第百三十八話 理由
更新遅れちゃいましたが、今回はゲームではなくて体調不良が原因なので許してやってください
まあ具合悪くてもゲームはしてたんですけどね!
(え……誰?)
ノーソンの村人たちに投げ落とされた井戸の下、当然誰もいないと思っていたその場所には、先客がいた。
金髪の凛とした女性で、装備は取り上げられたのか防具の類は身に着けていないが、それでもその立ち姿からは戦いに身を置いている人間の雰囲気が見て取れた。
(顔は見たことないし、イベントキャラではない、よな?)
ノーソンの村で〈試しの水晶〉を触って光らせた場合、村人に騙されて井戸に放り込まれるのは分かっていた。
というより、俺はそれを狙ってここに来たのだが……。
(しまったな。すでに巻き込まれた人がいる可能性は考えてなかった)
本来このイベントは、「主人公」パーティがノーソンを訪れた際、パーティに「魔力値が四百以上のキャラ」がいると発生するものだ。
ただし、「主人公じゃないとイベントが発生しない」という部分は、この世界においては緩和されている。
少なくとも調べた限り、〈光の勇者〉に関連しないサブイベントは「主人公」でなくてもほかの条件を満たせば発生するため、このイベントについてもそうだろうとは思っていた。
ただ、イベント発生に必要な魔力値が多いため、この時期に俺以外の誰かが発生させる可能性は考慮していなかったのだ。
(思いつきで来ちまったが、そうなると結果オーライか)
このイベントは、対策なしの初見じゃほぼクリア不可能というほどに鬼畜難易度だ。
もし俺が来るのがあと少し遅ければ、彼女は死んでいた可能性が高かっただろう。
「俺はレクス・トーレンだ。短い付き合いになると思うが、よろしく」
いつまでも呆けていても始まらない。
俺が名乗りながら右手を差し出すと、同じように目を見開いていた彼女もまた、慌てて自己紹介をしてきた。
「あ、ああ。すまない。私はライサ・ユーゲン。あなたと同じA級冒険者だ」
ライサと名乗った彼女は躊躇いなく俺の手を取って、握手を交わす。
その時に、俺はこっそりと〈看破〉で彼女のステータスを確認した。
―――――――
ライサ
LV 48
HP 588
MP 470
筋力 254(B-)
生命 231(B-)
魔力 407(A-)
精神 207(C+)
敏捷 230(B-)
集中 324(B)
能力合計 1653
ランク合計 63
―――――――
イベント条件である魔力四百を達成しているのに加えて、この時期の冒険者としては破格のレベル四十八。
魔力と集中が高い魔法使い型……のはずなのに、さりげなくレベル五十時点のレクスを全ての能力で上回っているのが哀愁を誘う。
(クラスと適性が一致してるタイプだな。こりゃ、強いぞ)
公式チートのアインやフィン、俺の指導の下で調整して育成したラッドたちほどではないが、かなりの能力だ。
少なくともフリーレアの街のトップ冒険者だったヴェルテランのレベルは三十五だと考えると、超一流と言っていい。
しかし、そこまでの実力があるなら、今まで評判も聞いたことがなかったのはどうしてなのか。
そんな疑念が首をもたげるが、
「ああ。私のことは知らなくても無理はない。実は、最近まで膝に矢を受けて療養していてね」
一瞬で、その疑問は氷解した。
(――そうか! 〈ハウンズ〉と同じ「後半組」!)
