ながら、俺には傷一つない。
「まあ、こんなものだ」
冷静な口調でドヤ顔を抑え、俺は余裕の態度で「ふっ」と笑う。
「す、すげぇ! おっさん、ほんとに魔法が効かなくなったのか!?」
ラッドの驚きの視線が実に気持ちいい。
(いやぁ、苦労した甲斐があったなぁ!)
あの〈霧の悪魔〉とのすさまじい戦いから一晩。
俺は手に入れた〈魔避けの紋〉の効果を皆にお披露目し、盛大にイキッていた。
何しろ俺は、この〈魔避けの紋〉を手に入れるために大いなる苦労と少なくない犠牲を払ったのだ。
半日がかりの強行軍で村まで行き、わざと村人たちに騙されて地下へ落とされ、〈霧の悪魔〉に〈ムーンライトセイバー〉を炸裂させ、何も言わずに姿を消したことでレシリアには散々怒られ、それから何をしてきたか説明したらまた怒られ、〈魔避けの紋〉の効果を説明したらなぜかまた怒られ、トドメに「とにかく、しばらく単独行動は禁止ですからね」と釘を刺されたし、なんだったら今はトイレに行く時すら監視の目が光っている。
……なんか苦労の大半が〈魔避けの紋〉と無関係な気もするが、とにかくこのくらいの役得はあってしかるべきだろう。
「ま、魔法以外の遠距離攻撃は防げないが、それは〈バリアリング〉があるしな。防御面についてはこれで完成だ」
俺が胸を張って言うと、ラッドたちから「おおー」という歓声が上がる。
しかし、そこに水を差したのはやはりレシリアだった。
彼女は俺を冷たい目で見ると、マナに指示を出す。
「マナさん。兄さんにヒールライトを」
「あっ! ちょっと待っ……」
俺の制止の言葉は間に合わなかった。
マナは首を傾げながらも俺に向かってヒールライトの魔法を使い、俺の頭上に癒しの光が瞬いて……。
「へっ?」
俺の身体に触れると同時に、その光は一瞬で消し飛んだ。
誰もがポカンとする中で、口を開いたのはやはりレシリアだった。
「……見ての通りです。この紋章が消すのは、攻撃魔法だけじゃありません。回復魔法も、補助魔法も、全て打ち消してしまうんです」
不機嫌そうに腕を組んだレシリアが、あっさりと〈魔避けの紋〉の弱点を暴露してしまう。
「えぇ……。じゃあおっさん、どうやって回復するんだよ」
「べ、別に回復魔法が効かなくなるだけで、アイテムは関係ないから、ポーション使えば問題ないんだよ。それに……」
心なしか呆れたような目をしたラッドに、俺は慌てて言葉を接いだ。
「俺の最大HPは低いからな。バリア貫通されたらHPが減る暇もなくやられるから、回復魔法が効かなくても問題ないんだ!」
「おっさん……」
一片の反論の余地もない完璧な正論。
……のはずなのに、さっきまで感心していたはずのラッドたちも、なぜか俺を残念な奴でも見るような目で見ていた。
「ま、まあそれは置いといて、だ」
旗色が悪くなったのを感じ取った俺は咳払いをすると、本題を切り出すことにした。
そもそもこうしてラッドたちに集まってもらったのは、こいつのお披露目のためだけじゃない
「俺たちは、全員が王都に来た時とは比べ物にならないほど強くなったことと思う。だから、そろそろ始めよう」
ラッドたちの強化に、〈魂の試練〉によるステータス振り直し。
それからDLCの最強キャラであるフィンの加入と、〈魔避けの紋〉の入手。
いくつかの予想外な要素はあったものの、結果として想像以上の戦力が整った。
ゲーム的に言えば、これで育成パートは一段落。
ならそろそろ、「攻略」の続きに着手してもいい頃合だろう。
「アイン王子には話は通した。……俺たちの手で、時計の針を進めるぞ」
「それって……!」
俺の言葉に、何かを察したニュークが目を見開く。
それに対して俺はにやりと笑うと、はっきりと告げた。
「――ああ。〈闇深き十二の遺跡〉の攻略、再開だ!」
※ ※ ※
(本音を言うと、遺跡の攻略は「主人公」を見つけてからにしたかったんだが、な)
遺跡を解放すれば、敵が強くなると同時に、ストーリーの進行度、つまりは「時代区分」の進みも速くなる。
ワールドイベントを有利に進めるにはどうしても「主人公」がいないと困るのだが、仕方がない。
