第百三十九話 魔避け
やっと体調が戻ってきたので更新再開です!
「ど、どういうことだ!? 今のは……」
俺が瞬く間にスケルトンを葬ったのを見て、ライサは目を丸くした。
ただまあ、これは本当に大したことをした訳じゃない。
「今のは〈浄化〉。〈ビショップ〉のスキルだ」
「ビ、ビショップ!? い、いやそれ以前に魔力は封じられて……」
そう言ってライサは自分の首元に手をやるが、彼女は少し誤解している。
「〈魔避けの紋〉が封じるのは、技能の一部だけだ」
ゲーム内ではステータス画面から〈魔避けの紋〉の効果を確認出来るが、そこには「魔法の影響を受けなくなり、アーツや魔法が発動できなくなる」と説明がされている。
しかしそれは裏を返せば、「アーツでも魔法でもないスキル」は普通に使えてしまうということ。
(ま、アーツは設定的にも「魔力によって発動する必殺技」みたいな説明があるが、〈投擲〉とか〈高速交換〉みたいな技能系のスキルは魔力関係ないしな)
ゲームが現実になってその部分が変更されている可能性もないではなかったが、〈スカウト〉のスキルである〈看破〉をライサにかけることが出来た時点で、こちらでも使用可能なのはほぼほぼ保証されていたと言っていいだろう。
「し、しかし、今のは魔法、じゃないのか?」
ライサはまだ納得いかない様子だが、まあ気持ちは分かる。
ゲームからステータス画面が見える訳じゃないライサには、アーツも魔法もスキルも体感でしか違いが分からないだろう。
実際、アーツや魔法に分類されないものなら、「え? それ明らかに魔力使ってますよね?」みたいなものも普通に使用可能なガバガバ判定なので、そこは俺でも理不尽だと思う。
(ブレブレは、こういう部分がザルなんだよなぁ)
ただ、これは単に作りが粗いというだけでなく、製作者の意向であえて潰していないようにも感じる。
ブレブレは、世間に数多あるクソゲの類と比べて明確なバグはほとんどないというくらいに少ないが、仕様とバグの間のグレー部分はそれに比べると不自然なほどに多い。
非常に難易度が高いゲームなので、その代わりにいわゆる「プレイヤーチート」「グリッチ」なんて言われるものも含めた「ちょっとズルい小技」はあえて許容して、プレイヤーの創意工夫の余地を残しているのかもしれない。
ま、とにかく、スケルトンに浄化が効くのが分かればひとまずは十分だ。
「それじゃあ、行こう」
俺が歩き出すと、ライサが慌てて引き留めてくる。
「ま、待ってくれ! 確かにそのスキルの力は強力なようだ。だが、魔法でなければやはりあの悪魔には……」
「勘違いするな。俺が行くと言っているのは、悪魔のところじゃない」
「え……」
驚いた顔をしたライサに向かって、俺はニヤリと笑ってみせる。
「――古代の博物館。そこにあの悪魔を倒せる『武器』がある」
※ ※ ※
「――〈浄化〉! 〈浄化〉! 〈浄化〉!」
まるで無人の野を行くがごとく、俺たちはダンジョンを進んでいく。
霧のせいで生物が生存出来ないこの環境では、襲ってくる魔物はほぼ全てが命を持たない骨の怪物。
要するに、スケルトンだ。
それならば、俺の〈浄化〉の敵じゃない。
まさに鎧袖一触……いや、触れることすら出来ずに消滅していくスケルトンたちに、ベテラン冒険者であるライサも言葉を失っていた。
「私が苦戦したスケルトンたちが、こうも一方的に……」
呆けたような顔で後ろを歩くライサは首を振ると、
「魔法使いに転向した、と聞いた時は驚いてしまったが、流石は〈極みの剣〉。こんなに凄まじいスキルまで持っているとは」
これなら魔法使いになるのも分かる、なんて褒めてくれるが、それは買いかぶりだ。
俺は苦笑して、首を振った。
「買いかぶりだ。残念ながら、このスキルはそんないいもんじゃない」
スケルトン相手に無双している〈浄化〉だが、それは状況の特殊性ゆえ。
ぶっちゃけると、このスキルは通常プレイだとほぼ活躍する機会がないのだ。
〈浄化〉は弱いアンデッドを一発で消滅させる技能。
要するに、前にマナが使った〈ターンアンデッド〉の魔法のスキル版だ。
ただし効果は抜群に弱く、同格以下にしか効果のない〈ターンアンデッド〉に対して、この〈浄化〉のスキルは圧倒的格下にしか効果がない。
これが〈浄化〉が日の目を見ない一番の理由だが、それは俺には当てはまらない。
(――だって俺は、レベル七十五だからな!!)