アリの巣で〈魔王〉にやられてしまった冒険者チーム〈ハウンズ〉のように、ブレブレにはゲーム後半にのみ出現する「後半組」と呼ばれる初期レベルの高いキャラたちがいる。
その中でも、ゲーム二年目以降に投入されるレベルの高いランダムキャラは「追加冒険者」と呼ばれていたが、おそらく、いや、間違いなく、ライサもこの「追加冒険者」の一人だ。
彼らはゲーム後半にならないと表舞台に出てこないが、流石にそこは言い訳を用意しておかないと不自然だと思ったのか、一応理由付けがされている。
それは「追加冒険者」を仲間にして親しくなると本人が漏らしてくれるのだが、その理由は全て「膝に矢を受けて療養していた」というもの。
男だろうが女だろうが老人だろうが子供だろうが全員が全く同じ台詞を口にするシュールさと、「そもそもなんで膝?」「魔法で傷が治るのに療養?」みたいなツッコミどころから掲示板などではよくネタにされていた。
(まさか、生で「膝に矢を受けて」を聞けるとは……)
ブレブレファンとしては感慨深いものがあるが、そんなことで感動している場合じゃない。
ゲーム通りならまだ冒険者としての活動をしないはずの彼女が動き出したのは、何かゲームにはないイレギュラーが……。
「本当はもう少しのんびりするはずだったのだけど、『素質鑑定』や『マニュアルアーツ』なんてものが見つかって、冒険者界隈が活発になってきただろう? 私もじっとしていられなくなってね」
……うん。
完全に俺のせいだなこれは。
そういえば、俺の素性はまだ話していないのに、「あなたと同じA級冒険者」と名乗っていたということは、そういうことなんだろう。
「この村に来たのも、ちょっとしたリハビリのつもりだったんだが……」
そうして、彼女はこれまでの経緯を話してくれた。
俺と同じように、村人に〈魔避けの紋〉を刻まれ、井戸に落とされたこと。
そこから三日間を地下で過ごしたこと。
自分が〈マジックフェンサー〉という魔法と剣の両方を操るクラスについていること。
ボロボロの剣を拾って、何とか〈霧の悪魔〉のところまで辿り着いたこと。
それから、「〈霧の悪魔〉に俺を連れてくるように言われた」ということまで、素直に話してしまった。
「いいのか?」
「心が揺れなかったと言えば、嘘になる。だが、あなたと会って決心がついたよ。たとえ死んでも、あんな怪物の思い通りになってたまるものか!」
強い意思を込め、胸を張ってそう言い放つ。
その顔は、この窮地にあって清々しさすら感じるものだった。
「それに、〈極みの剣〉と言われるほどの剣士がいるなら、勝機はある。倒すことは出来なくても、あの悪魔の隙をついて……」
「ああ。悪い」
興奮するライサを遮るように、俺は静かに首を振った。
「――今の俺は、『剣士』じゃない。『純魔』だ」
※ ※ ※
「まさか、〈極みの剣〉が魔法使いになっていたなんて……」
俺の話を聞いて、ライサが大げさにうなだれる。
魔法使いというのも正確には違うのだが、今は細かいことはいいだろう。
俺は訂正しなかった。
彼女はひとしきり懊悩すると、また違う決意を持って、俺を見つめた。
「予定は変わってしまったが、とにかくあなたはこんなところで失われていい人間じゃない。私が囮になるから、どうにか奴の目をかいくぐって出口への仕掛けを……なんだ!?」
突然聞こえた物音に俺たちが振り返ると、そこには招かれざる乱入者が迫っていた。
現れたのは、ボロボロの武器を携えた、三体の動く屍。
「スケルトン!? そんな、この数は……!」
ライサが驚きの声をあげる。
この辺りは敵の行動範囲外のはずだが、おそらくはライサが帰り道に引っかけたのが追ってきたのだろう。
「レクス下がれ! 私が……」
弱体化した今のライサでは、一体を相手取るのがやっとだったはず。
それでも前に出て俺をかばおうとする彼女を、押し留める。
「レクス……?」
驚いた顔でこちらを見てくる彼女を、そっと後ろに押しやった。
「ここは、任せろ」
不安がない、と言えば嘘になる。
たとえ相手がスケルトンでも、生命のステータスがゼロの俺が、防具もない状態で敵の攻撃を受ければ間違いなく死ぬ。
武器もなく、試練によって高まった自慢の魔力は、今は何の役にも立たない。
それでも!
それは今、ここでライサの後ろに縮こまっている理由には、ならない!
「ダメだレクス! いくら剣の達人でも、魔法使いにあいつは倒せな――」
ライサが悲鳴のような声をあげるが、もう遅い。
その姿からは想像もつかない素早さで迫ってくるスケルトンたち。
今にも斬りかからんとする奴らに向かって俺は右手を突き出し、
「――〈浄化〉」
余裕を持って「スキル」を発動させると、スケルトンたちを消滅させた。
「……へ?」
そうして。
突然の決着に呆然とするライサに、俺は「だから言っただろ」とばかりのドヤ顔を披露したのだった。
これがレクスクオリティ!
そういえばDLsi〇eで絶賛発売中で今も精力的に更新がされているあと〇そふとさんの新作『ダンジョ〇イクサ』のエンド埋め終わりましたが、結構オススメです
ダンジョン経営とRPGをうまいこと両立させていてカジュアルに楽しめるのはいいですし、周回でキャラクターもプレイヤーも露骨に強くなれるタイプなのが個人的にはツボです
偶然にもブレブレと割とコンセプトの近いリソース管理ゲー的な面もありますが、初見でもとりあえず「悪名レベルに応じて襲撃してくる敵のレベルが上がる(フィールド敵は別)」のだけ意識しておけば、普通難易度ならまあまず困らないかなと思います
ただまあ自由度ありそうで思ったよりなかったり、ストーリー要素が薄味だったり、めちゃくちゃ思わせぶりにしてた魔王の正体結局なんだったんだってばよ!とか欠点もあるので、まだ未プレイなら『マッドプ〇ンセス-華麗なる闘士たち-』の方をやった方がいいかなと思いますけどね!





