第百三十三話 貴族の少年
連続更新三日目にして三時間の遅刻!!
……うん、いつも通りだな!
俺が王都に来る前にリリーに頼み、ずっと探してもらっていた人物が三人いる。
〈光の王子アイン〉の追放された弟であり、スラムにいるとされている王国の第二王子。
のちの〈闇の王子〉であり、どこに潜んでいるとも分からない旧アース王家の第二王子。
そして……。
出自に《捧げられた闇の御子》を選んだ場合の「主人公」である、「リンダ」という妹を持つ貴族の少年だ。
三人目に捜すべき人物としてこの貴族の少年を選んだのは根拠があり、《捧げられた闇の御子》を出自に選んだ場合のみ、物語のスタートが遅くなる。
具体的には女神の〈はじまりの言葉〉から一年後、彼が常闇の教団に儀式の生贄として連れ去られてからゲームが始まるため、それまで「主人公」は全く物語に関わらないことになる。
そう考えると〈はじまりの言葉〉から長い期間が経っているにもかかわらず、この世界の「主人公」の動きが全く見えない問題にも理屈がついて、数々の矛盾も解決される……はずだった。
しかし、残念ながら捜索は難航。
正確な居場所も分からない二人の王子はともかく、もし存在するならあっさり見つかるだろうと期待していた貴族の少年すら見つからなかった。
その後、もっと有力な「主人公」候補である「ルイン」が見つかったこともあり、「見つからないってことは、やはり《捧げられた闇の御子》は主人公ではなかったんだろう」と人探しのことはしばらく忘れていた。
しかし、王都で活動するようになって、完全に捜索を諦めた今になって、突然リリーから、
「『リンダ』と呼ばれる貴族の少女と、その兄を見つけた」
という報告を受けたのだ。
しかし、ブレブレ世界の貴族なんて数はそう多くない。
妹の名前まで分かっていたのに、今まで見つからなかったのはなぜなのか。
リリーによると、貴族の少女に「リンダ」という名前の少女はいなかった。
けれど、「リンダ」という愛称を持つ「メリンダ」という少女が、王都にいると言うのだ。
(確かに、その可能性は考えてなかったな)
俺が持っていた知識は、《捧げられた闇の御子》を出自に選んだ時の、「主人公」の独白。
それと、「主人公」が身に着けたペンダントに描かれた「リンダ」の肖像画だけだ。
特に根拠もなく「リンダ」というのが妹の本名だとばかり思っていたが、家庭内での愛称だったとしても何もおかしくはない。
(今度こそ「当たり」だったらいいんだが……)
そうすればこれまでの疑問も、フィンが「主人公」だと思って空回りした時間も、全てが解決する。
フィンが「主人公」じゃないと知って崩れた計画だって、立て直すことが出来る。
緊張のあまり、思わず握り込んだ拳に力を入れたその時、
「か、勝手に入っちゃって大丈夫、ですよね?」
別のことで緊張しているフィンの言葉に、張り詰めていた空気が弛緩する。
知らず肩に入っていた力を抜き、俺は苦笑した。
「お前、それは王子に闇討ち仕掛けた奴の台詞じゃないだろ」
フィンは不安そうにしているが、色々とゆるゆるなブレブレの世界において、貴族の権力もそう大きくはない。
それに、「いざとなればアインに泣きつけば何とかなるだろう」という小ズルい計算もあった。
「う……。あ、あの時は必死で……」
言葉に詰まるフィンを笑っては見たものの、言いたいことは分かる。
(まあ、場違いではあるよな)
ゲームの時は全く気にしていなかったが、ここはなんというか、空気が違う。
貴族街は、文字通り貴族が住んでいる王都の区画だ。
王都はブレブレに登場する街の中でもかなり大きい部類の街だが、だからこそ、区域によってその表情を大きく変える。
ギルドや商店が立ち並ぶ表通りと比べると、貴族街は大きな建物が間を大きく開けて建っているだけで、ほかの区域よりもずいぶんと悠々とした印象を受ける。