レベル七十五と言えば明らかにゲーム終盤級、あるいはもうゲームクリアしていてもおかしくないほどの数値。
中身が伴っているかは置いておいて、俺は「レベル」という一点だけを考えると、もはや英雄級のチートキャラと言えるのだ。
現時点でこの世界に存在する魔物のほとんどは、俺にとってはもはや圧倒的格下。
〈浄化〉の最大のデメリットは、俺にとってもはやないも同然と言える。
(それに……)
レベルと言えば、〈浄化〉が役に立たないもう一つの理由に「倒したモンスターの経験値が得られない」というものがある。
魔物の数が有限で、経験値が貴重なブレブレでは嫌われる要素なのだが、これも今の俺には関係ない。
俺の「純魔スタイル」は、魔法以外の能力値をゼロにすることで、必要経験値を抑えるというビルド方針。
なので、魔法以外の能力値が少しでも上がってしまうと「純魔スタイル」の恩恵は大幅に減ってしまう。
つまり、魔法以外の成長を抑える呪い装備が使えない現状、〈浄化〉の「経験値が得られない」という特徴は、今の俺にとってはむしろ願ってもない特性ということ。
(本当は〈レベルストッパー〉があれば万全だったんだが、今まで使ってたのは〈魂の試練〉で置いてきちまったからなぁ)
とにかく、一刻も早く〈博物館〉に辿り着かないと。
「こっちだ」
逸る気持ちに背中を押され、急かすようにライサを先導する。
「……さっきから迷わずに進んでいるようだが、道を知っているのか?」
まさか、俺がゲームでダンジョンの予習をしているとは思っていないのだろう。
ライサは迷いなく指示に従いながらも、止まることなく前へ前へと進んでいく俺を不思議そうに見ていた。
「知っているのは大まかな方向だけだ。だが、『道しるべ』があるからな」
「道しるべ? そんなものが……」
言われてライサは目を凝らすが、そうやって見つかるようなものでもない。
俺は笑いながら言った。
「ほら、あるだろ。そこに」
俺が指さしたのは、三つの大きな動くオブジェ。
「え? スケル、トン?」
カタカタと震えながら俺たちに駆け寄ってくる、三体の魔物だった。
向こうからやってきてくれた「チェックポイント」を〈浄化〉で消滅させながら、種明かしをする。
「〈霧の悪魔〉は霧を使って俺たちの位置を探ったり、魔物をある程度操ったり出来るらしいんだ。……なぁ。最初に奴のところに行った時より、今の方が多くの魔物に会っているとは思わないか?」
俺がそこまで言うと、流石はA級冒険者。
ライサはハッとして俺を見る。
「まさか、私が遭遇した魔物が少なかったのは……」
「ああ。自分のところに来るように、誘導されていたんだよ」
ゲーム時代からの仕様だが、本当にいやらしいと思う。
紋によって魔法が、霧によってアイテムまで使えない状況では、補給もままならない。
そうすると、出来るだけ戦闘は最小限にして先に進みたくなるのが人情だ。
だから〈霧の悪魔〉は魔物の配置に偏りを作り、魔物のいない方を選んだ犠牲者たちが、自ら悪魔の下に辿り着くように誘導した。
だが、逆を言えば……。
「――魔物が多いこの道の先には、悪魔が絶対に隠しておきたい場所がある、ってことだ」
俺がそう言い切ると、ライサは参ったとばかりに首を振った。
「あなたは本当にすごいな。スケルトンを退ける強さだけじゃない。この状況で、そこまで考えられるとは」
「ただ、知る機会があったってだけだ」
ズルをしている自覚がある以上、そう素直に褒められると落ち着かない。
俺は早口で続けた。
「言っただろ。買いかぶりだって。それに少なくとも強さに関して言えば、今の俺はめちゃくちゃ弱いぞ」
「そう、なのか?」
「今の俺は魔力特化だからな。そこらの一般人と殴り合っても負ける自信がある」
ちょっと自虐が過ぎただろうか。
俺を見るライサの顔が引きつっていることに気付いて、慌ててフォローの言葉を入れる。
「まあ、安心してくれ。骨系の魔物しか出てこないこのダンジョンで、〈浄化〉の力は絶対だ。この調子で行けば、もうすぐ……」
だがそこで俺は、口をつぐんだ。
ライサの目が俺を見ているようで見ていないことに、気付いてしまったから。
「な、なぁ、レクス。ところで、なんだが……」
震える声で口を開く彼女が見ていたのは、俺の背後。
そう、まるで何か大きなものが軋んだような異音が鳴り響く、ダンジョンの通路で……。
「――〈浄化〉というのは、金属の塊にも効いたりするのか?」
冷や汗を流しながら振り返った俺の目に、出現確率0.1%と言われる金属の巨人がその巨大な腕を振り上げるのが見えたのだった。
無機物!!
連射力で差を付けろ!
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最強の(執筆)マシンを作るのは君だ!!
超☆エキサイティン!
ということで、連射力で差が付けば明日!
付かなかったらまあたぶん概ね明日頃に更新です!