王都付近のダンジョンで、ラッドたちがレベル上げを出来るような場所は少なくなってきたから敵のレベルを上げたい、というのが一つ。
それからもう一つの理由は……。
(「遺跡の完全攻略」を目指すなら、今のペースでやってちゃ遅すぎるからな)
元々はそこまで意識していなかった遺跡十二個の全制覇だが、今はそれを視野に入れ始めている。
状況が変わった原因は、〈闇深き十二の遺跡〉が俺たち以外の手によって攻略されたこと。
完全に「主人公」だと思われた〈遺跡攻略者〉であるルイン……いや、フィンが「主人公」じゃないことはショックだったが、一つだけ、そのおかげで分かったこともある。
(もし、ブレブレに真エンドがあるとしたらその条件はおそらく「〈闇深き十二の遺跡〉の完全制覇」だ)
ブレブレをゲームとしてプレイしていた時、俺は何とか悪神を倒してゲームクリアをしたが、それで到達出来たエンディングは微妙だった。
ただ女神から一言二言お褒めの言葉をもらえるだけで、後日談の類は一切なし。
これはおそらく、単純に悪神を倒すだけでは「真のエンディング」に到達出来ないからだ。
そして、もし真のエンディングがこのゲームにあるとすれば、その達成方法は「遺跡を全くクリアせずに、最強状態の悪神を倒す」か、あるいは「全ての遺跡を攻略し、悪神と対峙する」の二択だとずっと考えてきた。
(だが、この前のフィンのイベントで、前者の可能性はほぼなくなった)
何せ、プレイヤーが遺跡を全く攻略しなくても、時間が経てばパーティに入っていないフィンが勝手に遺跡を攻略してしまう。
DLCを何よりも売りたい製作者サイドが、DLCを入れると真エンドが見れなくなるなんて仕様にするはずがないという点を考慮すると、「遺跡を全くクリアしない」というプレイは少なくとも真エンドの条件にはなりえない。
(まあ、「実は真エンドなんてなかった」とか、「遺跡の攻略は全く関係なかった」なんて可能性もあるし、そもそも現状で真エンドを目指すべきかも分からないが……)
この世界はゲームじゃない。
名誉欲よりも自分の命の方が百倍大事だし、別にノーマルエンドだろうが真エンドだろうが無事に生活出来るならどっちでもいいのだが、もしノーマルエンドだと出てこない裏ボスなんかがいて、それが原因で世界が滅んだりしたら目も当てられない。
その辺を確かめるためにもここらで一度遺跡に潜り、女神に会って話を聞くのはありだろう。
今の「ゲーム知識」を持った俺なら、きっとゲームの「主人公」では出来なかった、突っ込んだ会話をすることも可能なはずだ。
(ったく。こういうことに頭を悩ませるのは、本来は「主人公」の役目のはずなんだけどな)
それでも今は、自分にやれることをやるしかない。
俺は気持ちを落ち着かせると、遺跡の入口に立って、振り返った。
「……みんな、準備はいいか?」
無言でうなずくのは、俺がゲーム知識を総動員して鍛えた、いや、一緒に強くなってきた最強のメンバー。
流石にアイン王子たちは連れてこれなかったが、それでもこいつらが王都における最強戦力だと、俺は胸を張って言える。
ここからが「攻略」の第二ステージ。
ここまで俺が育て上げてきた力が、果たしてどこまでこの世界に通用するか。
「――行くぞ!」
そんな期待と不安を胸に、俺たちはついに二つ目となる闇の遺跡〈屍兵の戦場〉へと乗り込んだのだった。
進軍開始!
前書きでも触れましたが、今年の四月一日は「主人公じゃない!」でエイプリルフールの特別編を投稿予定です
いつもは四月一日に不意打ちで更新してたんですが、今回は書籍作業で大規模な準備をする時間もなく、思いついたネタをやるにはちょっと更新が足りなかったので、今年は(出来れば)明日(くらい)にもう一話仕上げて更新、その内容を踏まえてエイプリルフール特別編を書き上げて四月一日に更新する形を考えてます!
ま、まあまだ書きあがってないので遅れる可能性もゼロではないですが、最終的に四月一日のうちにエイプリルフールネタを投下出来れば細かいことはええやろ、の精神でよろしくお願いします!!
では、次回第百四十四話「女神との再会」を、お楽しみに!!