実際ゲームでもここを訪れるのは特別なイベントの時だけで、普段はほとんど寄りつくこともなかった。
ほとんど人の行き来がない中、あからさまに冒険者然とした俺たちが道を歩くのは、やはり浮いている感じがするのは否めない。
「まあ、心配するな。情報が正しければ……」
「どうやら来たようです」
口を開いた俺に合わせるように、遠くから蹄鉄が石畳を叩く、独特な音が近付いてくる。
「馬車?」
フィンのつぶやき通り、俺たちの前に現れたのは、ゲーム時代にも何度か目にする機会のあった、貴族用の馬車。
その馬車が俺たちの前、貴族街の中ほどにある邸宅の一つに止まると、そこから一人の少年が下りてくる。
(あれ、が……)
追い求めてきた瞬間を前に、喉の渇きと緊張が戻ってくる。
少年はこちらに背を向けていて、その表情は見えない。
焦れた俺は、ほとんど反射的に少年に近付こうと足を踏み出して、
「――お兄様!」
一瞬で、その必要がなくなったことを悟る。
少年が向かっていた邸宅から、十歳くらいの少女が駆けてくる。
一度も見たことのない、けれど知っているその顔を見た瞬間、
「「――リンダ」」
俺と少年の口から、期せずして同時に同じ言葉がこぼれた。
※ ※ ※
「おかえりなさい、お兄様!」
「ただいま、リンダ」
少女が飛びつくように少年の胸に飛び込み、苦笑した少年が、それを受け入れる。
夕焼けに赤く染まる空の下、抱き合う二人の顔はよく見えない。
だが、それでも彼らが笑顔を浮かべているのがはっきりと分かるほど、それは幸せな光景だった。
そして、俺は……。
(そういうこと、かよ)
……俺は、その場を動けなかった。
ただ仲睦まじい兄妹が楽しそうに話すその光景を、ただじっと、身じろぎもせずに眺めていた。
「あの、レクスさん? お話を聞くのでしたら、今のうちに……」
動きを見せない俺を見かねたのか、控えめに声をかけてくるリリーに、俺は首を横に振る。
「……いや。もう、十分だ」
「でも……!」
この光景を、無粋な真似で壊したくないという気持ちもある。
だが、それを抜きにしても、俺の「目」はすでに仕事を終えていた。
――――――――――
サーク
LV 1
HP 56
MP 46
筋力 18(E+)
生命 12(E)
魔力 30(D-)
精神 24(E+)
敏捷 24(E+)
集中 12(E)
能力合計 120
ランク合計 17
――――――――――
言葉で何も言わずとも、〈看破〉によって見えた少年のステータスが、全ての真実を語る。
ここから算出される少年の能力上昇値は合計で二十。
「主人公」の能力上昇値は、素質値だけで最低二十五。
つまり……。
(――あの少年、《捧げられた闇の御子》も「主人公」じゃない)
小さく、ふぅと息を吐き出す。
期待があっただけに、全く落胆しなかったと言えばウソになる。
ただ、これで考えはまとまった。
ちらり、と横を見る。
「師匠?」
俺を見て、不思議そうに首を傾げる男装の剣士フィン。
見るからにイレギュラーな彼女の存在には、俺も散々惑わされた。
だが、今日一日の検証で、ようやく確証が持てた。
おそらくフィンは、「主人公」でもなければ、ゲームが現実化したことによってゲームの展開から外れたキャラクターでもない。
――最初から「仲間になるNPC」として設計された、DLCの追加要素だ。
な、なんだってー! ということで、長くなったので解説は次回!
ネット見てて気付いただけなんで詳細は把握してないんですが、今またコミックウォーカーさんとニコニコ静画さんで漫画版の一部無料公開やってるっぽいですね
昔のは細切れ公開が想像以上に細切れで読みにくかったですけど、今回かなりまとまっての公開なので読んでない方はこの機会にどうぞ!
まあ、原作者的にはそんな面倒なことせずにamaz〇n辺りで単行本ポチってもらった方が¥嬉しい¥んですけどね!!





